異世界チームVS戦乙女聖騎士団③
『始めい!!!』
ミラン兵長の合図と共に、場に緊張が走る。
「うーん、まだ次鋒なんだよねー、さっきの松岡くんだっけ?中々強かったよねー、うん」
「私は負けないからね!」
「あはは、それ受け狙いー?」
セレナが走り出し、戦闘が始まる。そういえば刑部さんの能力って見たことなかったな。どんなものなのやら。
セレナは両手に持った短刀を用いてしっかりと距離を取っている。刑部さんも能力は分からないが攻めあぐねているようだ。ちなみに刑部さんも一本の短刀を使っている。
「そもそもさー、僕たちじゃあ圧倒的に差があると思うんだよねー」
「…どういうこと?」
「だってほら、身体能力とかさ、君たちを見てても全体的にトロいんだもん」
「私たちがいた世界はあなたたちと違って戦いなんてなかったからね」
「じゃーもう結果分かってるよね?なにも抵抗せず終わろうよー、ね?」
「…っ!なにもしないままやられるわけにはいけないでしょ!」
ふむ、なんというか…あのセレナとやらは俺たちのことを見下しているな。セレナに限らず、多分あの戦乙女聖騎士団の奴等はみんな。
少々勘に触るが、俺たちがアイツらみたいにトレーニングをしてるかと言えばほとんどがそうではないだろう。それは事実だ。
「ふぅん、まあいいけど…さっ!」
短刀を素早く突くセレナ。距離があったために避けることが出来ている。
「ねぇ松岡くん、優香ちゃん大丈夫かなぁ?」
「ん?そうだな、まあ大丈夫だろ!」
「ほんとに?私優香ちゃんが打ち合いしてるところあんまり見たことないんだけど…」
「刑部さんならそんなに勝ってなかった気がするな、シュン?」
「俺に聞くな、知らん」
「あれ、そういえばお前ら知らないのか」
「なにが?」
「あいつと俺が仲良くなった理由というか…出会い?」
「えー、私知らないかも…」
「知りたいな」
「興味ない」
お前らの出会いなんてどうでもいいんだよ。勝手に出会って勝手に結婚しろバカ。
「あれだけ距離があったのにギリギリで避けてたねー?次は当たるんじゃないー?」
「ふん…今のは距離感を確かめてたの。次はいける」
「ふーん、でも避けるだけじゃ勝てないよー」
セレナがジリジリと刑部さんに近付き、距離を詰めていく。刑部さんは睨むだけで距離を取ろうとはしない。なにか策でもあるのか?
「しっ!」
セレナが短刀を突き出す。スレスレで避わす刑部さん。
────そして、セレナの体が浮いた。
「カハッッ!?」
「見下すのも大概にしてよね」
「「「「うぉぉぉぉおお!!!」」」」
「なにっ!?なになに!?優香ちゃんは今何をしたのっ!?」
「俺と優香の出会いはな、武術関連なんだよ。俺はボクシング。あいつは…」
「なにをっ…はぁ…したのかなぁ~?」
追い討ちを受けないように素早く立ち上がるセレナ。その表情は驚きと焦りの両方が伺える。
「セレナさん。あなたはさっき身体能力とかさっき言ってたけど、別に全員が全員そうじゃないのよ。あなたたちがトレーニングをし、培ってきた技術があるように、私たちも技術があるの」
「なに…かな?」
「私の技術は──」
「優香の習っている武術は──」
「「『合気道』」」
「あい…きどう?」
なるほどな、合気道か。
合気道とは日本古来の武術で、空手や柔道、剣道に並ぶほどの物である。
合気道の特徴は、『合気』というだけあり、相手の『気』に合わせることが挙げられる。先程セレナが浮いたのは、突かれた力の『気』を利用し、そのまま投げたのだ。
合気道の基本型は『受け』であり、相手の力を利用し制することを可能にしている。今のは見事な投げだった。セレナの息が荒かったのは多分、投げられた衝撃で肺の空気が抜けたのだろう。よほどきれいに投げなければそんなことにはならないからな。
「合気道は元々私たちのような女性が戦うために作られた武術で『少よく大を制す』という言葉を教えられるの。確かにこっちから攻撃したりするのは難しいけど、受けなら見切るだけでいいの。多少の身体能力の差は大きな戦力差にはならないわ」
「ほう…かっこいいな、刑部さん」
「だろう?自慢の彼女だ!」
「でもなんで優香ちゃんって打ち合いの時にはあまり勝ってなかったのかな?」
「それはあれだろ。俺たちは派手な能力が多いからあんな風に近くまで来たり、わざわざ腕を突き出すような動作が無かったからだろうな。でも、相手の武器が短刀なら話は別だ」
「そっか、短刀なら突きだしたり切りつけたりするのに近づかなきゃいけないもんね」
「そういうことだ」
「宮坂って意外と見るとこを見てるんだな。俺ビックリだ!」
「『見る』ことに関してはこの世界に来てから得意になったんだよ」
とりあえず、もうあれでセレナは近付くことを恐れるだろう。
「異世界の武術…恐ろしいね」
「あれ、語尾を伸ばすこと忘れてるよ?もしかしてキャラ作りだったのかなー?」
「ぼ、僕の真似をしないでくれるかなー?調子に乗られても困るよー、もうその技は見切ったからねー」
「へぇ、じゃあさっさと掛かってきてよ」
「言われなくても…ね!」
煽りあいが続く。セレナが踏み込むと刑部さんはさっきと同じように軽く構える。
「しっ!しっ!」
突かれる短刀。あまりにも早く突きを引くために刑部さんは掴めないでいる。力を利用するには相手が突く力を用いるが、すぐに引かれれば力は分散されて投げるには至らない。
「どうしたのかなー?さっきみたいに投げられないのー?」
「そういえば言ってなかったけど、別に合気道が私の能力ってわけじゃあないのよ?」
「えっ?」
瞬間、刑部さんの体がブレる。そしてそこに居たのは───
「それは…」
「これが私の能力。『ダブル』よ」
刑部さんが、二人いる。同じ背格好の人物が二人並んでいるのだ。
「優香ちゃん、あんな能力持ってたんだね!」
「誰にも見せるつもりはなかったみたいだけどな!大事なときに使いたいって!」
「それが今って思ってくれてるのか、なんだか嬉しいな」
「ダブル…か。数的な有利は強いぞ」
異なる動作をするダブルだ。完全に二人と戦っているのと変わらない。そして二人とも合気道の達人。これはセレナの方が負けたかもしれないな。
「「はあぁぁぁっ!」」
分身も本体も同時に攻撃する。短刀を振り回したり、隙があれば投げに入ろうとしたりなど、合気道だけではなく、攻めにも転じている。
「くっ…」
セレナも苦痛の表情で受けている。これは時間の問題か?と、セレナが距離をとり、間が開く。
「はぁ…はぁ…これ以上長引かせても意味がないから…もう終わらせようかなー」
「「あなたに出来る?私たちを倒すことが!」」
「ふふっ、出来るかもねー…てうわっ!?」
二人が距離を詰める。と、セレナがつまづいたように体制を崩す。好機とばかりに二人で攻撃する刑部さん。
「「残念だったね!これで終わりっ!」」
短刀がセレナの体を突き刺す。
「「…っ!?」」
が、しかしセレナは全く動じない。まるで当たっていないように…いや、当たってないのだ。短刀がするりとすり抜けている。反対にセレナの短刀が刑部さんの首を突いていた。
松岡の時と同じだ。何故か短刀が体をすり抜けている。
「僕と似ているね、その能力。僕よりも君の能力の方が数倍も強いと思うけどね」
「な…なに…」
『しょ、勝負ありぃぃぃぃっ!!刑部優香の能力も空しく!セレナの能力に翻弄され首を突かれてしまったぁぁぁ!!』
「もうわかったと思うけど、私の能力は分身する能力。でも君みたいに動かすことどころか、触ることすら出来ないけどねー。突かれる瞬間に分身を残して、カウンターを狙ったんだー」
「…私の負けね。ありがとう」
「もし君がずっと受けに徹してたら、負けたのは私だったかもしれないからねー。良い勝負だったよ。見下してたのも謝ってあげる」
「謝ってあげるってそれ、まだ見下してるでしょ?」
両者笑いながら握手をする。結果は残念だが、能力の正体も分かったことだし中堅の結城さんがどうにかしてくれるだろう。俺の番まで来ないことを願うよ。
「ごめんなさい!みんな!負けちゃった…」
「ううん!良い勝負だったよ!優香ちゃん!惜しかったね!私が敵を絶対に取ってくるから!」
「お疲れ様、刑部さん。ダブルって能力だったんだな、カッコいいと思うよ」
「俺もその能力がほしいぜ!!」
「あんまり使うつもりはなかったんだけどね…あはは」
刑部さんの健闘を労うみんな。まあ俺はそんなことをすることもなく、相手チームの様子を見ておく。
セレナの次は確か、『ローリー』とかいう奴で、大将は『ニア』という奴。ここからでは能力の確認が出来ないが…まあユウトがどうにかするだろ。
「じゃあ私行ってくるね!」
「ファイト!結城さん!」
「お願い!勝ってきてね美郷ちゃん!」
「落ち着いて戦うんだ、結城さん」
「ありがとう!みんな!」
……………えっ、なに?俺も言わなきゃダメ?なんで結城さんは俺のことをじっと見てるの?なんで松岡やユウトも俺を見るの?
「………はいはい、言いますよ。結城さん、正直俺から言えることもないが、自信を持て。自分が出来ると思ったら実行するんだ。結城さんは強い、それは誰もがそう思ってる。だから、自信を持て」
「自信を持て………うん!分かった!頑張ってくるね!」
はぁ………これで良いんだろ、ったく。
合気道もボクシングも知識がないので間違ってても許してください。てへぺろっ
あ、ブクマが着々と増えていっています。ありがとうございます!これも読者様のおかげです。
これからもブクマ、評価お待ちしておりまーす!作者はチョロいんですぐやる気だします。はい。




