異世界チームVS戦乙女聖騎士団②
「やるわねぇ、坊や。お姉さんびっくりだぁ」
「…ごくり」
「うふふ、どうしたのかしらぁ?」
うっわぁ…なんだあのデカイ胸は。あの白銀の鎧が強調する役割になってしまっている。流石の松岡もあのダイナマイトには生唾を飲み込んだ。
「ちょっと!イツキに手を出したら許さないですのよ!?」
「敗者は黙るのが掟よ?あなた、戦場で死んでも喋れるのぉ?」
「ムキー!イツキ!そんなやつさっさと倒しちゃいなさい!」
「女の戦いだねー」
「ローリーもなにか言っちゃいなさい!」
「僕はいいよー」
あっちは盛り上がってんなぁ。こっちはこっちでうるさいしな。
「ねえ美郷ちゃん!私の彼氏が取られそうなんだけど!」
「う、うん…凄いよねあの大きさ…」
「そこじゃないけど!?」
「し、シュン?ああいう女に騙されちゃダメだからな?」
「オカンか、殺すぞ」
「イルさんのように誠実で謙虚な女の子が良いよな…」
「は?なんでそこでイルが出てくる」
誠実?謙虚?おいおい、お前はいつから日本語が下手になった?辞書でも引いとけ。あれに当てはまる言葉は変態か痴女しかない。
『良いかぁ!?始めるぞ!!両者!位置につけぇ!』
「お姉さんが可愛がってあげるからね」
「ま…負けないっす…っ!」
「なに敬語になってんのよ一樹くん!!」
『ご、ゴホン!えーっ、それでは!先鋒松岡一樹VS次鋒ユーナ…勝負……始めぇい!!!』
「「「「わぁぁぁぁぁあ!!!!」」」」
怒号のような開始宣言と共に、会場が盛り上がる。
さて、松岡は『気』の能力がバレている。先程の試合で射程距離やカウンターの対処は考えられているだろう。
なるほど、生き残り戦か。確かに戦場じゃあ休みなんてないし、能力がバレていても不思議じゃあない。中々理に叶った練習試合かもしれない。
「うふふ、いくわよぉ!」
「か、かかってこい!」
あ、おいおい。あいつちょっと怖じ気付いてるのか?
「うふふふふ」
「…っ」
じりじりと近付いていくユーナ。しかし松岡は何故か動かない。
「どうしたのぉ?もしかして、怯えてるのぉ?」
「…な、なにをした?」
どういうことだ?あの様子…動かないんじゃなくて動けないのか?
「闘技『蛇にらみ』よぉ」
「出ましたわね!ユーナの闘技!蛇にらみ!あれで睨まれると相手は恐怖で動けないんですわ!」
あいつはバカか。なぜ手の内を晒す。まあ情報量は少ないし、どうにもならないかもしれないけど。
「ほらほらほらほら!これでどう!」
「うぐっぐぁっ…うっ!?」
動けない松岡の体に蹴りや拳を入れるユーナ。松岡はなんとかガードをしようともがくが上手く動けないようだ。
「ちょ、ちょっと!なんなのよあれ!?あんなの反則じゃない!?」
「ゆ、優香ちゃん!落ち着いて!」
「蛇にらみ、対処法が分からないな」
「シュンでさえ分からないのか!?それじゃあもう…」
「諦めんなバカ」
なんで基準が俺なんだよ。あいつは俺よりも根性もあるし強さもある。お前が思ってるよりあいつは強いよ。
「あははははははっ!!どう!?これがいいの!?これがいいのぉっ!?」
「うぐあっ!!?」
思い切り蹴られ、吹き飛ぶ松岡。おいアイツ、『戦乙女聖騎士団』って名前の隊に入ってちゃダメだろ。どこが乙女だ。完全にドSじゃねえか。
「はぁ…っ!はぁ…っ!」
流石にもう無理か。ジェシカ戦の疲労も残っているし、あの呪縛を解くことは出来んだろう。
「負けないで!一樹くん!!」
「優香…」
「思い出して!あのときの大会を!!」
は?おい待て、急に何を言い出すんだ。
「あの大会…?はっ!あの時の全国大会決勝か!?」
「そう!あの『マケフォイ=カツフォイ』さんと戦ったときを思い出して!」
「あぁ、アイツか……そう、あれは俺が中学最後の全国大会のことだった────」
「いや回想には行かせねえよ?興味ねえし」
「「えぇっ!」」
「シュン…そこは流石に時間をくれてやれよ…」
「おいおい、戦場でそんな時間があるとでも?」
「シュンくん…結構マイペースだよね…」
いや知らねえよ。そんなことより、前見ろ前。
「もう良いかしら?」
「…あぁ、もういいぜ」
「じゃあ、すぐ終わりにしてあげる!!」
「わざわざ待っててくれたのか、良いやつだなあのユーナって名前の人」
「あのプリキ○アとかの変身シーンってやっぱり待ってあげてるのかな?」
「そういうこと考えるのは無粋だよ、シュン」
「なんで俺だけ?結城さんは?」
と、適当にくっちゃべっていると、松岡が急に笑い出す。
「あっははははは!!あいつら俺の気も知らねえで笑ってやがる!!」
「気でも狂ったか?ほら、早く負けて帰ってこい、松岡」
「いいや、負けないね!俺はこういう時に怯えるような質じゃあないからな!!」
「なにっ!?」
「行くぜ!ユーナさん!」
「…っ!闘技!『蛇にらみ』!」
あ、また使われた。
「効かないね!彼女や友達の前で負けるなんてこと俺には出来ないからさ!!」
「一樹くん!!」
「一樹…」
「松岡くん!」
「えっ?なに?そういう流れ?頑張れー松岡ー」
「宮坂!もっと熱を込めて応援してくれ!」
ユーナの闘技?の効果も空しく、なぜか動ける松岡は、気弾を打ち込んだり、素早く懐に入ってフックを繰り出したりと、順調に攻めていった。
「な…なんでユーナの蛇にらみが効かないんですの?」
「うーん…あの一樹って子は多分だけど、恐怖を感じにくい体質なのかもねー」
「そんなことがあるんですの?」
「最初は疲労からの精神ダメージがあったんだろうけど、さっきの異世界チーム?との話で気を取り直したんだねー」
恐怖を感じにくい…か。なるほど、思い出した。アイツの称号を。
アイツの称号のひとつ。『獅子奮迅』だ。戦闘中に怯えることがなくなるっていう効果だったはずだ。運が悪かったな、ユーナ。相性が悪すぎた。さっさととどめを指しておけば勝っていたものを。S心でいたぶったから負けたんだ。
「ここだぁっ!!」
「ごふっ!?」
顎に綺麗なアッパーカットが決まった。軽く浮くユーナ。そのまま倒れて動かなくなった。脳震盪による気絶だな。
「流石一樹くん!」
「流石私のイツキですわ!!」
「は?…さすが私だけの一樹くんっ!!!」
「なんですの?」
「なによ?」
「「はぁぁあん!?」」
はぁ…なんだこれ。
『気絶確認中!……む?なになに?よし、分かった!気絶を確認した!次鋒もなんと!異世界チームの松岡一樹が勝利ぃぃぃぃっ!!!』
「「「「わぁぁぁぁぁああああぁあ!!」」」」
ほう、本当に意外だった。まさか二人抜きするとはな。
「よし!今調子が良い!ミラン兵長!早く次の相手を!」
『うむ!分かっている!』
「はいはーい、僕が次の相手だよー」
『よし!両者!配置につけぇい!!!次の勝負は!先鋒松岡一樹VS中堅セレナだぁぁ!!』
「「「「いええぇぇぇいい!!!」」」」
「次も負けないぜ!」
「僕も負けられないなー。これ以上『戦乙女聖騎士団』の名前を汚すわけにはいかないよー」
なんとも気の抜けた喋り方をする女だ。本気でそう思ってるのか疑問になるほどに。
『いよぉぉぉし!!始めるぞ!?準備は良いなぁ!!いくぞぉ!!始めぇぇえ!!!』
「よっし!さっさと終わらせてやる!」
「はいはーい、僕も同じこと言おうとしてたー」
松岡はいつも通りダッシュで懐へ入り込んでいく。
「ダメだよー、そんな猪突猛進に走ってきちゃあ」
「なっ!?」
セレナは両手に持った短い木刀を華麗に振る。まるで『ここから先には入ってこさせない』と言っているようだ。
入る隙を伺う松岡だが、一向に入り込む様子はない。隙が全くないのだろう。
「どうしたのー?攻めてこないのー?」
「くっ…」
悔しそうにすることしか出来ないようだ。
と、セレナの両手の動きが止まる。
「よし!ここだぁっ!!」
が、確実に入ったはずの拳がセレナの体を通り抜ける。
「なっ!?」
「はい、おしまい」
トンっと首に当てられる短刀。なるほど…そういうことか。
『しょ、勝者は戦乙女聖騎士団のセレナぁぁぁ!!!』
「「「「わああぁぁぁあい!」」」」
「す、すまねぇ…負けちゃった…」
「ううん!凄いよ松岡くん!ね!?優香ちゃん!」
「私の彼氏だからね!…良く頑張ったね…」
「うおおぉぉ!優香ぁぁぁ!!」
「ちょっ!ちょっと!私次だから!ほら!離して!」
「カーっペッ」
「シュン?タンを飛ばしちゃダメだ」
けっ、羨ましいこった。イチャコライチャコラ…いい加減飽きないのか?
「私が一樹くんの仕返しをしてくる!」
「頑張れ!優香ちゃん!」
「応援してるぞ!優香!」
「頑張ってね、刑部さん」
「ガンバれ」
「ありがとう!みんな!」
『よし!!両者とも位置についたな!?では始めるぞ!!次鋒刑部優香VS中堅セレナ!!始めい!!!』
「「「「フーフーーーーッ!!!」」」」
観客うるせえな。




