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異世界チームVS戦乙女聖騎士団①

 特訓場から場所を移し、現在地は特訓場の反対にある試合会場。ここは一般公開もされている場で、ステージを中心に円形で席が並べられている。


「頑張ってね!松岡くん!」

「応援してるぞ!一樹!」

「頑張って、松岡…一樹くん」

「おぉ!優香!今俺のことを名前で読んでくれたのかー!?」

「い、良いから行ってきなさい!」

「おう!頑張ってくる!」


 おい誰だ試合前にイチャコラしてるやつは。なんだお前、眼前の試合に集中しろや。お前は戦いをなんだと思っているんだ。


「ちっ!…負けんなよ」

「宮坂!俺が負けたときは頼むぜ!」

「負けたときのことを考えるな。相手を『観察』しろよ。情報は武器になる」

「ん?わかった!ありがとう!」


 絶対分かってないだろアイツ…


 と、ベンチから出ていく松岡を送り出すと、相手側からもえっと…そう、『ジェシカ』が現れる。綺麗な金髪をクルクルと巻いているみたいだ。

 だがあれはすれ違ったやつとは違うな。あんなでかい髪はあの兜には入りきらない。


「ふふん!逃げなかっただけ評価致しますわ!」

「お?そうか!ありがとう!」

「皮肉ですのに…良いですわ!そっちがその気なら全力で潰して差し上げますわ!」

「ははっ!威勢がいいな?俺も負けないぞ!」


『いよぉぉぉし!!お前らぁ!準備は良いかぁッッ!?』


「うるっさ」

「あ、ミランさんだ。あれは…マイクかな?」

「確か『拡声石』じゃなかったかな?あの魔石を通して声を出すと反響するらしい」

「へぇ、メガホンみたいな感じ?」

「あのバカデカイ声を反響させる意味があるのか?ないだろ」

「「「確かに」」」


 無駄にうるさい声が更に無駄にうるさくなっただけである。


『ではこれより!団体生き残り戦を始める!!長ったらしい前置きは抜きだ!両者!準備は良いなぁ!?』


「はいですわ!」

「はい!」


『よし!!位置につけ!これは異世界VS我らが世界の勝負と言っても過言ではない!どちらが勝つか!賭けはお手元のボックスを活用ください!では!始めぇ!』


「「「「わぁぁああああ!!!ヒューヒュー!!」」」」


「おいあいつ儲けようとしてるぞ」

「ミラン兵長は賭け事とかやるんだな…」

「お、お金は大事だから…ね?優香ちゃん?」

「うんうん、私たちが賭け事に使われるのはちょっと腹が立つけどね」

「その分ギャラが貰えるかもしれないぞ?」

「私頑張る!」

「意外と現金だよね、優香ちゃん」


 ほら、前を見ろ前を。試合が動くぞ。


 松岡は気による遠距離攻撃が出来る。対するジェシカはレイピアのような細剣を腰に持っている。これは見てわかるように近距離でしか戦えないということだ。距離的には松岡が有利か?


「女に手を出したくないけど勝負とあれば容赦出来ない!」

「ふん!女と思われて手加減されるなんて真っ平ごめんですわ!」


 松岡が気弾を飛ばす。かなりの数を撃っている。こいつはバカだ。


 そして流石『戦乙女(ワルキューレ)聖騎士団』。国お抱えの隊なだけあって簡単に避ける。


「しまった!」


 バカ…あいつ、自分の撃った気弾による砂煙でジェシカを見失った。

 簡単に後ろに回られる松岡。鋭く突かれるその突きは、松岡の背中をぐさりと突き刺す…


 ことはなかった。


「へへっ、気ってのは()()()()()、感じられるんだぜ!」

「ちぃっ!ですわ!」


 『気』。よく漫画で使われる能力を指し示すような言葉だが、便利なもんだな。なにかとあれば気だと言って説明がつく。あいつも化けもんだよ。


 相変わらず、気弾を撃っては避け、避けては突き刺し、と攻防が続くがどちらも致命的なダメージは与えられていない。早く、()()()


「どうしたんだ?さっきから俺に攻撃が当たってないぞ?」

「あらあら、安い挑発ですわ。そちらの方こそさっきから遠距離からチマチマチマチマ…女々しいといったらないですわね」

「なにをぅ!?」


 あっ、バカあいつ。気付いているのか?


 突っ込んだ松岡はブローを繰り出そうとして右手を振り上げる。


「ふふん!」


 勝ち誇ったように笑うジェシカ。松岡のテレフォンパンチを見切ったと言わんばかりにドヤ顔で突きを繰り出す。


「あっ!!」

「一樹!危ない!」

「……一樹くん!」



「心配するなお前ら、あいつはあれでも『ボクサー』だったんだぞ?」

「へへっ!分かってんじゃねえか宮坂!」


 やっと分かったか。お前はボクサーで全国でも優勝経験があるとか言っていたな。それならば反射神経はあいつらよりもあるはずだ。なら、()()を狙うしないよな。


 わざわざボクサーが見え見えのブローをするわけがない。当たり前だろう?『カウンター』狙いだ。相手は明らかにこちらを見下している。そして自分の方が強いというその『自信』。結果は簡単だ。


「いよしゃぁぁあ!」

「いっっつ!?」


すばやいフットワークで突きを避け、がら空きの脇腹を拳が打つ。おぉおぉ、容赦がないな。


「やっと一手打てたって感じだな」

「ぐっ…ただの猿じゃなさそうですわね…」


 クリーンヒットしたように見えたが、上手く身を反らしたようで入りきらなかったようだ。惜しいな、思った以上だ。あれは入ったと思ったんだが…


「もう二度は通じませんわよ!」

「へへっ!どうかな!」


またもや突っ込む松岡。


 松岡は俗にいう、『インファイター』だ。アウトボクサーとは違い、あまりジャブなどで攻撃するのではなく懐に入り一撃必殺の如く叩き込むことを戦法としている。


 先の動きからしてその抜群の反射神経は並みのもんじゃあない。それに加えて気の察知が出来るようになっている。現実世界なら本当に世界のトップに詰められるだろう。


「な、なんですのその動きは!?読めませんわ!!」

「これがジャック・デンプシーが編み出した技!『デンプシーロール』だ!」


 ほぉ、あれはじめの第一歩で見たな。


 上半身を『∞』の字になるように動かし、勢いに乗ったところで重心のかかったフックを繰り出すという技だ。ただ、難点を上げるとすれば…


「どうだ!このまま勢いに任せて終わらせてや」

「ここですわ!」


 あ…


「うぐぁっ!」

「隙だらけですわよ」


 あーあ、やられちゃった。


 そう、この『デンプシーロール』。実は今ではほぼ使われていない技術なのである。その理由は簡単、カウンターを狙われやすいのだ。さっきドヤ顔でしたカウンターを、相手にやり返されてしまったな。


 やってることはただの振り子運動なので、それに合わせて突きがやってくると前重心であった体は避けようとしても追い付かない。木刀が鋭く腹を突き刺した。


「くっ!やっぱり漫画で見ただけの技は見よう見まねじゃ出来ないか!」

「意味の分からないことを!」


 あいつ、見よう見まねであんな完成度のもんをしたのか。意外と形になってたからビックリだ。ていうか松岡も『はじめの第一歩』見てたんだな。


「どちらもダメージが入ってきたな」

「どうだ、シュン…どちらが勝てると思う?」

「こればっかりは分からんな」

「頑張って!松岡くん!」

「が、頑張れ~…」


 声が小さい刑部さん。声をあげるのが恥ずかしいのか。


 勝負はどんどん加速していき、二人とも足を止めず戦闘を進めて行っている。これは…


「はぁ…っ!はぁ…っ!」

「ふぅ…ふふん!私よりも息が切れてらっしゃいますわよ!」

「はぁ…あぶなっ!!」


 一撃必殺を売りにしている松岡は、体力をそこまでつけていなかったらしい。もちろん俺たちよりもあるとは思うが、相手であるジェシカはどんな体力トレーニングを行ってるのか、息は荒いが切れている様子はない。


「そろそろ終わりにして差し上げますわ!」

「そ、そうはいかないぞ!」

「猿にしては…いえもう猿とは呼べませんわね!やりますわねあなた!名前はなんて言うんですの!?」

「松岡、松岡一樹だ!」

「イツキ…ですわね!今度もまた戦いましょう!」

「俺の敗けで話を進めないでくれよ!」


 まだまだ二人とも威勢は十分。しかし、どちらも疲労困憊である。あと一発いれれば勝ちだ。


「私にだって能力はありますのよ!」

「なに!?」

「行きますわよ!闘技『砂嵐』!」

「砂…っ!!」


 闘技だと?剣を回転させてその風圧で砂嵐が…


 いやなんだそれ。あり得ないだろ。


「風魔法ですわ!」

「魔法なのかよ!」


 闘技ってなんなんだよ結局。

 砂嵐に巻き込まれ、前が見えず踏ん張ることしか出来ない松岡。そこに剣で突きを繰り出す。


「気を感じろ!俺ぇ!」

「遅いですわ!」


「頑張って!一樹くん!!」


 隣から飛び出すように叫ぶ刑部さん。


「おぉ!優香ぁ!!俺は負けねえぞ!!!」

「無駄ですわ!これでとどめですの!」


 カキンッ!!と音がなり松岡の腹を突き刺すジェシカ。


「終わったのか…?」

「松岡くん!?」

「あぁっ!一樹くん!!」

「……ふむ」



 カキン?そんな音が鳴るわけがない。鎧を着てるわけでもない腹を木刀で突かれても鳴る音なんて『ドスッ』が良いとこだ。


「気ってのは(まと)めたら鎧になるんだなぁ!良いこと知ったぁ!!」

「はぁっ!?なんですのっ!?」

「これが!俺のカウンターだぁぁ!!!」

「きゃぁああ!」


 いやもう受けたあとだからカウンターとも言えないけどな。

 まさかそんなことが出来るとは思わなかった。あの気弾とかを体に纏うようにすれば、空気の層のような鎧が出来るようだ。それを自慢の反射神経で腹に来た突きを見て気を纏ったらしい。


 そのまま押し倒して腰に持っていた小さい木刀を首もとに押し付ける松岡。


 試合終了だ。長かったな。


『き…決まったぁぁあ!!『気』という謎のオーラを用いて勝利を納めたのは!異世界チームの…松岡一樹だぁぁぁぁあ!!!』

「「「「おおおぉぉぉぉおおおお!!!!」」」」


「よしっ!やったな!」

「やったぁぁぁ!!やったね優香ちゃん!」

「うんっ!うんっ!!」


「よっしゃああ!勝ったぜ!!」

「やりますわね…イツキ…私、生まれて初めて押し倒されましたわ」

「えっ」


 倒れたジェシカを持ち上げ、立たせると同時に硬直する松岡。はぁ、なーんか見たことある展開だ。


「きっとこれは運命ですわ!私!イツキと結婚しますわ!」

「ぇぇえええ!」


「フーフー!!」

「きゃぁぁあ!!!」

「うおぉぉー!羨ましいぞこのやろー!!」


 外野からのヤジが凄い。そして飛び出しそうというか、実際に飛び出していく刑部さん。


「いやちょっと!い、一樹くんは私の彼氏だから!」

「あらあなた、誰ですの?」

「優香!」

「ユーカ?」

「一樹くんは私の彼氏だから!あなたには渡しません!」

「あらあら!私の方が胸もありますし、美しいですわ!そうですわよね?イツキ?」

「いやぁははは!困ったなぁ!」

「なんで笑ってるの一樹くん!」


 イチャコラしやがって、早く次の試合始めろや。


『えー…良いかな君たち?』

「あ、すみません!ほら、優香もジェシカさんも帰らないと!」

「あとで会いましょうね、イツキ!」

「一樹くん!!ダメだよ!!」


『えー、では!続きまして松岡一樹VSユーナ!』


「そういえば生き残りだったな」

「松岡…かなり消耗してるはずだ、大丈夫か?」

「頑張って松岡くん!あ、おかえり優香ちゃん」

「はぁ…なんか知らないところでライバルが出来たんだけど…」


 とりあえず、松岡はシね。


しばらく戦いが続きます。

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