魔神の能力
「とりあえず正座」
「はい♪」
「なんで嬉しそうなんだ…」
朝目が覚めると俺の上に跨がっていたイルを張り倒して床に座らせる。
「なあ、俺がなんでキレてるか分かる?」
「服を脱いでないことですかね?」
「服を脱いでないことですかね?じゃねえよ。なんだその名言。一生聞きたくないわ」
手を唇に当て思索するように首をかしげるイルの頭を軽く叩く。
「というか、だ。そこまでお前が愛してやまないその『魔神』ってのはどういう存在なんだ?」
「全てを克服し超越する神でございます!」
「はぁ…?で、その魔神とやらは今どこにいる?」
「今私の目の前にっ!!」
「いやそういう話じゃなくて」
「魔神様は、数百年前に召喚された勇者によって封印されてしまいました…」
「この世界には召喚されるものが多いんだな」
「その勇者はどんなものでも封印する『永久回廊』とどんな能力を封印する『永久黙殺』を使って魔神様を……っ!」
「えらく中二病臭くなったな」
エターナル大好きか。当て字読みをやめなさい。
「それで、魔神の能力は?」
「魔神様の能力ですか?そうですね、一言で申し上げますと『理解』ですね」
「理解?」
「はい、どんな事象も全て『理解』することが出来るという能力です」
「理解だけじゃ分からん。具体的に教えろ」
理解…分解すると『理を解く』となるが…
「はい、理解というのはつまり『その事象の全てを知る』ことができるのです。それは例えばご主人様のように相手の能力を読み取ることや、先日結城様の技を見切ったときのように」
「あれはやっぱりこの義眼のお陰だったのか。あとお前、分かってたが俺を監視してたんだな」
「人間界の観察が今の私の使命ですから」
「それ人間である俺にいっていいのか?」
「ご主人様は魔神ですから」
「だから俺は人間だと……はぁ、もういい」
相手の能力を読み取ったり技を見切れる能力ね。良い能力だが、攻撃方法がないのがネックかもしれないな。
「しかし魔神様の本懐はそこではありません」
「なに?」
「魔神様は能力を『理解』するとそれをそのまま『コピー』することが出来るのです」
「は?」
「自分は相手の技を見切り、全て避けることが出来ますが相手は能力を把握された上に自分の技をそのまま返される、ということになりますね」
「なんだそれ…」
魔神を倒したという勇者はクソチート野郎かと思ったが、魔神も十分クソチートだな。どうやって勝てば良いんだって感じだ。
「ご主人様は今、その能力が開化…いえ開眼しそうになっていますね。これから更にその『魔神の義眼』は進化すると思います」
「それ、俺も勇者に狙われるとかないよな?」
「………きっとありませんよ」
「おい今の間はなんだ、今の間は」
「…狙われても返り討ちにすればいいのです!」
「俺は今狙われないかを聞いているんだ!狙われたときの対処法なんて聞いてないんだよ!!」
おいおい、マジにやべぇやつじゃねえか?このカラーコンタクトがあるからまだ分からないと思うが、いつバレるか怖くて表も歩けねえぞ。
「ご主人様、教えましたので…どうか、私にご褒美を…っ!」
「………何がほしい?」
「ご主人様の…はぁぁ…下着を…はあはあ…一枚っっ!!」
「俺が帰ってくるまでそこに座ってろ。一切動くな」
「あぁ!ひどいご主人様ぁ!うぅ…嬉しい」
ヤバイやばい、俺のメイドがヤバすぎてまともに寝れないのだが。
退避するように部屋を出ると、丁度部屋の前にユウトが居た。
「あ、ユウトか。おはよう」
「えっ!うぁわ!…お、おはようシュン…」
「なんだその慌てようは」
「い、いやぁ…そういえばあれだな!良い天気だな!」
「は?どうした?爽やかになりすぎて頭がスカスカになったか?」
変な挙動のユウトを置いて特訓場へ歩いていく。
と、そこへ白銀の鎧を着た兵士とすれ違う。すれ違う瞬間、ふと香る良い匂いに女性だと気付く。中に入っている人物は見えないが、一瞬覗いたあの金髪は多分、女性のものだろう。
「ま、待てよシュン!」
「あ?ったく、早く来いよ」
「う、うん」
相変わらず噛み噛みのユウトと共に特訓場へと辿り着く。すると何故か生徒たち皆が並んでおり、大台の上にミラン兵長が仁王立ちをしている。
「なんだあれ?」
「すぐ並んだ方が良いみたいだぞシュン!」
「あ、おい。だから手を引くなって」
ユウトと共に最後尾へと並ぶと、ミラン兵長が頷いて話を始める。
「えー、ではこれから我が国の中でも我が隊『ミラン特攻隊』と並ぶ、女性で構成された隊、『戦乙女聖騎士団』との合同訓練を始める!」
「「「「オオォォォォオー!!」」」」
「え、なにそれ聞いてない」
「あれ?知らないのか?あ、そうか。シュンは暫く何処かへ行ってたもんな」
「あぁ、なんだ『戦乙女聖騎士団』てのは。なんかのエロゲーにでも出てきそうだな?」
「え、えろ…っ。シュン!ダメだよ!昨日もイルさんと…あっ!」
「は?イルがどうした?ていうか今思ったらあれだな『ミラン特攻隊』なんていう隊だったんだな、ミラン兵長の隊は」
正直ダサいな。
「なにか言ったかね、宮坂少年!」
「……なんでもねっす」
なんで聞こえてんだよ、超人か?
「小さい頃から剣と歩んできた私たちが、こんな何処から来たかも分からない子供に負けるなんてありえませんわ」
「少し遊んであげましょう、ジェシカ」
「特訓にもならないかもねー」
「静かにしなさい、聞こえますよ」
聞こえてますよ。良い自信だ。戦場じゃあきっと、それぐらいの自信がなければ体がすくんでしまうのかもしれないな。
「ユウト」
「あぁ、シュン。なめられたままじゃいられないよな」
「当たり前だ。負けるなよ」
「シュンもな!」
「余裕だ」
あぁ、余裕で負けてやる。別に俺は勝ちたいとは思わないし、すぐ終わって早く部屋に戻りたい。そして寝たい。終わればすぐ寝れるだろ?
「練習試合として相手に参ったと言わせるか、もしくは首に木刀を突き付ければ勝利とする!異議があるやつはいるか!?」
「「「「……」」」」
別にそのルールで良いだろう。特に主張をする必要もない。さっさと始めて…
「はい!兵長!良いですか!?」
「む!君は光ヶ丘少年!いいだろう、なんだ!?」
「戦場では参ったと言っても通じないと思います!」
「確かに!では剣を突き付ける、もしくは相手が動けなくなった時点で終了とする!」
「有難うございます!」
おいなんで逃げ道を塞ぐ?なんでお前は『これで良いんだろ?』みたいな目でこっちを見る?これで参ったって言っても意味なくなったじゃねえか。
「それでは練習試合を始めるが、今回の練習試合は5対5の団体生き残り戦とする!」
「「「「団体生き残り戦?」」」」
「団体生き残り戦とは!戦ったとき勝った方はそのまま次の相手と戦い負けるまで続けて戦うことをいう!先に5人を倒した方を勝ちとする!これから1時間以内に出る戦士を5人決めてくれ!以上!」
「「「「なるほどー」」」」
仲良いなお前ら。
それよりも生き残り戦か。これはつまり俺は出なくても他に5人出させれば良いということ、だよな?よしよし、これで俺は部屋にもどれ───
「とりあえず俺とシュンが行くよ!」
「はいバカ!お前バカ!ほんとバカ!」
「さっき言われた分見返してやろうな!」
「はぁ…」
くそが、なんでこんなことに…いや待てよ?クラスのやつらが俺なんかが出ることに不満はないのか?だってほぼ会話したこともない得体の知れない奴だぞ?流石に俺が出ることに賛成のやつは…
「アイツ、宮坂だろ?いんじゃね?」
「ユウトくんがあぁ言ってるしねー」
「ふふ、俺の出番を譲ってやるか」
「おいお前足が震えてるぞ?」
「はいはーい!それで良いと思いまーす!」
「それあるー!」
え?なんで?俺で良いの?負けるよ?開始三秒で土下座するよ?
いや普通になんで俺なんだ?俺に信頼なんて…
「このまえシュンが結城さんに勝ったろ?結城さんって一応無敗だったからな?シュンと戦うまでは」
「え?」
「男子とも戦って無敗だった結城さんに勝ったシュンなら出る資格は十分にあるってみんな思ってるんだよ!やったな!」
「なん…だと?」
おいマジで…?うわ、他のやつらも納得したように頷いてやがる!おい!俺だぞ?いつもユウトにつきまとってる(と言われてる)嫌われものの俺だぞ?
「シュンくんも出るんだね!良いと思うよ!私も…良いかな?」
「結城さんか…伏兵がこんなところに…っ」
「あぁ良いよ。結城さんがいてくれるだけで凄い安心できる!」
「よし!なら俺も行くぜ!」
「一樹…!」
松岡、結城さん、ユウト、俺。あともう一人か。ちっ、なんでこんな美男美女の中に俺みたいな微妙なやつが入っちゃってるんだ。
「もう一人は…えっと…誰が良いかな?」
「「うーん…」」
「ちょーいちょいちょいちょい!オレっちを忘れてもらったら困るっしょ~!」
「あの、私良いかな?」
「刑部さん!良いよ良いよ!一緒にやろう!」
「優香、やろうぜ!」
「これで全員揃ったね!」
「どんまい、因幡」
「う…君は…宮本っち…」
「宮坂な」
可哀想だから同情してやったのに、こいつ、恩を仇で返しやがった。
数十分後、順番も決まり、ミラン兵長からメンバー表が発表される。
「いよぉぉぉし!!結果発表ぉぉぉおううう!!!」
「「「「わああああぁぁぁぁぁあああ!!!」」」」
うるっさ。
「では先鋒!『松岡一樹』VS『ジェシカ』!!」
「「「「わああああぁぁぁぁ!!」」」」
「やってやるぜ!」
「私の相手になれるなんて、光栄に思いなさい!」
「次鋒!『刑部優香』VS『ユーナ』!!」
「「「「わぁぁぁあああぁぁああ!」」」」
「負けないよ!」
「軽く捻ってあげる」
「中堅!『結城美郷』VS『セレナ』!!」
「「「「わあぁぁぁああああぁぁあああぁぁぁぁぁぁああ!!」」」」
「みんなのために勝つよ!」
「そんな気張らなくてもいいのにー」
「副将!『光ヶ丘裕翔』VS『ローリー』!!」
「「「「キヤァァァァアアアッッ!!!」」」」
「「「「きたぁぁぁぁぁあああああああ!!!!」」」」
「ありがとうみんな!オレ頑張るよ!」
「私も負けません」
「そぉぉおしてぇ!!!ラストバトル!大将!!!『宮坂駿』VS『ニア』!!!!!!」
「え、誰?」
「宮坂だろ?ほら、よく寝てたやつ」
「あいつ駿って名前だったの?」
「知らなかった~」
「おい」
「戦乙女の名に懸けて絶対に負けられない!」
うん、良いよ。順番は分かった。ただな?
「なんで俺が大将なんだよぉぉぉ!」
Mr.爽やか「じゃあみんな、誰が大将になる?」
マドンナ「私は誰でも良いよ?」
か○はめ波「じゃあユウトとかどうだ!?」
かめはめ波の奥さん、チチ「私は残ったやつで良いよ」
宮本「適当にしてくれ、俺は寝てるから」
Mr.爽やか「あ、シュン…そうだ、俺じゃなくてもシュンで良いんじゃないかな?」
マドンナ「うん!そうだね!私も悔しいけど負けちゃったし!」
かめは○波「そうか!じゃあ宮坂でいこう!」
チチ「おっけー!じゃあ私言いに行ってくるよ!」
三人「「「ありがとー!」」」
宮本「ぐぅ…」




