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義眼の変化

 時は(さかのぼ)り特訓終了後、何故か結城さんの部屋へと呼ばれ道中、兵士や女子の視線に苛まれつつ、結城さんの部屋の扉をノックする。


「入っていいよ」

「あぁ」


 ガチャリとドアを開けると、そこにはいつもの体操服の姿ではなくワンピース姿の私服の結城さんが居た。


「どうかな?」

「何が?それより、何のようだ?」

「あ、うん…そう、さっきの勝負の報酬の話をしようかなって」

「え、いらない」

「何かして欲しいことないの?」

「さあ」

「さあって……」


 だってして欲しいことなんてないし。強いて言うなら休みが欲しい。だがそれは結城さんに頼むにはあまりに酷だ。そんな権利ないだろうからね。


「じゃあ私が決めていい?」

「報酬を負けた側が決めるのか」

「決めてくれるの?」

「あぁもういいや、適当に頼む」


 このまま付きまとわれても困る。何でもいいから叶えてもらって解放してもらおう。


「じゃあ…私がメイドさんになってシュンくんにご奉仕するよ!」

「いやイルがいるし、メイドに困ってない」

「うぅ…確かに……じゃあどうしよう?」

「それしかなかったのか」


 考えてその一つしか出ないんだったら、もうなにもしなくていいから。


「そうだ!シュンくんに妖精魔法教えてもらったから今度は私がシュンくんの能力について考えるよ!」

「いや、困ってないから」

「うぅ…そういえばシュンくんの能力ってなに?見たところ派手な魔法もユウトくんみたいな剣も持ってないみたいだけど」

「あ?……まあなんだ。反射神経が上がるような能力だ」

「それって、その目のせい?」


 適当にごまかそうとすると、何故か確信を突かれる。バカな、何故分かった?


「鏡あるか?」

「え、うん。そこにあるけど…」

「借りるぞ」


 鏡で自分の目を見つめると、すぐにバレた()()が分かった。


 俺の左目に模様が入っている。まるで()()()のようだ。黒目には十字に金色に似た色の模様が入り、完全な赤目になってしまっている。


 明らかに普通の人間の目ではない。


「マジか…」

「まるで神様みたいな目だね」

「どういう意味だ?」

「ほら、協会とかって十字架のイメージない?」

「あるな」


 どこの協会にも十字架があるようなイメージだ。


「あれはね、色んな説があるんだけど、特に有名なのは『イエス・キリスト』だね。キリストは十字架に(はりつけ)にされたでしょ?でも、そのあとすぐに生き返ったって言われてるんだ」

「歴史で習ったな」


 イエス・キリストは異教徒として、国家反逆罪の罪を被せられて殺された。が、その翌日遺体を安置したはずの場所からキリストは居なくなった。


「それからキリストの復活が信じられ、神聖視されるようになっていったの。それが転じて十字架もまた神聖視されるようになり、元の『呪い』や『戒め』のイメージから、今のように『神性』を示すようになったんだね」

「神性を表す…ね」


 俺の眼は『魔神の義眼』。確かに神性はあるのかもしれないが、それは同時に『魔性』でもあるんだろうな。


「十字架が示す意味はたくさんあるけど、例えば『死への勝利』や『復活』、または『罪』と『犠牲』なんて言われるらしいよ」

「たくさん意味があるんだな」

「うん、だからその目も決して悪いとは言えないんじゃないかな?」

「お気遣いどうも」


 さて、どうする?こんなの、もしかしなくてもバレたらヤバイだろ。これで魔神の眼をしてるとか言われたら迫害されるんじゃないか?自意識過剰か?


「う、うぅん…気休めにしかならないかもだけど、これいる?」

「これは…『コンタクト』か」

「うん、カラコンっていうの」


 カラーコンタクト。略してカラコン。コンタクトは視力を補うための物だが、カラコンは趣味またはおしゃれとしての用途に使われる色のついたコンタクトであり、それ自体に視力補正の効果はあまりない。


「茶色だから、多少違和感はあると思うけど、これなら隠せるんじゃないかな?」

「良いのか?」

「うん、それって実は妖精魔法で作れるんだ」

「は?」

「妖精さんの唾液ってシリコンみたいな性質を持っててね。それを固めることで『非含水性ソフトコンタクトレンズ』っていうコンタクトの素材になるの」

「あ、はい」

「これは土台でね、あとは薄い着色料を付けた半透明レンズと挟んで作れるの」


 よく分からないし、多分実際に作ったらそんな簡単に作れるわけないんだろうが、ここは異世界。何があっても不思議じゃない。


「また種類作っておくから、取りに来てもいいよ?」

「悪いな、こんなの貰っちゃって。これが報酬ってことで良いよな」

「えっ、うん…シュンくんがそれで良いなら良いよ」

「おう、じゃあ俺は帰るわ」


 とりあえず、今の眼をイルに見せよう。これによってどうなるか、バレたらヤバイのか聞いてみなければならない。


「よっと…こんな感じか」

「うん!似合ってると思うよ!」

「片目が黒でもう片方が茶色か。地味なオッドアイだな」

「さっきの黒と赤はかっこ良かったけどね、あはは」


 つまり、今はかっこ良くないということか。まあそりゃそうだろう。


 部屋を出るためドアまで向かう。すると突然気配を感じ、足を止める。


「誰か来る」

「えっ」

「隠れろ」


 いつぞやと同じように、ベッドの裏へと隠れる。


 ガチャリと音がして、人が入ってくる。足音は小さい、多分女性だろう。ベッドの裏からなのでその顔は伺えない。


(既視感溢れる状況だな)

(ごめんなさい!ドアの鍵を閉め忘れちゃった!)

(なんかもう慣れた)


 入ってきた奴は誰だ?俺は隠れているためにそっちからは見えないだろうが、俺からは見えるからな。久しぶりの透視!


 ベッドが透け、向こうの風景が見える。こちらへゆっくりと歩いてくるのは…


(男だと?)

(どうしたのシュンくん?)

(あぁ、いや。それよりも俺たちのクラスに小柄な男は居たか?)

(え?ううん…あ、たしか高木くんって男の子がいたかも!眼鏡をかけてて、小柄な体型で、いつも一人で居る感じ…)


 あーあ、ビンゴか。高木って名前だったのかアイツ。最初入学したときには俺の同士かと思っていたが、暗すぎて近寄れる雰囲気もなかったな。


 高木はこっちまで近付いてくると、不意にベッドの上へとゆっくり倒れ込む。


 ベッドは広く、双方反対側なのでまだ見えていないが、いつ見られてもおかしくない。しかしなんだこいつ?何が目的だ?部屋を勘違いしているのか?いや、ここは女子寮だ。男子寮とは場所も形も違う。間違えるはずがない。


ーーーーーーーーーー


 そして緊張の最中、時は戻る。


(シュンくん、もっと近づいていい?)

(あぁ、うん)


 ベッドは横に広いが縦に狭く、女性用に作られたベッドらしい。前のように俺の部屋じゃないため、ベッドが少し小さく二人の高校生が並べるほど広くない。よって、寄り添わなければバレてしまう。


(それより誰なのかな?ちょっと見てみてもいい?)

(ダメだ、絶対に)


 さっきの高木の話振りからして、仲良しとは思えない。例え仲良しでも、無断でベッドにダイブするような間柄はありえない。もし見てしまえばトラウマになる可能性だってある。


(シュンくんは誰か分かる?)

(いや、分からんが…今は嵐が過ぎ去るのを待つしかないだろうな)

(そうだね)


 早く去って行ってくれ。このままじゃ俺が耐えられん。今の今まで気にしてない素振りをしていたが結城さんは美少女だ。ここまで近付かれるとさすがの俺も意識せざるを得ない。


 いったい何をしてるんだこいつは。さっきからただひたすらに荒い呼吸を繰り返して…あぁ、なるほど。変態か。こいつ、柏木先生と同じタイプだな?直接的な分、もっと質が悪い。




 と、やっと出ていこうとする高木。いったい何分の間こうしていた?正直心臓が悪い。


 またイルに調査させるか。


「もういいぞ」

「あっ………うん、良かったねバレなくて」


 立ち上がり、結城さんと離れる。とりあえず、今は帰ろう。さっきのようにまた来られても困る。


「結城さん、鍵には気を付けろ。しっかりと施錠して、一人の時はもっと注意すること。分かったな?」

「は、はい!すみません!」

「いや、別に怒ってないから」


 ただ、結城さんが一人の時に襲われたりしたらいけない。俺のせいにされても困るからな。



 にしても高木か。アイツの能力、見るのを忘れちまった。明日の打ち合いで見てみなきゃな。

結城さんとの試合終了後、松岡に会い、話しかけられる。


「そういえば宮坂、いつの間にきてたんだ?急に結城さんと勝負し出すしよ!」


「松岡か。久しぶりだな」


「確か病気だったんだろ?災難だったな!でも風邪になるのは体が病弱だからだぜ!もっと筋トレをしよう!」


「おい筋肉バカ、病気には風邪以外もあることを知れ」


「ボクシング始めるか!?」


「始めねえよ」


「じゃあ何を始めるんだ!」


「なにも始めねえし、さっさと帰る。結城さんに呼ばれてるしな」


「なにっ!?…宮坂は結城さんと妙に仲が良いよな!」


「お前には刑部さんがいるだろうが」


「まぁそうなんだけどな!でも噂になってるぜ?最近宮坂ってやつが結城さんにちょっかい出してるってな」


「俺が出されてる側なんだけどな」


「ははっ、まあ俺とかユウトは分かってるけどよ!知らねえ奴もいるから、気を付けた方が良いぜ!」


「ご忠告感謝する。さぁ、俺は部屋に戻るぞ」


「宮坂はインドア派か!?もっと一緒に居ようぜ!晩飯も一緒に食べた仲だろ!」


「刑部さんと一緒に食べなさい」




どんどんうるさくなっていくなコイツ。と思うシュンであった。

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