ただいま王都。おやすみ今日。
「じゃあ俺は帰るよ」
「結局、ワシと魔界をデートする約束はなくなったんじゃな」
「そう言うなよ、今生の別れでもない。デートのつもりなぞ更々ないが、会うことくらいこれからいくらでも出来るだろ?」
「てことは何時でも会いに行っていいんじゃな?」
「時と場合は考えろよ」
「ご主人様、シアト様が膨れてらっしゃいます」
魔王城前、俺は王国へ戻るべくシュバさんとシアに挨拶をしていた。が、なんだかシアの機嫌が悪そうだ。
「……シュンなんて知らない」
「嫌われたもんだな」
「ご主人様。まだシアト様は未成熟ですから、別れが寂しいのだと思いますよ」
「シュン殿、シアト様にとって貴方は兄のようなもの。私たち使用人一同、お待ちしておりますよ」
「もう一度言うが俺は魔王討伐のために召喚された人間だからな?分かってるのか?」
「では、シアト様を殺しますか?」
「……シュン…」
そんな悲しそうな顔をするな。何を言い出すんだこのフクロウ執事は。主を心配させるようなことを言うなんて執事失格じゃないのか?
「俺は効率を重視する主義なんだよ。魔王だって利用できるだけ利用するさ。シュバさんも、リューナもな」
「……シュンっ!」
「なんで嬉しそうな顔をする…利用すると言ってるんだぞ?」
「利用されるべく、お待ちしております」
「王は民に頼られてこそじゃ。もう王ではないが、お主はいつでも頼るとよい」
「シュバさんもリューナも、耳ついてるか?三半規管壊れてんだろ」
『利用』の意味を知らないらしい。さてはこいつらはバカ、もしくはアホだな。
「うふふ、ご主人様。私を含めなかったと言うことは私は『特別』てことですね?もう、ご主人様ったら!」
「あ?三枚に下ろすぞ?」
「まさかの魚扱いっ!?」
お前は痴女だよ。バカでもアホでもなく。
「じゃあまあ、またな」
「……うんっ!」
「次はお友だちを連れてきてください」
「ご主人様!私も着いていきますよ!」
「お前はいらん」
「っ!?」
「ほれ、遊んでおらんと早く背に乗るのじゃ」
「悪いな」
帰りもリューナの背に乗せられ、王都まで行ってもらう。余計な駄メイドまで乗っけてしまったが仕方ない。連れて帰ってやろう。
リューナの銀色の翼が羽ばたき、風が舞う。優しい風が頬を掠り、なんとも言えない心地よさを感じる。
「……シュン!ばいばい!」
「あぁ、元気でな」
さきの仏頂面ではなく、満面の笑顔で手を振るシア。ほとんど一緒にいなかったはずなのに何故か一瞬で信頼されてしまった。もちろん打算ありきの会話をしたがまさかここまで気に入られるとは。
「ご主人様」
「なんだ」
風に揺られ、眠気を感じていると不意にイルから声が掛かる。
「いつから気付いてましたか?」
「なんの話だ」
「……分からないんですか?」
「さあな。俺は女はみんな悪魔だとお爺ちゃんから教わったんだ。悪魔も魔族も変わんねえよ」
「分かってるじゃないですか。えらく真理を突くお爺ちゃんがいらっしゃったんですね」
「あぁ、老人は偉大だ」
たくさんの経験を経た80代の男の話だ。信憑性なら朝の天気予報を越えるぞ。
「ご主人様」
「なんだ」
「好きです」
「急にどうした。気持ち悪い」
「ご主人様…仮にも女の子がこうも大胆に好意を表現しているというのに、その言い草はなんですか。さすがの私も泣きますよ」
「ヨヨヨって泣くのか?」
「バレました?」
「聞き飽きたよ」
特に意味のない会話が続く。が、そこにあるのは意味のないモノなんかじゃなくて、何かもっと言葉に出来ない大切な『モノ』なんだと俺は思った。
ーーーーーーーーーー
人間国前、リューナの背から下り、人化したリューナと顔を合わせる。
「人間界の王に会わなくて良いのか?」
「興味ないわ。それよりも、また遊びにいくからの」
「はいはい」
「ありがとうございました。竜王リューナ=フォン=アルデュート様」
「やめぃ、堅苦しい。リューナで構わん」
「しかし…」
「良いんだよイル。こいつのことは変態とでも呼んどけ」
「流石に言葉を選ぼうな?シュン」
いやだってなんか変だし。コミュ障なのかと思えば威厳をもって普通に話せてるし、頭良いのかと思えば頭の悪い量の料理を作るし、お世話係に舐められてるし……変じゃない?
「ぬ、それよりもじゃ」
「なんだ、急に顔を近づけて」
「ワシの背の上でイチャイチャしないでくれ。ワシが発情してしまう」
「うん、なんかごめん。けどお前は今日から変態と呼ぶ」
隣で聞こえてないようで首をかしげてるイルを横目に、俺は変態を睨み付けた。
「じゃあの。また来るぞ」
「おう」
「ありがとうございましたー!」
「あれ、イル。リューナと一緒に帰らないのか?」
「私はご主人様だけのメイドですよ!他に誰の側に居られましょう!?」
「シアじゃないのか?」
本職はお前、魔王側近だろ?職務怠慢か?転勤するか、リストラするかどっちか選べよほら。
そんなことを考えつつ、リューナを見送り、国へと戻る。久しぶりの王都。実に…6日ぶりか?リューナの家に居座りすぎたかもしれない。いや全部あの露天風呂が悪い。つまり露天風呂を所持していたリューナがすべての責任を負うべきだな。最低だ、リューナめ。
「ご主人様?行きますよー」
「あぁ待て。すぐいく」
イルの背中を追いかけつつ、俺は城の男子寮へと戻っていったのだった。
「おぉ、宮坂。病気はもう大丈夫なのか?」
「柏木先生。ありがとうございます、なんとか治りました」
「そうか、それはよかっ…………ひっ!?」
「どうしました?」
男子寮へ戻る途中、下着盗難事件の犯人、柏木先生に会った。ところが適当に話していると急に柏木先生の動きが止まり、視線が一つに定まる。頬には汗が伝い、緊張していることが伝わってくる。
「どうしましたか?私になにか?」
「い、いやぁなんでもない!そ、それでは私はこれで失礼するよ!」
「あぁ、はい」
イルの顔を見やり、サササッと早歩きで立ち去っていく柏木先生。
「……イル」
「『睡眠学習』って知ってます?」
「想像がついた。お前は悪魔か」
「魔族です」
「そうだったわ」
なにが『多少のサポートは致しました』だ。完全に美味しいとこを、とっていったなコイツ。柏木先生のあの怖がりよう…明らかにトラウマになってやがる。
「まあ『大人』である先生が居なくなるような結果にしないでいてくれたのは感謝しよう」
「今の状態で頼れるはずの人がいなくなると、ご主人様はともかくうるさい女子共は喚くでしょうね」
「急に口が悪くなったな」
「失礼しました。ご主人様以外の有象無象どもは…ですね」
「酷くなってるからな」
「あうっ」
軽くイルの頭を小突き、歩き出す。まあ、うまいこと収まってくれて本当によかったな。ただ、これ以上下着盗難が起こることはなくなったが、犯人が分からない状態にしてあるのだから他の生徒の『不安』は無くならないだろうな。
「どうするか…」
「いっそのこと誰か適当に見繕えば良いじゃないですか」
「俺はそんな手当たり次第にするような横着はせん」
さて、しかし本当にどうするか。『不安』はそのうち『疑心暗鬼』になり、周りのやつらを疑い出す。今疑心暗鬼になってしまっては、何も出来なくなるだろう。
「では私が適当に下着を盗まれた方の部屋に隠しておきましょうか」
「出来るのか?」
「ええ。盗まれた方も『実は探したらありました』と思ったりして、意外とどうにかなるんじゃないですかね」
「そうだな。じゃあ頼むよ」
「はい、かしこまりました」
普通のメイドにはこんなこと頼めないし出来ないだろうが、流石は魔王側近。スパイなんてお茶の子サイサイと言うやつか。
「シュン!帰ってきてたのか!」
「この爽やかすぎて一周して更に爽やかな声は、ユウトか」
「何を言ってるんだシュン?それよりも帰ってきたんだな!どこに行ってたんだ!?」
「旅行」
「漢字二文字で返された……」
お前に時間を引き裂くつもりはない。ほら、帰った帰った。
「ユウト様。これよりご主人様のメイドに戻らせていただきます。短い間でしたがありがとうございました」
「あっ、そっか……うん、ありがとね」
「なんだお前ら。ほらイル、早く部屋に帰るぞ」
「あ、待ってくださいご主人様!どんだけ部屋が好きなんですかっ!?」
一度振り返り、ユウトに一礼をすると走ってくるイル。なんだユウトのやつ。変な顔をして、何かあったのか?とりあえず、今日はまだ病気ということで寝て過ごそう。それがいい。
「………イルさん、シュンに対してはあんなに砕けた話し方なんだな。ははっ」
その爽やかな声は誰にも届くことはなく、自嘲の意味の笑いは、ただただ乾いていたのだった。
「シアト様。どれだけシュン殿が飛んでいった方向を見ても帰ってきませんよ」
「……うん」
「仕事、ありますからね」
「……うん」
「きっとすぐ会えますよ」
「……うん」
「ダメですね…放心状態といったところでしょうか」
「……うん」
「まあ、シュン殿をシアト様と二人にさせて良かったですね。これで未来の婿候補は決まりましたかね」
「…………ふぇ?」
「あぁ、こちらの話ですよシアト様。では早速、仕事をしましょう」
「……うん、頑張る」
「はい。終わったらシュン殿のところへ遊びに行きましょうね」
「……本当っ!?私頑張る!」
「扱いやすくなりましたな」
「……なにかいった?」
「いえなにも」
そういって、なんだかんだシュバの計画通りに事が進んだみたいでした。




