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魔王は甘えたがり

「……どう?美味しい?」

「あぁ、うまいうまい」

「むむむ……し、シュン!こんな量じゃ足りんじゃろ!?ワシがもっと作ってくるから待っておれ!」

「リューナ様、食事中に席を立つことは許されませんよ。昔から言っていましたよね?」

「しかしシュンはこの量じゃ足りないはず……」

「いや足りるから」


 俺は今、無駄に騒がしい食卓を囲んでいる。隣の席には何故か距離が近いシア。前の席には歯軋りをしてウズウズとしているリューナ。それを取り押さえるシュバさん。もっと落ち着いて食べたいものだ。


「食事というのはな、お前ら。静かで、豊かで、なんというか救われてなきゃあダメなんだ」

「……シュンって時々芝居がかったことを言う」

「それがかっこいいと思ってるんじゃろ。可愛いもんじゃ。まるで勇者に憧れる少年のようじゃの」

「リューナ、帰っていいぞ」

「なぜじゃっ!?」


 そんな慈しむような目で見るな。突くぞ。


「……シュンは結局、何しにここは来たの?」

「ん?あー、何だっけか」

「人を探しておるんじゃろ?」

「あ、そうそう。イル……イルタっていう魔族を知らないか?上級魔族の」

「……イルタを知ってるの?それならもうすぐ───」


「ただいま戻りました、シアト様。お食事中失礼しま…………」


 突然目の前に現れたイルが、こちらを見て目をパチクリとさせる。ゴシゴシと何度も目を擦り目の前の光景を確認しているようだ。


「おかえり、イル」

「……ん、今シュンと食事してるから座って?」

「なんじゃ、シュンの待ち人はこのメイドじゃったのか」

「半分は忘れてたんだけどな」

「……シュン、あーん」

「シアト様、はしたないですよ」

「……ぶぅ」

「まあまあ、シア。ちゃんと食べるから気にするな」


 ポンポンと頭を撫でると、シアは気持ち良さそうに目を細める。それにしても美味しいなぁこの肉。このソースがなんとも……


「いやどういうことか説明してくださいよ!?なんで無視なんです!?なんでご主人様はシアト様とそんなに仲良くなってるんです!?」

「おいおい、うるさいぞイル。食事というのはな、静かで、豊かで、なんというか救われてなきゃあダメなんだ」

「シュン、それさっき聞いたぞ?」

「……あーん」

「シアト様」

「……ぶぅ」


「私、夢見てるんですかね?」


 ははは、白昼夢ってやつかな?


「久しぶりだな、イル」

「ふ……ふふふ……ふふふふふ」


 急にうちの駄メイドが不気味に笑い始めた。


「私はイルなどという名前ではない!赤子も泣き止む恐ろしき上級魔族!イ……ヤサハ!イヤサハである!控えおろう!」

「え、どうしたイル?」

「……イルタ?イルタの名前は、イルタだよ?」

「魔王様、身分を隠してるようです。ここは会わせた方がよろしいかと」

「……イヤサハ、戻ってきたのね」

「フォローが遅いです!あとご主人様!私をそんな可哀想な子を見る目で見ないでください!」


 いやだって、変なことを言い出すからさ、病気かと思ってな。


「ていうかなんでここにいるんですご主人様!」

「あ?お前を追って行ったらやたら家庭的な竜の王に会ったり甘えたがりな魔族の王に会ったりびっくりだ!責任とれ!」

「理不尽っ!?」

「……甘えたがりじゃないもん」

「よく考えれば凄いことじゃよな。一人は元と言えど、二つの国の王と知り合うただの人間がおるなんてな。それも仲が良いというオマケ付きでの」

「全部お前のせいだ駄メイド」

「良いことじゃないですか!?なんで怒られてるんです、私!?」


 騒がしいメイドだ。久しぶりに会えたというのに感動もくそもないな。


「ユウト様が心配してましたよ」

「あぁ、()()()についてはどうなった?」

「こちらで片付けて置きましたよ。ユウト様が苦戦していらしたので、多少のサポートは致しましたが」

「そうか、ありがとうな。イル」

「別に、ご主人様のためじゃないんですからねっ!」


 どうやら『下着盗難事件』については良い感じに収まったみたいだ。ふむ、しかしやっぱりか。


「ユウトというのはシュンの友人か?」

「…………まぁ、そんなところだ」

「……私は?」

「シアは妹かもな」

「……シュンは、お兄ちゃん?」

「おう、お兄ちゃんだ」

「あれ?私のツンデレはスルーですか?おかしいですね、人間はツンデレが好きだと聞いたのですが……」


 うんうん、シアは可愛いな。魔王とは思えない。それとは正反対に、メイドとは思えない発言をする駄メイド。情報源の分からないことを言い出しやがる。


「てことは、シュンはもう帰るのかのぅ?人間国に」

「そうなるな。しばらく空けていたしな」

「……お兄ちゃん、行っちゃうの?」

「あぁ、ユウトを一人だけにしておいたら心配だからな」

「あれ、ご主人様。意外ですね、ユウト様のことが心配だなんて」

「あー……うん。まあな」


 アイツは俺が居ないと変に考え込む癖があるからな。全く、あんな大きな奴のお守りをしないといけないなんて不幸だな。


「……お兄ちゃん」

「なんだ?」

「……行かないで、私を置いてきぼりにしないでよぅ…」


 俺の体にすがり付くように抱き付くシア。少し心が痛まないでもないが、さすがにこれ以上国を離れると何を言われるか分からん。今のうちに帰るのが吉だろう。


「また来るから待っててくれ、な?」

「……ぜったい?」

「あぁ、絶対だ。ほら」

「……小指?」


 俺が小指を差し出すと意図を察してシアも小指を差し出す。小指を絡ませると、あの有名な歌を俺は歌いだす。


「指切りげんまん、嘘ついたらハリセンボン飲~ます指切った」

「……なにこれ?」

「俺の故郷に伝わる歌だ。約束をするときに、絶対に(たが)えないということを誓ってるんだ」

「……ん、絶対、また来てね?」

「おう、まあ今日はもう遅いし、泊まって行ってもいいか?」

「……良いよ、一緒に寝よ?」

「それは遠慮しとこうかな」


 俺は幼女を愛する趣味はない。あと同性愛にも興味はない。もう一度言うぞ、俺に幼女を愛する趣味はない。



ーーーーーーーーーー


 食事を終えるとイルに案内され、部屋を用意される。ベッドがあり机があり、クローゼットのようなものもある、普通の部屋だ。


 ちなみにリューナも個室を与えられ、そちらで寝ることになっている。


「ご主人様、明日帰るんですよね?」

「そのつもりだ」

「そうですか、では失礼しますね」


 イルはそう一言断ると、ごそごそとベッドに入り込む。


「おい」

「なんですか?早く寝ましょう?」

「やかましい。イル、ここは魔王城でお前に自室は与えられているんだろう?ならばそこで寝るべきじゃあないのか?」

「…久しぶりにご主人様に会えましたので嬉しくて私、つい舞い上がってしまいしました。毎夜過ぎることにご主人様を想っては涙で枕を濡らし……ヨヨヨ」

「そうか、じゃあ帰れ」

「動じませんよねご主人様」


 当たり前だろう。慣れたんだよ、そのわざとらしい演技に。


「ほら、帰れ。駄メイド」

「ご主人様!あまりにも酷いですよ!それこそ私は本当にご主人様がいない間心を痛めていたんですよ?いまどこにいるのかと、ずっと考えていました」

「そうかよ」

「ですが、やっと会えたと思ったら適当に流されて、ご主人様は私のことを酷く言うばかり……私は泣きそうです」


 ぐ…そう言われたらなんだか俺が悪いような気がしてこなくもない……か?


「ふん、引っ付いてくるなよ」

「良いんですねご主人様!?」

「さっさと寝ろ駄メイド」

「はーい」


 ニマニマとして目を瞑るイルを見てひとつため息を吐く。

まあ、無事に会えたし、すぐに国にも帰れそうだし、やっと一息つけるかな。





ランプが薄く照らす部屋の中で、結城美郷は一人妖精に話し掛けていた。


「妖精さん……シュンくん大丈夫かなぁ?」


「キュウ?」


「きっと大丈夫だよね?もう5日になるけど…もう会えないのかな?」


「キュ!」


「そうだよね、そんなわけないよね!」


「キュキュ!キュウ?」


「えっ!?そそそ、そんなことないよ!!別に私はシュンくんのことなんて……」


「キュウ?」


「え?じゃあ嫌いなのか?……ううん、そんなことないよ。でも私って男の子を好きになったことないから、どうなんだろう?」


「キュキュ!」


「そうだね、まだ分からないもんね。うん!もっと話してみてどうなのか考えみる!ありがとうモフモフちゃん!」


「キキュウ!」




妖精と喋るその時間は、結城美郷の中で特に大好きな時間だそうです。


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