シュバさん
「………ん…おはようリューナ」
「お、起きたかシュン。まだもう少しだけ時間が掛かるぞ?」
「んー、いいや。景色でも見る」
「そうか、ならば低空飛行で行くとするかの」
心地良い眠気を振り払いながら、リューナの背から見える景色を楽しむ。どんどん降りていき、森や町のようなものが見えてくる。
「ここは人間界か?」
「いんや、魔界じゃ。魔王城まで行けば良いんじゃろ?」
「あぁ、それで頼む。それよりも…魔界というともっと荒れ果ててるイメージだったんだが、意外と豊かな生活を営んでいるんだな」
ここから見える景色は人間界にあっても全く違和感がないほどに、石や木で出来た家屋があったり商売をしているような人?魔族もいる。
「今思えば、魔族は俺を見て襲ってこないのか?人間だぞ俺は」
「うむ……正直分からんの」
「おい」
「いやだって、敵対している同士じゃからの。まあ安心せい。ワシがしっかり護衛を勤めてやるのじゃ」
「安心……か?」
「ワシこれでも元竜界王じゃからの…分かっておるのか?」
いやだってこんなに接しやすい王っていないと思うぞ?ほら、そういう親しみやすい王様ってのも味があって俺は好きだぞ。
「のぉ、今言うのもなんなんじゃが。シュンのその瞳は本当にお主の物か?」
「…急に来るな、どうしてそう思う?」
「ワシは観察眼はある方だと思うんじゃが、明らかにその眼は他とは違う魔力を纏っておるのじゃ。まるで別の眼を移してきたかのように」
「どうだろーな。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
別の眼を移す……か。言い得て妙だな。いや、そのままか?
『魔神の義眼』、イルにも言われたが最近進化したからか、魔力の質が違って見えるらしい。
「見れば分かるもんなのか?」
「どうじゃろうな。自惚れるわけでもないのじゃが、相当の実力者なら分かると思うぞ」
「それは魔王なら?」
「当たり前に気付かれるじゃろうな」
ふむ…まあバレたところで別にどうという話でもないのだが。
「そろそろ魔王城じゃ。降りるから気を付けるのじゃぞ」
「分かってる」
見えてきたのは、これまた人間界の城と対して差のない、豪勢な作りをした大きな城だった。その中へ魔族たちが入れ替わり立ち替わり入っていっては出ていくを繰り返している。
バサバサと翼を羽ばたかせながら地面に降りると周りの魔族たちから視線が集まってくる。
「ほれ、降りるといいぞ」
「おう」
ストンと降りると、改めて俺に視線が向けられる。が、リューナが人間状態に戻ると交互に視線を向けて不可解そうな顔をする。
「なんだ、なんでこんなに注目されている?」
「当たり前じゃろう、ドでかい竜の背から降りてくる人間を見て、更にその竜が人間に変わったんじゃぞ?驚くどころか兵が飛んできても文句は言えん」
「おい、それ大丈夫か?」
「まあ大丈夫じゃろ?ほれ、行くぞ」
リューナが先導してくれるので後ろを歩いていく。他の魔族は皆一様に避け、モーゼのように真ん中に道が空く。
「居心地が悪いな」
「堂々とした方が良いぞ。怯えるとつけこまれる」
「魔界は怖いところだな」
こういう場は慣れているのか萎縮した様子も無く堂々と歩くリューナ。なるほど、前国王だっただけあって俺を背に乗せているときと纏っている雰囲気が段違いだ。今はあのだらしない顔をキリッとさせて美人さんに見えるぞ。
「のぉ、今もしかしてワシのことを悪く思わんかったか?」
「そんなわけないだろ。俺はリューナを尊敬してる」
「そうか、気のせいじゃよな」
ちぃっ、変に鋭いトカゲめ。
ーーーーーーーーーー
「何の用でございましょうか、前竜界王リューナ様」
「ふん、相変わらずの辛気くさい顔をしておるの、シュバ」
「おやおや、リューナ様。用がないなら帰ってくださって構いませんよ?」
おぉ、なんだなんだ。魔王城へ入ると突然近付いてきた梟を擬人化したような奴が話し掛けてきたと思ったらリューナが高圧的に…
「知り合いか?」
「一応じゃがの…嫌味な奴じゃよ。ワシが小さい頃によう苛められたもんじゃ」
「苛めるなんて人聞きの悪い……私はリューナ様の世話係りとして、王である為の教養をお教えしていただけではありませんか」
「何を言うか!シュン!聞くのじゃ!コイツはワシに教養がどうとか言っておいて何か間違える度にワシのおやつを端からさらっていくんじゃぞ!」
「罰というのは『躾』という点に置いて重要なプロセスなんですよ、リューナ様」
「ムキー!ワシはペットか飼い猫か!」
さっき纏っている雰囲気が~なんて言ったけど、撤回するわ。なんか可愛い感じになっちゃってるから。
「それにしても、罰は『躾』の重要なプロセス……か。中々的を射たことを言うフクロウだな」
「おっと、申し遅れました。私の名前はシュバ。今は現魔王ヘキセ=ジェルマン=シアト様のしがない執事をさせて頂いております」
「宮坂シュンです。覚えてもらわなくても構いません」
「宮坂シュン殿ですね。存じ上げておりますよ」
「…会ったことあったか?」
「いえいえ、とあるメイドからの報告で知っているのです。今あなたが知る必要はありません」
とあるメイド…まあ十中八九イルのことだな。それよりシュバさんか。俺が人間なのに気付いてる上で普通に話してくれている辺り、一方的に嫌ってるわけじゃあ無いのか?
「私が使えている魔王様が、そういう方ですから」
「心を読む能力でもあるのか?」
「いえいえ、こちらに魔王様はいらっしゃるので着いてきてください」
「やっとか…現魔王には初めて会うからの。どんな小わっぱか楽しみじゃ」
「小わっぱって…口が悪いぞリューナ」
「むぅ…」
可愛らしく口を紡ぐが少し不満そうなリューナ。多分シュバさんに会って不機嫌になったのだろう。昔の世話係りさんなんだからもっと仲良くしなさい。
「そういえばシュン殿。その眼は、貰い物ですかな?」
「……おいリューナ。即バレしたぞ」
「認めたくないのじゃが、ワシは戦闘以外の大概のことでソイツに負けておるのじゃ…」
「戦闘は苦手なんですよ、私」
「俺は魔族の言う『苦手』を信用していない」
適当に話を流しつつ、逸らしている内に魔王がいる部屋に来たみたいだ。妙にでかい扉が物々しさを溢れさせている。
「魔王様、お客様をお連れしました」
「……入れて」
「どうぞ、シュン殿、リューナ様」
「ありがとう、シュバさん」
「ふん、執事として当たり前じゃ。こんなことに礼を言うとったらキリがないぞ」
「おやおや、手厳しいですな。それと、シュン殿」
スススっと隣へやってくるシュバさん。
「魔王様は寂しがりやなので、優しくしてあげてください。素直で優しい子ですから」
「俺の身体の半分は優しさで出来てるから大丈夫です」
「それならば良かったです。よろしくお願いしますね」
「よろしく……?それはどういう────」
と、聞く前にドアが開きだし、中へと入れられる。
さて、どんな姿かな。現魔王様ってのは。
「ペア実技試験!優勝者はユウト・ミサト組!」
「やったな!結城さん!」
「やったね!ユウトくんのお陰だよ!」
「「「「ウォォォォォオォォオオオオ!!!(盛大な拍手)」」」」
「優勝者には景品として、二人の願いを国王様から直々に叶えて貰えるだろう!これからも精進してくれ!」
「くっそー!やってくれたなユウト!」
「ははっ、結城さんの妖精魔法のお陰さ。あれがなかったら松岡のかめ○め波にやられてた」
「そんなことないよ、きっと避けてたよ」
「良いから誉められろ二人とも!」
「あ、おい……ははっ、肩を組んだら歩きにくいだろ?」
「頑張ったね美郷ちゃん!」
「刑部さん!ありがとう!」
「マジやばいっしょ~!願い叶えて貰えるなんて羨まし過ぎてマジテンアゲだわ~!」
「おいおい因幡。俺が叶えるんだからな?」
「それでもなんかテンアゲっしょ!」
「それにしても残念だったなユウト。宮坂が倒れて、結局競えなかったんだから。俺も宮坂と一度、ガチで戦いたかったなー!」
「あぁ、そうだな」(シュンは病で倒れたって話にしてるんだったか…)
「シュンくん…大丈夫かな?私、お見舞い行こうかな」
「あ、結城さん!今はゆっくりさせて欲しいって言ってたし、行かない方がいいよ!」
「あ、そう……なんだ」
「うん」
「まあまあ!結城さんもユウトもそんな辛気くさい顔すんなって!」
「とりま晩飯食べるっしょ~!」
「まだ夕方も来てないぞ因幡」
「もうお腹ペコリータっしょ~……」
結局3日で帰ることは叶わず、実技試験なんて忘れているシュンはこれから魔王様と面会するそうです。
優勝者は当たり前にユウト。結城さんが気を効かせてペアを申し出て、そのあまりのお似合いさに周りの女子も引かざるを得なかった。
二人の願いはどんなものでしょうかね。




