マナ=シュドール=ニーナ
「ひ、姫様、説明なら私めが」
「あら、私はこのお方から聞きたいと言っています」
俺は聞かせたくないと言いたい。しかし言えない。なんだこの威圧感。
「しかし、誰かも分からない者を……」
「私は知っています。宮坂シュンさん。16歳。趣味は人間観察、好きな食べ物は揚げ物全般嫌いな食べ物は根菜の一部。あとイケメンが嫌い。スリーサイズは上から83.4 75.8 88.3です」
「詳しすぎるだろ、怖いわ」
え、なに?俺のファン?スリーサイズとか俺すら知らないよ?あと何で趣味がバレている。良いだろ、人間観察。
「な、なんだって…?俺の目量より全体的に高い、だと?ヒップに関しては0.3mmも間違えてる……!」
「おいユウト?お前今なんて言った?あと目量で0.3mm単位まで計れたのか?化けもんか」
怖い、俺の友人が怖すぎる件について。
「光栄なこったな……姫様に俺の情報を知ってもらえてるなんて」
「もっとありますが、言いましょうか?」
「勘弁しろください」
「シュン、敬語が崩れてるぞ」
仕方ないだろ、俺は素直だから本音が出ちゃうんだよ。
「ここではなんですから、どうぞ私の部屋へ」
「嫌です」
「なっ!?姫様の部屋に行くのを拒むなんて……!私ですら入ったことがないのにっ!」
おいそこの一般兵。聞いてもない情報を暴露するな。どうでも良いことこの上ない。
「こちらへ」
「あそこにイケメンのユウトってやつがいる。ちっ。アイツを連れていった方が良いんじゃないのか?」
「シュン?今舌打ちを挟まなかったか?」
「私は宮坂シュンさんに教えてほしいのです。ダメですか?」
「ダメです」
「はい、有難うございます。こちらへどうぞ」
にっこりとして話を聞かない姫様。この姫様なんでこんなにタフなの?もっとおしとやかじゃないの姫様って。
「あ、俺も行って良いですか?シュンだけじゃ分からないことがあるかもしれないし」
「いえ、貴方には興味がありませんので」
「興味……ですか?」
「はい。ですから、行きますよ。宮坂シュンさん」
「あ、おい。手を引っ張るな。そんなはしたないことしていいのか?」
「殿方の手を引くことの何がいけないことなのでしょう。私は姫として全ての国民を引っ張っていかなければなりません。宮坂シュンさんの手を引くことと何が違いますでしょうか」
「いや色々と違うからな?」
そのまま連れていかれる俺。なんでだ。いつもならこれはユウトの役目のはず……くそう、これも全部ユウトのせいだ。しね。
ーーーーーーーーーー
【ユウト視点】
あぁ、シュンが連れていかれてしまった。でもこの場をこのまま放っておく訳にもいかないな。
優子さんや紗奈さん、豊永さんのシュンに色々と言われてしまった三人のこともあるし、その他の唖然としているみんなを放ってはおけない。しかし、どうすればいいかな。俺はシュンじゃないから、この場の納め方も分からない。
いや、前にシュンが『もしお前が俺のいない場所で戸惑ったときは、聞こえの良い言葉を投げ掛けとけ。人間は憧れている人や好意的な人物の言葉は鵜呑みにする。お前みたいな人望のあるやつが言えば相当響くだろうよ。しね』と言うっていたな。俺に人望があるとは思えないが、シュンの言うとおりに行動すればどうにかなるはずだ。今までもそうだったように。
「なあみんな、聞いてくれ!こっちに耳を傾けて欲しい!」
その場の全員の視線を集める。よし、これで俺に興味が向いた。ステップ1はクリアだ。
「みんな思うことはたくさんあると思う。俺もシュンが言ったことが本当かどうかは分からない。だけど、『信じる』って良い言葉だと思わないか?」
まずは俺が肯定的な意見を述べる。そしてステップ2、道を示す。
「確かに実際のことは俺たちには分からないけど、あくまで今のはシュンが言ったことで証拠はない。なら、疑うよりも信じる方が俺は良いと思う!こんな異世界に来てしまって喧嘩するのは危険だ!もっと団結力を強めて、魔王を倒して俺たちの日本へ帰ろう!」
そして、ステップ3、共通の敵を作る。これは一番大事なプロット。恋愛においては『ロミオとジュリエット効果』なんて呼ばれることもある方法だ……とシュンが言っていた。
「そうだよな…こんなところで燻ってる暇はないよな……!」
「私たち、大事なことを忘れてたみたい!」
「うぉぉぉ!待ってろ魔王ぅぅ!!」
よし、完璧だ。共通の敵を作ることで、意識を他に向けて、問題点を逸らしてしまう方法。これは意外と効果的で、一時的ではあるが簡単に団結力を強くすることができる。
「はぁ……良かった……シュンに聞いていて助かった」
「ユウトくん、何か言った?」
「あぁ、いや。結城さん。なにもないよ。それよりも、これでなんとかなりそうだね」
「うん……やっぱり凄いね、ユウトくんは」
違う、俺が凄いんじゃない。全部シュンのお陰なんだ。
「そんなことないよ、俺はそんなことを言われるような人間じゃない」
「でも今ここにいる皆はユウトくんのお陰でまとまったみたいだよ」
「そう……だな」
あぁ、早く帰ってきてくれ、シュン。
ーーーーーーーーーー
【シュン視点】
「どうですか?私の部屋は」
「どうって言われてもな……キレイなんじゃないか?うん」
女の子一人が暮らすには広すぎる部屋を自慢気に見せる姫様。大きなベッドに座り、隣へ座れと催促をしてくる。
「で、何が聞きたいんだったっけ?」
俺は椅子を持ってきて向き合うようにして座る。
「隣へ座っても良いんですよ?」
「遠慮しておく。遠慮は日本の美学だからな」
「日本……確か宮坂シュンさんの故郷でしたね。申し訳ありません、急に呼び出してしまいまして」
「別に」
俺を待っている人もいないからな。ただ、本当に申し訳なく思ってるのか?俺ならともかく、ここには大多数の生徒がいるんだから言うならどこか大広間で全体に向けていったほうが良いだろう。申し訳ないと思ってるかどうかは別としてな。
「……分かりました」
「は?」
姫様はゆっくりと眼を伏せたあとにベッドから降りて床に手を着く。そのまま体勢を下げて頭を────
「ておい!なにしてるんだ!?」
「はい?…今謝罪を致します。本当に申し訳ありませんでした」
「やめろ!こんなところ見られでもしたら…色々と言われるんじゃないのか!?一国の姫様が……」
「マナです」
「え?」
「マナ=シュドール=ニーナです。私の名前は」
「あぁ…そうか。で、えーと、マナ姫様、こんなとこを見られたら」
「マナと、お呼びください」
「は?」
なんだこの姫様…いったい何がしたいんだ?俺を試してるのか?
「マナ…姫様」
「呼び捨てで構いません」
「いやそんな訳にはいかないだろ」
「では、謝罪をやめません。大きな声で、心の底からの謝罪を宮坂シュンさん……いえご主人様に」
「マナ!悪かったから!頼むからやめてくれ!」
コイツ俺を脅しやがった…なんてやつだ……だれだ姫ってのはおしとやかなんてイメージを作ったやつは…こんなのがおしとやかだと?強かにも程があるだろ。
「はぁ……聞きたいことはあの状況の説明だったよな。どんだけ遠回りするんだ」
「はい、お願いしますね」
にこにこと眼を合わせるマナ。はぁ、なんでそんな期待した眼差しで見るんだよ……
ーーーーーーーーーー
「なるほど、そんなことがあったのですね」
「あぁ、いい迷惑だ」
概ねの説明をして、話を終える。予想の話だが多分ユウトもあの場をなんとかしてくれたはずだ。それも込みで話す。
「それにしても、宮坂シュンさんはユウトさんをとても慕ってらっしゃるのですね」
「は?俺がアイツを?……まぁ、嫌いじゃねえけどな」
「ふふ、まるで息子を見る父親のような目をしていました」
「やめろ、その例え」
誰があんなやつの親になるか。遺伝子レベルで構造が違うだろ俺とアイツなんて。絶対奥さん浮気してるぞ。
「あと俺の名前を呼ぶなら宮坂でいい。フルネームで呼ばれるのは慣れてない」
「ではシュンさんとお呼びしますね」
「……それでいいよ」
どうあっても俺の思う通りには動いてくれないんだな、別にいいけど。
「じゃあ、もう用はないな?帰るぞ?」
「はい、ありがとうございました」
また頭を下げるマナ。恭しく感謝する姿はどこか浮世絵のようにも見える。
「あ、お待ちください」
ガラッとドアを開けたところで不意に声をかけられる。
「なんだ?」
「これは、ただの戯れ言だと思われて構わないのですが」
「…?」
「その事件の犯人ですが、別の見方をした方がよろしいかもしれませんね」
「は…?それはどういう意味だ?」
「いえ、ただの戯れ言ですので。それに、お迎えもいらっしゃったようですよ」
「お迎え?」
「おーい!シュン!ここにいたのか!」
ユウトが廊下の曲がり角から現れる。ちっ、相変わらず間が悪いやつめ。
「また来るぞ」
「いつでも歓迎しますよ、ご主人様」
耳元でボソボソと呟かれたソレは、頭の感覚が無くなる程に甘美なもので……
「マジでやめろ……」
「ふふ、待ってますね」
危なかった……コイツ、もしかして能力持ちか。そういえば意識しなかったせいで能力を見ることが出来なかった。まぁいい、また機会があるだろう。
「あれ、姫様は?」
「今別れたところだ。帰るぞ」
「あ、待ってくれシュン!なんでそんな顔が赤いんだ!?」
「うるせ」
仕方ないだろ、女子にあんなことされたの、初めてなんだよ。




