91 再度
グレン中隊は、先程絞め落としたヴィクトルを一人残し出立した。
便所のことを思い出し、簀巻きにするのは止めておいた。
危うく27歳児がこの世に爆誕する所だった。
「「囮っつたって、敵の本拠地も分からん状況で全員総掛かりで良いのか?」
「別にお前一人でつこんでも良いぞガラン。死にてえならな」
「冗談じゃねえや!一人でも道連れにしてやらぁ」
「いや、道連れにするのは敵だけにしてくれる?…ただでさえ、こないだの城塞戦で中隊の定数割ってん
だから」
「その補給も兼ねて、手練の山賊団もとい山岳師団の連中を引き込めってか?素晴らしい発想ですな
大隊長様は、我々下々の事をよくお考えでいらっしゃる」
「大隊長に伝えとくわ、ウチの筆頭が思いっきり陰険かつ悪質な陰口叩いてたってな」
「ヤメロォ!!」
「お前らお喋りはそこまでにしろ、隊長もいちいちオチャラけんで良い」
大声でふざけ合っている二人をヴォルゲンが呆れ返りながら止めた。
「そろそろこないだ会敵した場所だ…大声を出すな」
「いや、そもそも入山した段階で声出すなっちゅう話だがな」
グレンが冷静に返す。
「分かってるなら実行しろよ…」
ヴォルゲンは力なく頭を垂れる。
グレン中隊は、エリア隊とアイラ隊を先行して入山させた。
斥候部隊である両小隊が安全を確認し、グレン達本隊が入山する。
今の所、両隊からは何の報告も上がらない。
前回の敵の動き方から見て、エリアはかなり警戒色を強めていた。
「…いませんね」
「前回もそう油断していたらいきなり現れた…油断するな」
小隊長として部下に接するエリアには、普段グレンや他の小隊長に見せるような明朗さは無い。
特に今回の敵は相当な練度を誇る精鋭部隊である。
自分たちの動きが中隊隊員800人の命を左右する。
否が応でもエリアは気合を入れざるを得ない。
「しかし、小隊長はこういった時にこそ隊長等と接する時のような余裕を見せるべきでは?」
エリアの横につく隊員が話しかける。
「黙れ、あんなものは作りだ。あんな疲れること何時までもやってられるか馬鹿らしい」
「そうですか、私としてはあちらの方が余程本来の…」
「黙れと言っている、ロズレッド。お前は副長のくせに、何で私に何時までも取り憑いている?
さっさと配置に戻れ」
「はいはい、そう肩筋張らないでも良いと思いますがね」
そう言い残し、ロズレッドと呼ばれた副小隊長は部下の下へと姿を消した。
「アイラ、何かあっちに変なものがあったてよ」
一方のアイラ小隊は何かを見つけたらしく、隊員が慌ただしく走って来た。
「そう、じゃあ行こうか」
アイラは隊員が走ってきた方向へと向かった。