85 地力の差
”対処しろとは言ったが…”
先ほど吹き飛んだ騎兵が、どうにか起き上がり掛けていた所を思い切り蹴り飛ばし、グレンは次の
標的を決める。
その間にも中隊の兵達は、数人で一騎の敵騎兵を相手に奮戦していた。
”コイツラ一体どこからどうやって来た?物音一つ立てずに十数騎も来れるもんなのか!?”
グレンは切り立った斜面から、全くの無音で駆け下りて来た敵と部下達を見渡す。
”…クソッ!数的優位も関係無しかよ。まずいな、この衆らウチより上だ!”
「グレン!この連中とんでもなく使うぞ!」
しばし考え込みかけていたグレンを、ガランが大声で現実に引き戻す。
「分かっとるわ!! ガラン!お前を先頭に麓まで引くぞ!ヴォルゲン!俺と一緒に殿だ!」
「ハイよ!隊長!」
グレン達は、殿を務めつつ、麓を目指し全速力で走り下った。
「駄目だ!振り切れないぞ隊長!」
「あたりめえだ!相手は馬だぞ!」
「なんでこんな斜面を無音であんなに早く走れるんだアイツ等!!」
「俺が知るか!後ろ来るぞ!」
グレンの声で、ヴォルゲンは背後からの斬撃を間一髪で躱す。
「エリアどこ行ったあいつ!!」
「隊長!あんたの右手だ!!」
「呼びました?」
普段と特に息使いが変わらず疾走するエリアに、グレンはようやく気づいた。
「”呼びました?”じゃねえ!ボケ!お前!さっさと閃光弾と爆音弾全部出せ!!」
対して、荒い呼吸でグレンは怒鳴りかける。
「え~?せっかく補給できたのに…」
「馬鹿か!ここで死ぬぞ!?」
「いや、僕は逃げ切れるんですけど…分かりましたよ…そんな目で見ないで下さい。部下を見る目
じゃないよそれは。」
グレンからスッた金で、先日購入したカバンに詰められた物を取り出す。
「じゃあ行きますよ、5、4、3、2、よっと」
カウントダウンと共に、エリアはグレンの要望を、後ろ手に敵へ向けて投げつけた。
瞬間
空間一面が白い閃光に包まれた。
一秒ほど遅れて、今度は腹に響く爆音が周囲を支配した。
敵騎馬の足が止まる。
その間も、グレン達は全速力で駆け下りていった。