78 ごく自然に
全く何事もないかの如く、自然な流れでエリアとアイラは隊舎に戻った。
金は全て使い切った上に、財布はしかるべき方法でしっかりと処分した。
証拠はこの世から殺害され、最早誰の目を見ることは無くなったのだ。
この件は、二人の腹の中でのみうかがい知ることができる。
さて、グレンは資金紛失の責任を取り、自らの軍銀行口座の預金を取り崩す羽目となった。
いくら溜め込んでいるとは言え、半年分に相当する給金がこの一瞬で消えたことは、グレンに
暗い影を落としたのだった。
その件も、先程のエレナの発狂によってすっかりグレンの頭から消え去った。
いや、正確には無理やり追いやったと言うべきか・・・
「お、カバン新調したのか?エリア」
第二中隊の各小隊長にグレンからの招集が掛かり、エリアは作戦室に一番乗りで席に座っていた。
その横に二番手に入室してきたガランが座りながら話しかける。
「ええ、ガランさん。こないだの戦闘でひどく破損しちゃったので、修理に出すよりも思い切って
買い替えちゃおうと」
「へえ、良い生地だな幾らしたんだ?」
「いやあ、おかげで先月の給金すっ飛んじゃいましたよ」
「おほっ、ずいぶん奮発したなオイ」
「まあ、僕は敵将討ちの金星あるんで、その分は他の若い衆より高い金貰ってるんで」
「くおぁー!良いなぁ!余裕ある奴は」
「独身なんでこんな時には使える銭有りますからね」
とりとめのない会話を繰り広げているエリアとガランだが、その二人の横にヴォルゲンが座る
「お前らその辺にしておけ・・・そろそろ隊長が来るぞ、金の話はするな。」
「何かあったんですか?」
原因は貴様だ。
「師団と大隊長から支給された資金を、財布を丸さら落としたんだとさ・・・さっき銀行の預金
取り崩しに行ったぞ」
「あれまあ、それは又・・・不幸なこって」
この男はどの口が言えたのだろうか。
「そう、だから金の話はするなよ?余計な波風を立てないようにな」
「分かりました」
「グレン、不幸な奴だな・・・」
その後、小隊長達が全員着席し、最後にグレンが入室した。
幽鬼の如き気配を纏いながら。




