70 第二中隊遠征前夜
不貞腐れたクロードをその場に置いて、グレン達は部屋を後にした。
本日中に全ての作業を終え、明日には発たねばならないので二人は大急ぎでそれぞれの隊舎に戻った。
「武具の最終チェックは終わったか?」
「はい、さっき確認しました」
「絶対に漏らしがないようにな?命がかかってるぞ」
「分かってますよ、百も承知です」
ガランがエリア達若年隊員たちに指示を出していた。
どうやら輜重品の最終確認を行っている様子だ。
「あ、隊長おかえり」
椅子に座り机に突っ伏すアイラがグレン気付き、声を掛けた。
「お前も手伝えやアイラ」
「お前はいらんて言われた」
特に表情を変えずにアイラは話す。
「アイラに手伝わすと糧秣の数が合わなくなるので」
代わりにエリアが答えた。
「ああ・・・」
それを聞いたグレンは納得したようだ。
「大隊長から何か指示がありましたか」
「ああ、お前ら喜べクロードは今回の作戦から外されたぞ。代わりにディッセンバーさんが来る」
グレンは先程のやり取りを隊員たちに伝えた。
「ヒャッホー!」
「マジかよ隊長!やったな!」
「これで、馬鹿の子守せんで済んだなグレン!」
「一安心ですよ・・・」
隊員たちは、思い思いの素直な感情をさらけ出した。
「お前ら凄えな、一応上官だぞアイツ」
準備を終えて、夜になり隊員たちはドンチャン騒ぎに明け暮れていた。
よほどクロードが外されたことが嬉しかったのだろうか?
「明日本番だぞ・・・分かってんのかコイツら?」
少し離れた席で、騒ぎに加わらないグレンはポツリと呟いた。
「隊長、ここ失礼します」
エレナが正面の椅子に腰を掛けた。
「お前は飲まねえんだな」
「冗談を言わないでください、本番は明日ですよ?」
「そうなんだよな・・・まだ始まってすらいねえんだよな?」
グレンは視線で後方のガランたちを示す。
「あ~、またヴィクトルが絡まれていますね・・・」
「ちょっと助けてくるわ、今回はシャレにならん」
そう言い残すと席を立ち上がったグレンは、ガランのもとに向かう。
「いや、だから作戦前ですよ!無理ですって!」
「大丈夫大丈夫だいじょうぶだいじょうぶ」
「ダイジョウブダイジョウブダイジョウブ」
「全然大丈夫じゃない!既に!目が笑っていない!!」
組まれた肩を懸命に外そうともがくヴィクトルに、既に出来上がり、執拗に飲ませようとするガランにヴォルゲン。
その背後にグレンは付いた。
「オイ」
「んあ?」
背後から掛けられた声の主を認識する前に、二人は即座に昏倒させられた。
馬鹿を始末したグレンは、先程の席に戻る。
「そう言えばディッセンバー隊長、復帰されたのですか?」
そこでエレナが疑問をぶつける。
「うん、今回は復帰戦だってよ。」
「結構掛かりましたね?」
「腕の骨が三ヶ所折れたらしいからな」
「それでいきなり実戦復帰ですか?大丈夫なんですかね?」
「分からんが、本人がやれるって言うなら大丈夫なんだろ」
「クロードの子守が無くなったかと思えば・・・」
「それ以上言うんじゃない」
エレナは一抹の不安を感じたが、グレンに静止されそれ以上は続けなかった。




