69 第三中隊長
「お待たせしました」
扉を開け入室したヴェルヘルムは、二人の姿を確認すると一言侘びた。
「いや別に?それよりディッセンバーさん、退院できたんすね?」
それを特に気にしていないかのように答えるクロードは、ディッセンバーに話しかける。
「おう、久しぶりだなお前ら」
「傷の加減はどうですか?」
グレンは気遣う素振りを見せる。
「ああ、どうにか戦えるぐらいには回復したでな。こうして戻ってきたわ」
「それは何よりで」
「皆さん、少し宜しいですか?」
椅子に腰を掛けたヴェルヘルムが、三人の会話を遮断した。
「今回この面子に集まって頂いたのは他でもありません。件の盗賊退治の指令についてです」
「なんか問題でも出たんか?」
クロードが尋ねる。
「ええ、単刀直入に伝えます。クロード・・・君は今回の出撃から外します。代わりにディッセンバーをグレンに付け共に盗賊団を討って頂きます」
それを聞いた瞬間、グレンは歓喜の余り飛び上がりそうになった。
対してクロードは
「何で?」
平然とヴェルヘルムに尋ねる。
「ディッセンバーの希望です。復帰したばかりで、かなり訛っているそうなので」
「じゃあ、俺じゃなくてグレン外しゃ良いだろ」
「お前すげえね、本人の前でさ」
ヴェルヘルムの横で聞いていたディッセンバーが、思わず呆れた声を漏らす。
「てめえ第五の分際で、第二の俺によくもそんな舐めた口聞けるな?」
「対して変わりゃしねえじゃねえか」
グレンとクロードがバチバチと視線を鳴らす。
「クロード、今回の件はこれで決まりです。君が何を言おうと覆ることはありません。出撃はグレンにディニッセンバー、この二人です」
「・・・・・・」
クロードが敵意を込めた目で見つめるが、ヴェルヘルムはまるで意に介さない。
「あ~何かすまんな、クロード。俺が我が儘を言ったせいで・・・」
場の空気を察したディッセンバーが仲裁に入る。
「・・・・・・いや~ホント残念ですよディッセンバーさ~ん。お蔭で『愛の狩人』の新装開店行けなくなっちゃたじゃないですか?~」
クロードは、先程とは打って変わり満面の笑顔でディッセンバーに答えた。
“大概、二面性強いなコイツ・・・”
グレンは感じたことを口には出さなかった。
「では、話はこれで終わりです。二人共、お願いしますね?」
ヴェルヘルムはそれだけ言い残し、部屋を後にした。
「じゃあディッセンバーさん、宜しくおねがいします」
「優しくリードしてくれや」
「何を寝ぼけたことを・・・おい、クロード」
「あ?」
ディッセンバーから視線を外したグレンが、クロードに声を掛ける。
「ざまあ」
「死ね!盗賊に生革剥がされろ!!剥製オークションで出品されたら落札して火ィ放ってやらァ!!」
「うるせえ馬ァ鹿!留守番とかザマアねえな全身男性器野郎が!!大人しくこの街に引きこもってろ!!ついでに粉掛けた女衆に全身刺されてハリネズミになればいいわ!!」
お互いに罵詈雑言を送り合うグレンにクロード
「あ~久し振りだなこの感じ・・・」
それを傍目で見ながら第三中隊長ディッセンバーは、帰ってきた第六十大隊の空気を存分に懐かしんでいるのだった。