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皇國の防戦記  作者: 長上郡司
第五章 治安維持
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68 光明

大隊長の待つ二階執務室の来客椅子に、二人の中隊長が腰を掛けている。


グレン・バルザードにクロード・ヴァルテウス。


二人は実に両極端な表情だ。


グレンは傍目に見ても、明らかに沈んだ目付きをしている。


「どうした~?グレン、目が澱んでるぞ~」


それを見たクロードは上機嫌でグレンに尋ねるが、特に心配している素振りは見られない。


「何でもねえよ、死ね」


「なんだよ~おっかねえな~そんなんじゃ女にモテないぞ~?」


「黙ってろ・・・頼むから・・・」


グレンは持参した作戦指令書から目を離さず、クロードをあしらう。 


「それにしてもヴェルムは遅いな~さっさとイキてえんだけどな~」


ギシギシと、椅子が悲鳴を上げるほど激しく腰を振るクロード


「どこにイク気だよてめえ」


先程から、大隊長のヴェルヘルムを待つ二人。

指定された時刻はとっくに過ぎている。


「は~や~く~は~や~く~この地より~旅立って~ 私は~私は~貴方に~会~い~た~い~」


待つのに飽きたのか、クロードは最近流行りの歌謡曲を口ずさむ。


「私の~心は~魂は~全て~貴方に~預けたのよ~」


グレンはその熱唱に対し、完全無視を決め込み目を瞑り腕を組ながら、作戦シミュレーションを頭の中で組み立てる。


「さぁ~私は~行くわ~貴方の~魂を~探しに~この~悲しみの~大地から~」


何だかグレンは眠くなってきた。

最近心労に苛まれているからだろうか。

熱唱するクロードの歌は、下手か上手かで言えば間違いなく上手なので、子守唄がわりにちょうど良い塩梅だ。


「さぁ~私は~旅立つの~貴方の~心を~探しに~この~苦しみの~大空へ~」


そろそろ茶番劇が終わる。


「旅立つの~嗚呼~旅立つの~」


「終わったの?」


目を開いたグレンは、クロードに尋ねる。


「紳士淑女の皆様、ご清聴~ありがとう~ございました~」


まだ夢の世界に居るようだ。


「帰ってこいや、自己陶酔野郎」


グレンはクロードの後頭部をひっぱたいた。


「ヘブッ!!」


バチンッと良い音と、クロードの悲鳴が執務室に響き渡る。


「どこまで旅立ってんだ?大空や大地か?」


「くっそ、せっかく人がいい気持ちで・・・」


「いい気なもんだよ」


「まぁ、盗賊だが山賊なんざパパッと殺っちゃっとけば後は自由だろ?そうなりゃその後は女の子と組んずほぐれつのレッツパーリィーだろうよ~」


「素直にすげえよお前は、俺は人切った後にはとてもヤル気にはならん」


「あ~ヴェルム早く来ねえかな~」


椅子に座りながら、両足の裏をパンパンと合わせ叩くクロード。


それを横目で見ながら執務室の扉を見ると、ふと気がついた。


「窓の外から話し声が聞こえるな?」


「ん~?」


二人は椅子から離れ、窓から顔を出す。


下を見ると、そこには件の大隊長ヴェルヘルムと、彼に付き従う男が宿舎に入ってくるのが見えた。


「やっと来たか~ヴェルム~」


「もう一人居たが、誰だか見えたか?」


喜ぶクロードに、グレンが質問する。


「ディッセンバーさんだろ?一昨日退院したらしいから」


「ディッセンバーさんが?」


その名を聞いたグレンは何か、良い予感がした。

グレンにしては珍しく、明確に良い予感が。


そのすぐ後、ヴェルヘルムは、グレン達と同じく中隊長のディッセンバーを共にして、大隊長執務室に入ったのだった。

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