66 紛糾の第二中隊
第二中隊は、一致結束し第五中隊長クロードの同行を拒否した。
「グレン勘弁してくれ、アイツが来たら余計な仕事が増えるのが目に見えているだろ?」
筆頭小隊長のガランが、真っ先に断固として拒否したのが皮切りになった。
「隊長、明確に余分な負担を自ら抱え込むのはいかがなものかと・・・」
第二小隊長エレナも続く。
「やめとけ隊長、アイツは誰がどう見たってマイナス要素でしか無い。置いていけ」
ヴォルゲンも簡潔に拒否する。
「私の心労をこれ以上増やさないでください」
ヴィクトルは自らの胃の具合が心配なようだが、グレンにはそれを咎めることは出来ない。
「着いて来たって、一切面倒見ませんよ?僕は」
エリアはそもそも関わることを拒絶している。
「早く死にませんかねアイツ」
メルヴィンは端的に死んでほしいようだ。
「そもそも、何でクロードが来るの?」
総員拒否態勢の最中、アイラが疑問を正した。
全員が全員、クロードの同行をいかに阻むかで頭が一杯となり、肝心の同行理由を誰も聞き出してはいなかった。
「アイツが・・・一言『俺も行きたい』って言ったら、大隊長が・・・その・・・許可をな?出しちゃった」
グレンはひどくバツが悪そうに隊員たちに話す。
「何なんだよそりゃあ!何でそんなふざけた申請が通るんだ!おかしいだろうが!!」
「明らかにおかしいですよね!?皇國軍ってそんなにホイホイ舐めた申請許可が通る様なユルユル組織でしたっけ!?」
ガランとエレナは思わず机から立ち上がり、戦場さながらの剣幕でグレンに詰め寄る。
「いやあ・・・俺この間クロードをちょっくらブチのめしちゃったじゃん?」
「あん?ああ、城塞戦直後の件か?」
「あれでアイツ怪我して、しばらく戦えねえとかゴネたらしくてな?」
確かにグレンは、城塞攻略直後に余りにふざけた態度を取ったクロードに対して、強烈な折檻をお見舞いしていた。
「何週間前の事だと思ってんですか!直後に言ってこないのに今更!そこいらのチンピラの手口ですよそれは!!どうせ他所の街に行って❝娼館フィーバー❞ブチカマしたいだけでしょ!!」
エレナが派手に机を叩きながら叫び倒す。
「ふざけんじゃねえぞグレン!!お前!まさかその指令受領したんじゃねえだろうな!?」
「・・・・・・・・」
グレンは、鬼の剣幕の部下と目を合わせられない。
その態度を見て、部下は全員察しが付いてしまった。
「隊長・・・お前・・・」
ヴォルゲンが、心底呆れた様子でグレンを見つめる。
「俺をそんな目で見ないでくれ・・・」
グレンは両手で顔を覆う。
「大隊長相手には、ほんとに弱いですね・・・」
ヴィクトルは、すでに諦めが付いた様だが、それでもグレンへの文句は止められない。
「本当に済まねえとは思っている・・・・・・」
「大将もクロードに甘すぎるだろ・・・」
ガランは力なく椅子に座る。
「まあ、決まっちゃった物はしょうがないですけどね。一体何でクロードさんは僕らに同行したいんですか?目的如何によっちゃ別に・・・」
もうどうしようもない事を悟ったエリアは、思考を切り替える事にしたが・・・
「娼館のリニューアルオープン」
「エレナさんビンゴですね?流っ石ァ!」
思わずエリアは囃し立てた。
「何も嬉しくないわよ!バカ!!」
それをエレナは一刀両断する。
美しい顔を般若の如く歪め、黄金の様な髪を振り乱しながら自らの椅子を蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた椅子は派手に吹き飛んでいった。
「もうアイツぶっ殺しましょうよグレン様」
メルヴィンが挙手しながら進言する。
「出来るモンならとっくの昔に切り刻んでるよ」
「くっそが」
「エリア、それは俺に言ってんのか、それともクロードに言ってんのかどっちだ?」
「両方に決まってんでしょ?分かりきった事聞かないでくれますか?」
「だろうな・・・」
今回ばかりは、一切反論が出来ないグレンであった。