60 母校
翌々日、グレンは自身の母校を訪れた。
エイミーの担当教官が、かつて自身の恩師であることを聞いたので、挨拶をしておくためである。
「どこまでも付いてきやがって・・・」
「別に減るもんじゃないでしょ」
「お前らと話すと心が磨り減る」
来訪者名簿に記入し、教官控え室にグレン達は向かう。
「頼むから先生に失礼な態度を取るなよ?」
「失礼な態度って?」
「例えがないと分かりませんねえ」
「普段のてめえらの応対みてぇなのだ!ついでに今!その返し!絶妙に人の神経逆撫でするその態度!!」
「隊長、うるさい」
「校舎の中ですよ?」
「あ~~俺の部下超うぜぇ・・・」
「まあ、見ててくださいよ」
「一瞬でも舐めた態度かましたら、二人揃って小隊長クビな?」
グレンが真顔になったので、これ以上の追撃は控えた。
エリア・シュナイダーは、引き際を見誤らない男である。
教官控え室の前に到着したグレンは、一言挨拶し、教官の元へ向かう。
今は授業中である為か、ほとんどの教官は出払っていた。
「先生、ご無沙汰しております。」
「おお、グレン。久しいな、良く来た」
年齢は、五十代の半ば程だろうか。
腰まで延びたかなり白髪が目立つ黒髪を、首筋で一つに結んでいる男が、グレンに応対した。
細かい傷とシワが刻まれた顔に、男の人生が伺える。
男の名は、アルフォンス
元武官にして、現在は幼年学校の主任教官を勤めている。
「千人将に上がったそうじゃないか、活躍はここまで届いているぞ」
「全て先生の教えのお陰です」
グレンは素直に感謝を伝えるが
「はっはっはっ世辞を言うな・・・ところで、後ろの彼らは?」
その質問に、一瞬グレンは苦い顔を見せるが、そのまま伝える。
「二人は私の部下です、右側がエリア・シュナイダー、左がアイラ・ベルゴール・・・私の中隊の小隊長です」
「エリア・シュナイダーて申します。グレン中隊長から小隊長の大役を仰せつかっております」
「アイラ・ベルゴールです」
「そうかそうか、二人とも良い目をしているな」
「・・・視力は抜群ですよ」
「・・・」
「・・・」
ゴーン ゴーン ゴーン
グレンが近況を知らせている最中に、終礼の鐘が鳴った。
「おっと、楽しい時間が過ぎるのは早いな」
「それでは、そろそろ失礼致します」
グレンが帰ろうとしたその時
「失礼します」
「アルフォンス先生、いらっしゃいますか?」
生徒が控え室に入室してきた。
「あ、お客様ですか?」
「大丈夫だよ、彼もここの卒業生だ。君達よりも、6~7期上かな?」
「イヴァン・クルーガーと申します」
「アクレシア・レッドグレイヴです」
グレンよりも6~7歳下と言うことは、13~14歳
しかし、二人はすでにグレンに身長が並ぶ位まで高い。
何か、余り敬意のある態度には感じられなかった。
「皇國東方軍千人将、グレン・バルザードです」
イヴァン・クルーガー視点
“分からない部分が有ったので、教官室のアルフォンス先生を訪ねたんだ
私がこっそり行こうとすると、アクレシアが目ざとく気付き、結局一緒に行くことになった
私はこの女が苦手だ
はっきり言って
試験で私に負けたのが余程気に食わないのか、何かにつけて私に対抗意識を燃やす
貴族としての意地みたいなものだろうか
こんな事になるなら、試験で学年一位なんて取るんじゃなかったかな?・・・”
アクレシア・レッドグレイヴ視点
“イヴァンがこっそりと教室から出ていくのを、私は見逃さなかった
彼は凄い
私が苦労して、どうにか身に付けた技術や知識をさも当たり前のように吸収している
凄い・・・
最初は悔しかった
同い年の彼が簡単に出来ることを、私は出来ない
だけど、彼は彼で凄まじい努力をしている事を知った
自分が恥ずかしかった
彼に追い付くには、努力を重ねるしかない
彼に振り向いてもらえるまで
私はひたすら動き続ける”
「グレン・バルザード・・・千人将・・・」
「“戦闘龍”ですか?・・・」
「そんな名で呼ばれる事もありますね」
「な、何故?こちらへ?」
「最前線で生活されていると伺っていましたが・・・」
「ちょっとした休暇ですよ・・・墓参りも兼ねて、母校にお邪魔しました」
グレンと生徒が学校生活と、実際の戦場についての会話をしていると、アルフォンス教官が口を挟んできた。
「ところで、君達は何か質問があって私を訪ねて来たんじゃないのかな?」
「あ、失礼しました、アルフォンス先生」
「実は分からない所がありまして・・・」
「ん?・・・ん~」
唸るアルフォンスを他所に、グレンは今度こそ退出しようとするが
「それでは、私は失礼致します」
「ああ、グレン待ちなさい」
「はい?」
「これ、君はどう考えるかな?」
「・・・あぁ、『國史』と、『大陸史』に・・・『戦史』『軍史』『外交史』・・・ん?『農業史』『工業史』?そんなの有りましたか?」
「選択科目だね、君は確か『水車の生産技術に置ける技術革新』をテーマに提出していただろう?」
「何ですか?・・・そのマニアックなテーマは・・・」
隣で聞いていたエリアが堪らず口を挟む。
「彼は、歴史分野の学年主席だったからね。何でも答えられると思うよ」
「・・・え?」
「流石に私も、この二人が同時に相手では、中々大変なんだよ。何せ優秀だからね」
「ん?・・・・・・」
「そうだな・・・アクレシア、君は『國史』と『軍史』か、グレン済まないがよろしく頼むよ」
「グレン千人将、よろしくお願いします。」
「・・・・・・え?」
どこでも良いように使われるグレンであった。