56 追憶のグレン
エリーゼはどこかに去った。
霧が晴れるが如く鮮やかな去り際は、まるで何も無かったかの様な思い違いを起こしそうになる。
が・・・しかし、残念ながら彼女は、先程まで確かにこの場所に居た。
十年以上の時を越え、亡霊となってグレンの前に姿を現したのだ。
彼女は去ったが、グレンは一向に立ち上がれなかった。
全身を激しい虚脱感に苛まれ、指の動き一つ取れないのだ。
“十年以上経つのか・・・もう・・・”
グレンは、エリーゼの最期を実は人伝ながら、ある程度は耳にしていた。
だが、耳で聞くのと目で見るのではやはり違う。
亡霊少女はグレン眼前で、自らの最期の姿を詳細に伝えた後、その無残をまざまざと見せてくれた。
トラウマを直に抉られた。
それも、そのトラウマその物に
深く、深く、根深いその傷を
グレンは抉り取られた。
“寝るか?・・・もう・・・”
しばらく経ち、ようやく立ち上がれるまでになったグレンは、ベッドに足を向ける。
ふと、窓の外を見る。
暗闇が広がっている。
深く、暗い、漆黒が、窓ガラスを覆い尽くしている。
その深淵の風景を、グレンにある人物を連想させる。
“・・・・・・・・・・・・お前は・・・・・・本当に・・・・・・”
その意識を振り払い、グレンは床に就いた。




