03 西方の守護者
「閣下が檄を飛ばす? えっ? 士気下がらない?」
「さっきからきっつい事ばっか言いますね、エミリアさん」
「心底嫌いだから」
「端的すぎでしょ、うちの最高指揮官ですよ?あの小さいの」
「普段から仕事しないで、ああいう時ばっかりしゃしゃり出てきたって、苛ついてくるだけよ。何かこの間私、白髪があったんだけど?私まだ20も半ばなんだけど?ひどくない?ねえ?精神的苦痛で軍法会議にあいつ上訴したいくらいなんだけど?」
「エラく早口ですね…落ち着いて下さいな、私に言ったって何も出来ませんから…無駄ですよ?時間の…そもそも総統を相手取って戦っても負けますから」
「最近あんたもストレス源の一環な気がしてならないのよね…それも構成主体で」
「何のことでしょう?いやはや…さっぱり分かりませんねぇ?」
エミリアとその部下は、軽口を叩き合いながらグレンが居る場へと向かう。
グレンは今か今かと出撃を待つ、西方軍の大勢の将兵たちの前に姿を表した。
髪とヒゲを整え、重装の鎧兜を羽織り、幕僚たちを両脇に従えたその姿は正しく歴戦の❝大将軍❞であり一軍の支配者である❝西方軍総統❞と呼ぶに相応しい闘気を身に纏っていた。
「我が精強なる西方軍の諸君よ!同盟の狙いはこの地だ!お前たちが祖先より受け継ぎ、血と汗を流しながら今日まで守り抜き、開拓してきたこの豊かな大地を!愚かにも奪い取ろうと、目を血走らせて目と鼻の先まで来ているぞ!」
拡声器も通さずに、広大な敷地の隅々まで彼の声は届く。
「西方の戦士達よ!!答えよ!!お前達の大地を、家族を、歴史を踏み躙らんとする者達に!!お前達は一体何を持って報いるべきか!!」
矛を掲げるグレンは、西方軍に問う
「殺せェ!!」
「ぶっ殺せェ!!」
「一人残らず血祭りに上げたるわァ!!」
❝同盟国軍❞への凄まじい怒号が上がる。
「西方の勇者たちよ!!答えよ!!西方軍の!!我らの流儀とは何だ!?」
「侵略者には死を!!」
「侵略者には死をォ!!!」
「侵略者には死をォォ!!!!」
「その通りだ!!皇國の勇者たちよ!!!お前達の!!皇國の正義の名の下に!!!薄汚い山賊共に天誅を食らわせてやれェ!!!お前達には!この❝戦闘龍❞グレンがついているぞ!!!」
グレンのその声を合図として、西方軍将兵の爆発的な歓声が大地を支配する。
「さあ行くぞ!!皇國の勇者達よ!!出陣だァ!!!」
グレン将軍!グレン将軍!!グレン将軍!!!
グレン将軍!グレン将軍!!グレン将軍!!!
グレン将軍!グレン将軍!!グレン将軍!!!
グレン!
グレン!!
グレン!!!
エミリアの辛辣な予想とは裏腹に、一瞬で西方軍将兵の士気を限界値まで引き上げたグレンは、増援軍の先頭に立ち城塞の城門から馬で駆け抜けていく。
その背後を追い、地を埋め尽くすほどに膨大な数の騎兵隊軍団がグレンに続いた。
「なに?アレ…怖」
「我らが総統ですよ」
「流石に豹変しすぎじゃないの?…あ、分かった…影武者でしょあれ」
余りの変わり身に、思わず現実逃避するエミリア。
「あんな小さいの、そんなに何人も居ませんよ」
それを部下は、バッサリと切り捨てる。
「えっ…私らも行かないといかんの?あの後に続いて?」
「そりゃあそうでしょ、あんたはうちの中隊の中隊長でしょ、待ってますよ?うちの連中も」
「ええ…」
「さあ、行きますよ?グズついてないで」
「はぁい…」
渋々ながらエミリアも、軍勢の後方を追っていった。