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皇國の防戦記  作者: 長上郡司
第三章 山岳城塞奪還戦
38/137

37 悪夢

あ~


休出いや~


日曜日なのに休出・・・


やだ~

とある帝国兵は、足が止まっていた。


彼の目の前では戦闘が繰り広げられていた。


いや・・・正確に言えばそれは戦いではない。


一方的な虐殺だった。


眼の前には、薙刀のような長刀を振るう赤髪の女が居た。


その女は、沢山の刀を身に着けていた。


背中に二振りの刀を、腰の側面と後方にそれぞれ二振りの、大小合わせて六振りの刀を身に着けていた。


彼女は戦闘中に状況に応じて刀を入れ替え、あらゆる局面に対応している。


・・・が、今は全ての刀を鞘に収め、薙刀のような武器を振るう。




その矛は、異様なほどの切れ味だった。


全身を重装備に固めた帝国軍重装歩兵を、まるでバターを切り分けるが如く、滑らかに切り裂いていく。


かつてはグレンを、ヴォルゲンを切り裂いたその❝悪魔の矛❞で、今は帝国軍将兵の命を、魂を刈り取っていくのだ。




そう、死神の鎌のように・・・




グレンの荒々しい戦い方とは全く異なるその様は、戦場をまるで舞踏会の会場の如く優雅に、可憐に舞い踊るのだ。


現状を忘れ、呆然と見つめていた帝国軍兵は、フッと我に返った。


そのまま気づかないままに切り裂かれていたほうが、幾分かはマシであったのではないだろうか。




もう、誰も居ない。


自分だけだ。


誰も、どこにも、居ない


彼以外は全員が血の海に沈められていた。




悪魔が彼に気がついた。




動かない。


彼は凍りついていた。


剣を振るうことも


踵を返して逃げ出すことも


彼は出来ない。




悪夢だった。


質の悪い夢なら・・・どれほど良かったことだろうか・・・


一歩、一歩、また一歩と彼に近づいてくる。




死が、


明確なる死が


近づいてくる。



彼の剣の間合いに、悪魔が入ってきた。



動けない


彼は


何も


動けなかった。



「・・・?」



悪魔が何かを呟いた。


聞き取れずに居た彼は、只々困惑していた。



もう一度、彼女は囁いた。



「あなたが最後なの?」



それが彼の、この世で最後に聞いた言葉だった。





そうして、帝国軍城門守備兵は全滅した。

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