30 寡黙な武将
「ブラドさん!結構やれるんじゃないですか、これ!?」
崖上より降下したブラド隊は、敵の迎撃隊と熱戦を繰り広げていた。
「そうです!グレンにわざわざ手柄をくれてやらんでも、俺たちだけで!」
当初想定していたよりも押し込めているのだろう。部下がこのまま我が隊で手柄を立てるべきと進言している。
「冷静になれルース、トーン、敵はこのままこちらを目掛けて意識が集中している。
下手に動いて一呼吸させてしまえば、こちらの狙いが露呈するやもしれん。
大隊長の指示通り、あくまで本命はグレンの左翼だ。」
「・・・わかりました」
渋々といった形だが、部下二人は引き下がった。
まだだ、まだグレンは来ない。
完全に右翼壁上に敵を引き付けなければ、城門までグレン隊がたどり着けなくなる。
そうなればこの作戦はご破産だ。
正面軍は何千人死んだのだろうか?
自らの部下は、すでに何人も討ち取られている・・・
何人も、何十も、何百も、何千もの犠牲の上で、自分は今この場で、敵を一身に引きつけるという重大な役割を背負い立っているのだ。
必ず、成功させなくてはならないのだ。
その為に、自らの武勲など気にした所で何になろうか?
今はひたすら耐え続け、受け続け、引き付け続ける。
今、この場において、自らの役割はそれだけだ。