126 金欠病
「金欠病で死にそうなんだけど、どうしたら良い?」
事務作業中のグレンが目の前で作業をしているヴィクトルに脈略無く話し掛ける。
「…この間の盗賊狩りの報償金はどうされたんですか?憲兵軍とは別口の支払い先が有ったんでしょう?」
面倒臭さを表情に隠さなくなったヴィクトルが、端的に質問する。
「一般國民からの懸賞金なんざ公僕が受け取れるかよ、突っ返したわ」
「真面目ですねぇ、別に構いやしないでしょ」
真顔でとんでもない事を口走るヴィクトル。
「お前すげえな、どこから漏れるか分からんから俺は怖くて出来ねえ」
「“戦闘龍”の台詞とは思えませんね?そもそも何にそんな銭を割いたんですか?」
「あの町でスラれただか落としただが知らねえが、軍資金を入れた財布が消えた……ん?お前に言わなんだっけ?」
「気づいたら意識が飛んでいたので、記憶も飛びました」
「そう……」
「あの支度金は大隊長からの餞別ですよね?なら別に返却せんでもエエでしょ」
「そりゃ本来の軍務ならそれでも良いがな、ありゃ大隊長の個人的な……」
何かを言い掛けたグレンはそこで口をつぐむ。
「何ですか?」
「何でもない、とにかくあの銭は俺が補填して大隊長に返却したから尋常でない金欠病に罹患しちゃったのよ」
「はあ…」
「貸して」
「エレナから借りてください」
「俺グレン・グライブスには成りたかないのよ、響きが悪いから」
ロクでもない理由でヴィクトルの提案を却下するグレン。
「じゃあエレナ・バルザードで」
「つか、借金=結納って怖すぎるだろ。何なんだあいつは」
「さぞかし玉のような子が誕生するんでしょうね」
無表情で流すヴィクトル
「うん、棒読み止めてくれる?割りと辛いよ?」
「さて、私は終わりましたがそちらは?」
「終わったよ」
「では確認の後、私から提出しておきます」
「ああ」
そう言い残すとグレンは一人執務室から退出した。
続く…




