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皇國の防戦記  作者: 長上郡司
第一章 怨嗟の声
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12 本心は誰にも言えず


「隊長、こちらにお出ででしたか」


ドンちゃん騒ぎに付き合い切れなくなってきたのか、エレナが声を掛けてきた。


「相変わらず、酒が入ると酷い有様ですね、この隊は・・・」


「昔っからだろこんな物、あいつらもストレス溜めてんだよ・・・毎度毎度自分の命を担保にして、全力で殺し合っているからな」


二人は長机を挟み、向かい合って座った。


「それが私達の仕事ですから、文句を言ったところで何も好転はしませんよ。・・・一歩一歩前に進んで行かないと、何時までも過去の鎖に捕らわれている訳には行きませんよ?・・・」


「何の話だ?・・・」


その瞬間に、場の空気が冷たく変わるのを感じたが、構わずにエレナは話を続ける。


「貴方が軍務に服したのは、何も御国の為では無いのでしょう?」


「何を言っているだか分からねえな。前にも話したろ?あんな思いをこれからの子供達にさせたくないから俺は今こうして軍に居るんだよ」


「それを最初に耳にした時には、素直に感心したものですよ。自分よりも年下の、当時16歳に成り立ての貴方が口にした言葉には」


「それが今も変わらねえ本心だよ。昔も、今も」


「隊長・・・そうじゃないでしょう?」


「ほお?じゃあ何か?俺がお前らに、普段から嘘偽りを持って接していると、そう言いたいのか?」


グレンは一見して普段と変わらないような話し方だが、自らを見る目が、明らかに違うのだ。


まるでそれは、敵と相対している時のような・・・


「開戦時に戦死された母君の報復・・・違いますか?」


「・・・お前がそれを知ってどうする?お前が替わりに見つけてくれるのか?」


「いいえ」


「替わりに殺してくれるのか?」


「いいえ」


「殺された人をこの世に戻してくれるのか?」


「いいえ」


「じゃあ、何でそこまでしつこく問い詰める?別にその件で隊の衆らを危険に晒している訳じゃねえだろ」


「違います、そうじゃない。」


「なら言いたい事をはっきり言え、誰も聞いちゃいねえよ」




周りの喧騒とは隔絶した空間の中で、暗い過去の話は、酔っ払い達は誰も聞いても居ない。




「隊長、別に私は報復や復讐の為に入隊し、部隊を率いていることを咎めたい訳でも、復讐という行


為その物を否定したい訳でも有りません。私も近しい者が殺されれば、必ずその方向に走るでしょう


から。私は隊長に、目的を為した後の事を伺いたいのです。」


「為した後?・・・」


エレナの語気に力が籠もる。


「貴方の人生はまだ果てしなく長いです。決してそこで終わりではない。


隊長は・・・今のままでは復讐で残りの人生を棒に振るような気がしてならないのです・・・」


静寂が二人の空間を支配する。




意を決したように、グレンはエレナに伝えた。


「エレナ、この件に何時感づいてどうやってそこまで調べ上げたかは今回聞かねえ事にする。


どうせ、不愉快な答えが返ってきそうだからな。」



グレンはすっかり出来上がったエリアの方を一瞬見ながら話を続ける。



「お前が今言ったとおりだ。見事だよ、よく調べ上げたもんだ。俺は確かに、國の行く末にも國民が


どうなろうとも正直言って興味が無い。只自分の中の報復心を満たすためだけに、自分からこの軍に


入った。


そうさ、あの日 あの時 俺の故郷を、この國のどこよりも、真っ先に地図から消してくれた連


中を一人残らず見つけ出すことを目標にして、この十年生きてきた。」


静かに、淡々とその暗い心うちを語る。


「自分の故郷が、何もかも、全て焼き滅ぼされるあの光景は・・・恐らく一生、死ぬまでこの瞼か


ら離れねえんだよ・・・それは、あの鴉旗を打ち殺しても変わらんだろうな・・・」



「鴉?・・・ですか?」


「そうだ・・・その連中は大鴉が部隊旗だった、だがいくら調べても、どこで誰に聞いたところでそ


んな部隊は誰も知らないと・・・」


「それは不自然ですね、開戦の口火とあらば絶対に失敗は出来ない局面です。その状況で無名


の部隊を寄越すのでしょうか?・・・」


「何故だ?・・・普通なら相当な精鋭部隊を投入するのが筋じゃねえか?そうだ、今考えても現状の


第二中隊でもあそこまで鮮やかに行くかは分からない・・・見事としか言いようの無い手並みだっ


た」


「え・・・」


この話の流れで、まさか敵のことを褒めるとは考えていなかったエレナは、しばし絶句した。


「そう・・・見事に俺の母親の部隊を榴弾で爆殺した・・・手始めにな」


関を切ったかのように、あの日の出来事をエナレに聞かせ始めた。


「真っ先に指揮官を殺し、駐留守備部隊を機能不全に落としいれ、蹂躙した・・・あの時は開戦間近


だったからな、増派した守備部隊が到着した直後だった。」


「指揮系統の混乱する隙を、狙ってきたと言うことですか?」


「その通り、まぁ指揮官の天幕に砲弾が直撃したんでな、その時点で勝敗は決していたんだよ」


「そして、その後に待っていたのは・・・」


「虐殺だよ、完璧に、一方的にな」


話し続けるグレンの瞳には様々な感情が渦巻いていた。


怒りも、悲しみも、憎悪も・・・最期に訪れるのはいつも決まって、強烈な無力感だった。


何も出来ずに、只ひたすら逃げることしか出来なかった、誰一人助ける事ができなかった自らと、こ


の世の弱肉強食という絶対的な理りに対する物だ。


「殺された・・・みんな・・・みんな・・・死んだんだ・・・もう、誰も居ない・・・誰も、どこにも・・・」


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