121 待ち人の人となり
「そちらの大将はどんな人間何だ?」
馬車に詰め込まれ、連行されているクルツは正面に座るディッセンバーらに、ヴィルヘルムの人柄について質問をぶつける。
連行中とは言え、特に拘束などはされず、ごく普通に扱われている。
一見すれば容易く逃げられそうに見えるが、クルツにその考えは無い。
逃げた所で、何か当てが有る訳でも無い。
そもそも眼前の二人からまともに逃げ果せる気は、砂粒程の自信も無い。
それを見越してか、ディッセンバーらも特に何をするでも無く、ごく普通にクルツを席に座らせている。
「まあ、兎に角掴み所のない人だな」
ディッセンバーがその質問に答えた。
「ああ、それは何となく分かるよ」
「何で」
「合戦中の敵を、わざわざ生け捕りにして人材登用するような人だからな」
「それに関しちゃあ、別にアンタが最初じゃないよ」
ディッセンバーの隣に座るグレンが口を挟んだ。
「他にも居るのか?」
「何人も、俺の中隊の小隊長にも一人な」
「ああ……あの赤髪のか?そういえば、あの子だけ容貌が浮いてたな…私が見た限りだか」
「随分と目ぇ良いな、そうだよ」
「あんなナリで、アンタらと殺り合ったのか」
「アイツには気をつけろよ」
グレンは右腕の袖を捲り上げ、クルツに見せる。
「何だ?その物凄い切り傷は……」
「アイツにやられた、首もな」
グレンは襟をめくり、首元の古傷をクルツに見せる。
「アンタよくその傷で生きてるな……」
「頑丈なのが取り柄の一つでね…ウチの大隊が五千人位居るが、あの馬鹿娘はその中でも三指に入る強者だ、そんな怪獣を無傷で退治したのが件の大隊長だ、俺は絶対に逆らわない様にしてる」
「怖いからな」
「はい」
「…口の利き方には気をつけるとしよう」
「そうして貰えると助かるね、せっかく苦労して生け捕りにした相手がよぉ、着くなり首だけになったら流石に俺も辛いからな…」
「そういう訳だ、大将の前ではちゃんと良い子にしてろよぉ?」
「とんでもない隊に捕まっちまったなぁ…」
続く…




