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5.アクアツアー

 すっかり動揺した僕は、タジマさんの名前を呼びながらむやみやたらに動き回った。酷く動揺した為か、角材は途中でどこかに落としてなくしてしまった。濃霧のせいでかなり視界が悪く、よたよたと徘徊するうちに何か固いものに衝突した。

「痛っ!」

 よく見てみると、それは一本の街灯だった。その街灯に対して最初は何の疑問も抱かなかった。しかし頭が落ち着きを取り戻すにつれて、妙な違和感を抱き始めた。

 灯りが点いているのだ。誰もいないはずの遊園地に。

 それから数分の間に濃霧はすっかり消え去り、姿を現したのは夕焼けに染まった真っ赤な空、灯りのともった観覧車やウェーブスインガー、そして目の前に立ちはだかるアトラクション『アクアツアー』だった。中からは愉快な音楽が聞こえている。

 これは一体どういうことだ。霧に攫われたのはタジマさんの方ではなく僕の方だったということなのか。だとしても訳が分からない。ここには誰もいないはずなのに、ついさっきまで入口が施錠されていたはずなのに、どうして灯りが点っている? 明らかに、今までいた世界とは違う。誰もいないにもかかわらず、遊園地のすべてが機能している。

「一花!」

 入口に向かって呼びかけてみたが、返事はない。帰ってくるのは愉快な音楽と陽気なナレーションだけである。

『みなさん、アクアツアーへよ~うこそ! 私は元冒険家のジョージ・スミス。これから入る洞窟の中には、かつて水の都と呼ばれていた伝説の遺跡が存在したのだ。 そしてなんと、遺跡の中には世界中の冒険者たちが探し求めてきた幻の財宝、クラウサ・レポノが眠っていたのだ! 私は何十年も前にあの洞窟に探検に行ったものの、邪魔が入り財宝を手に入れることは叶わなかった。しかし、あそこで見たものは実に素晴らしいものだった。どうだいみなさん? 覗いてみたくはないかい? 私の記憶を――』

 廃園前と全く変わらない音声に、思わず涙が出そうになった。懐かしい。恐ろしさよりもそんな感情が勝ってしまった。

 アクアツアーは水の下に敷かれたレールを走るボートに乗って、洞窟を探検するアトラクションだ。効果音とナレーションの声がいやに大きく、全体的に薄暗いので子供のころは乗るのが怖かった。洞窟の中には遺跡と財宝があるという設定で、道中様々な敵が現れる。その設定だけは冒険意欲を掻き立てるため、気に入っていた。そして何よりあのアトラクションでは、一花が……

 中に足を踏み入れてみると、機械は正常に作動しているらしく、乗り場にはボートが「さあ乗りなさい」と言わんばかりに準備されていた。

 馬鹿げた話かもしれないが、もしかしたら一花が中にいるかもしれないと思った。おそらくこの世界は、さっきまで僕がタジマさんといた場所とは全くの別次元にあり、一花は『こちら側』にいるはずなのだ。

 中に入るにはボートに乗り込むしか方法はなかったので、僕はスマートフォンのライトで足元を照らしながらボートに乗り込んだ。

 僕一人しか載っていないボートは静かに動き出した。子供のころとは違い、それほど恐怖を感じなかった。

 奥へ進むほど、暗闇は濃さを増してゆく。辺りが何も見えなくなったところで、突然ボートは波に揺られ何の音なのかもわからない効果音が鳴り響いた。子供のころはこれが怖くてならなかった。少し進むと、じきに暗闇の中にぼんやりと光るものが見え始める。ごつごつした岩場だ。岩の隙間に青白く輝く結晶のようなものが見える。僕はその結晶をぼんやりと眺めていた。

 その時だった。何者かの影が結晶の上を横切った。とんでもなく大きな影だった。

「誰だ!」

 僕は辺りを見回しながら叫んだ。その瞬間ふと、タジマさんの言葉が蘇った。

 ――なあ、アクアツアーには入ったことあるか? 謎の生き物の目撃情報があるそうだ。でっかい人型の生き物らしい。それもまあ、あの事件の後は騒がれなくなったらしいけどな。で、その謎の生き物っていうのは、実は事件を起こした犯人の影だって噂なんだよ……



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