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トリスの日記帳。番外編  作者: 春生まれの秋。
8/13

厄介な性質

ある種のネタバレ。解る方にだけ解れば、私(筆者)は嬉しい。

あの日、あの時、彼女の設定にはこんな事情があったり、とかね。



 …。アリ君は、卑怯だ。


 私は、いつも、彼に翻弄されっぱなしである。


 なのに、アリ君ってば、ちっともその事に気付いていないのだ。




 思えば、初めて彼を知った時。

 人付き合いの分からない私に、何の壁も、何の思惑も無く、真っ直ぐに己の感情をぶつけてくれた事。

 それが、そもそも、私には初めての経験で。

 情けも遠慮も心配も配慮も、欠片も無いその私に向けられた(正確には、私達に、だけど。)剥き出しの彼の心は、びっくりするくらいにすんなりと私に刻まれて。

 私は、彼に、深く深く、心を捕らわれてしまっていた。



 彼の声音を耳にすると、自然と鼓動が速くなり、鬱いでいた気分は浮上する。

 彼の存在を感知出来ない時には、何だか世界が少し霞んで感じる。

 そして、彼が何気無く漏らす不機嫌な空気を察知すると、その原因が、どんなに些細な事でも、私が何か悪い事をしたのではないかと、不安に駆られる。

 そしていつしか、近づくのも怖くなり、でも、近づけないと、落ち着かない様になっていた。



 最初は、この自分の状態が、何故なのか、理解出来なかった。

 ただただ私が、人付き合いに慣れていないからなのだと、そう思っていた。


 でも、どうやら違っていた。


 同時期に、アリ君と同じように仲間として親しくしてくれたアルヴィン君の事も、私は気になった。そして、その他の、クレアさんやリースさんの言動にも、心を揺らされた。皆の反応がどういう感情からなのかが分からなくて、私の存在が皆を不愉快にさせているのではないかと、怖くて、不安で、申し訳なくて。どうしたら良いのか、全く分からなかった。

 アリ君の言動にも、確かにそういう意味で動揺したり、逃げ出す程に怯えたりはしていたのだけど。

 アリ君からのモノだけが、他の誰から与えられるモノとも違っていたのだ。



 そういう、初めて心を揺らす、ドキドキを与えてくれる存在としての異性を『初恋の人』と言うのなら。

 私の初恋は、間違いなく、アリ君とアルヴィン君である。

 人間関係皆無の私が、一足飛びに抱くには、荷の重すぎる感情ではあったけれど。


 彼らの、気のおけない存在としての、壁の無い(薄い?なのかな?)言動は、不思議と心地好くて。初めての環境や経験に警戒心を抱く私の見識を存分に広げてくれた。


 勿論、13班の皆の行動は、どれも凄く、刺激に富んでいたのだが。


 それでもやっぱり、アリ君は、アリ君だけは、『特別』で。


 例えば、授業中。楊先生の課題に、私が必死で頭を捻らせている、そんな時。自分の席で何やら興味深そうに目を輝かせるアリ君の、その表情。腕を組み、顎に添えられたその手の一つとっても。腕に付く筋肉の筋に。整った綺麗な爪に。少年から青年へと変わる刹那の、男の人を感じさせるちょっと骨張ってきた大きな手の甲に、長い指。深く考え込んでいる時の眉間の深い溝。長い睫毛に、隠された、どこか無理をしている心を映す瞳。何かを閃いたらしい瞬間の、一瞬の、嬉しそうな口元。

 そんな些細な彼を構成する全てが、私の心臓を跳ね上がらせるのだ。


 

 アリ君は、いつも、私を、『妹の様に』気軽に扱っていた。出来なかった事を出来る様になる度に、何かが上手くいったときに、普段はあまり見せてくれない笑顔で、甘やかす様に、私の頭を撫でてくれた。わしゃわしゃと容赦なく。

 そして言うのだ。心からの言葉を。私に。

 『お前が危機にあったら、私は命をかけても助けに行くからな!死ぬなよ?』

 『消えようなんて考えるな!奈落に行ったら許さんからな!』

 『お前を心配する奴が居ることを忘れるな!少なくとも、私や、此処にいる、こいつらは、間違いなくお前に此処に居て欲しいと望んでいる。』

 なんて、心を揺さぶる言葉を。妹分への感情で。

 其処に欠片も、『女』の私を意識もせずに。

 その、私を安心させる、熱い熱意と、存在の熱で。安心できる、香りで。『妹分としての存在故に』入れて貰えている、アリ君のパーソナル・スペースに。

 私ばっかり、いつも、アリ君に揺さぶられて。

 

 『妹分』としてしか見て貰えないのに、『私自身』は、彼に魅了され続けているのに。その感情は、アリ君に受け入れては貰えないと。知っていたから。

 私は、心を封じ。記憶が消えたのを幸いに、無意識下で、アリ君の妹であった、ルナミスさんの魂を、元々あった、アイルハルト王だった魂と融合吸収してしまっていた。かろうじて、器に残るアイルハルト王の欠片だけの『私』は、新たに取り込んだ『ルナミス』と融合する事で、どこにも同位体の居ない『トリスティーファ・ラスティン』になった。

 それが出来たのは、器の作り手のお蔭だけではなく、あのタイミングで、記憶を無くせたから。

 私を魂に定着させた、『虚無』の尖兵としての本能によるもの。

 偶然にも似た、『クビア』の策略。

 そんな事態、私には、分からない事ばかりだったんだけど。

 『妹』扱いに苦しんだ『私』の自意識の、無自覚の結果。

 浅ましい迄に、アリ君に必要として貰いたかった、私の『心』が呼び込んでしまった事。



 そんな自分が、無自覚でも赦せなくて。

『消えたい』という、私の衝動は、勢いを増したのだと、今なら分かる。



 私は『私』を育てながら、どうにか『アリ君への想い』を、過去にしたかった。

 アリ君が、『トリスの相手はカイル』と、信じて疑わないから。

 事あるごとに、カイル君とくっつけようとするから。


 私は、『私』を保つのに、『彼に愛される私』でないと、アリ君に認めて貰えないと。そう、間違った心を認識してしまっていた。


 いつの間にか、『私を好きなカイル君に認めてられないと、私は世界に存続できない』 という変な項目が、刷り込まれていたのだ。




 本当に、どうしようもなくて。衝動に任せてお酒の力を借りて、アリ君に口づけた時。

 私の回路はショートした。

 軽く触れた瞬間に。

 全身に巡った衝撃。

 剰りにも鮮やかに、私の意識を『世界』へと繋げる彼の魂に。存在に。

 もっと深くアリ君を知りたくなった心と身体に。

 『魂』を離してくれない、暴力的なまでの、それ。



 暗く堕ちていく意識の底で、私は自身の世界に対する『危険性』に、うっすらと、勘づいた。





 

私の投稿しているモノは、ことごとくが特定の人にしかわからない仕様となっております。

宵闇の記憶の欠片達なので。

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