トリスの日記帳。番外編。6月のある日の出来事
お久しぶりです。
目を通して頂き、ありがとうございます。
トリス目線なのですが、ここに繋がるまでの話が、いつか書けるといいなぁ、と思いながら書きました。
本編の頃の事が、今はちょっと書きづらい精神状態なのですが…。
調子が良い時に、考えます。
「ふふふ。懐かしい。」
その日、愛用の鞄の中から出てきたのは、随分と昔に私が私に宛てた、一通の封筒だった。
これを手に取れる様になるのに、思っていた以上に掛かってしまった自分に呆れながら、私はあの日に思いを馳せる。
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ああ、これ以上は、壊れる。
私は、確かに破滅の足音を聞いた。
それは、度々我が身を襲う、不慮の記憶喪失等を伴うトラブルに対する、私の、私による、私の為の、未来に託してある対処手段の一つ。
何処に飛ばされても、どんな境遇に遭っても、私が自分を取り戻せる様にするための、ちょっとした小細工。
晴れた空の下、温かで心地の良い喫茶店の一室で、香り高いコーヒーを飲みながら、その日、私は決意した。
余りにも、私は、私に、自信がなかったから。
余りにも、私は、あの方に甘え、自身で自身を支えるのを怠っていたから。
そのせいで決意した行動が元で、余りにも、私の周りの、大切な人達から、失望させてしまうに値するものだと、分かってしまっていたから。
あの頃。私の自我は、最初に比べたら、かなり強固に固まってきていた…………筈だった。
ある、特定の分野以外において。
私を、『私』たらしめる為に、私の自我の最初に、その部分を外側から支えてくれたあの方。私は、その部分がとても脆くて。外から肯定してくれるあの方は、揺るがずに在り続けてくれる、なんていう幻想を、何の疑問も抱かずに信じきっていた。
だから、私は、私の存在が揺らぎそうになると、その方に会いに行き、自分を安心させていた。
それが、あの方にとって負担なのだと、愚かにも、知らないままで。
先週、変わらずに大丈夫だったから、あの方の噂を聞いて、確めに行った。
しかして、それは現実で。
もう、あの方に私を肯定してはもらえないと、突き付けられた。
離れる為に為した行動も。
決別の為の行動も。
全てが、あの方には、迷惑でしかないと、悟って。
私も、私の引き際を決めた。
あの時、あんなことをしなければ、私は私を支えられないこの事態と、私が、あの方達に与える不快感に気付けなかったのは、事実。
でも、優しいあの人達を、危険な私から、守りたくて。
世界の全てを『内包』でなく、『拒絶』を選びそうなほど、自分が揺らいでしまいそうだと、本能的に察知したから。
あの時の私には、恐らく、そう遠くない未来に、大事なあの方を私の中から微塵も残さず消すことを、選択してしまう、と感じていたの。
それは、自分でも起こせるし、他者にお願いも出来てしまう、私が私だからこそ選べる手段。
認識によって、世界が形作られるからこそ、そして認識を歪める手段を複数所有する自分だからこそ出来る、緊急避難の様なもの。
一般的には、非難される事の多い手段である、ソレ。
『完全なる存在の忘却』
今の関係性を忘れるのではなく、関係があった事その物を私の中から、無かった事にする手段。
もしも、その決断をして、揺らいで、またしても『私』が無くなって、『何か』に『器』が獲られそうな時には、きっと私の大切な半身は、気付いてくれると信じての、防衛処置。
全てを忘れるのは、経験に対する冒涜なのかも知れない。
けれど、その危険を犯しても、私から、あの存在を造り出してはいけない。
この手段は、きっと、凄く怒られるけれど。
あの人が、あの方の変わりに、その部分を担ってくれると、契約してくれたから。
時間を置いて、私が揺るがなくなったその時には、今から残す、この一通が、役に立つはずだから。
本当は、最愛の半身に満たされたいところではあるのだけれど。
不器用な私の半身は、私と同じで、その部分がとても苦手だから。
我が儘は、言ってはみたものの、通じないのも、分かってしまっているから。懸命に応えようとしてくれているのも、伝わっているから。
この不安定な私の状態は、私自身でも、不愉快極まり無いのだけれど。
仕方がないのです。
ごめんなさい。
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そんな気持ちで、その時に綴った、涙の滲んだその封筒には。
『揺るがない自分を手にいれた私へ。
忘れた過去は、貴女の傍に、何時でも記憶されていることを、忘れないで。
大丈夫。
忘却する経験も含めて、私は私を成長させるのだから。
必要だから、やるの。
でも、乗り越えられない過去は無いから。
決意が出来たら、迷わず過去を解放してね。
今はまだ、向き合え無いでいる、私より。』
そう、書かれていた。
分かる方にだけ、伝わればいい、そんな話ですね。