『シャナイアの日記』より抜粋
トリスの世界の、ほんの一部です。
日記として、抜粋しました。
本編とはほとんど関係しない、アレス・トースト(アリ君のお兄さん)が関わっていた、とある戦場での、歴史的非常識な話。
西方暦1070年8月15日。
いよいよ、私の発言から端を発したこの、『お茶会』が始まる。
主賓は、この場にいる、全ての言葉持つモノ『ヒト』。
場所は、奴隷制度を擁護する南方エクセター王国と、奴隷開放を目標に掲げる北方エクセター皇国との、境界区域。
時は、決戦前日。
目的は、『戦争に於いて、無駄な死者が出ない様にする事。そして戦争に赴く者達が、せめて、悔いの無い人生だったと、誇れる瞬間を残せる様にする事。』
私、猫人族のシャナイアは。
ハイルランド全土に名を馳せている娼館『宵闇の館』の店主マダム・バタフライの協力の下、両国、両軍の全指揮権を買い取った。
ただ、1日だけ。
事の発端は、私が小耳に挟んだ『戦争が始まる』と言う、戦禍の火種の絶えないハイルランドでは、珍しくも何ともないごく普通の情報だった。
長い永い刻を生きてきて、特に珍しくも無いその情報は、珍しくナィーブになっていた私の心をじわりじわりと凍てつかせた。
かつて無い心のざわめきに、居ても立っても居られ無くなった私は、上司である、マダム・バタフライに相談したのだ。
戦争が始まるのは仕方ないけれども、救える命は有るのではないか、と。
巻き込まれなくていい筈の、不本意な方々も居るのではないか、と。
せめて、両軍のトップに、本心で、語り合う場を創れないだろうか、そう、お茶会の様な…。と。
私の話しを聞いた、マダムは仰った。
「なら、1日だけでも、戦場を買ってしまいましょう。」
と。
それからの、マダム・バタフライの行動は、速かった。
私の提案から、3日の後には、戦場のど真ん中の土地を買い占め、『宵闇の館』12号店の基礎工事が、始まったのだ。
否、それだけには留まらなかった。
一月後には、立派な店舗が建ち、両国との交渉の末、交戦前日の丸1日を、買い取ったのだ。
当然私は、そこに、店長として派遣された。
言い出しっぺなので、責任者である。
私は、慌ただしく、働いた。
農作業と料理しか出来ないと軍を逃げ出した脱走兵を、身体を売って生きて行くしかないと路頭に迷っていた少女達を、戦禍によって、拠る辺を無くした者達を、心から歓迎しながら、大事になったこのイベントを成功させるべく、各所に働きかけたのだ。
冒険者ギルドや諜報ギルドに、戦争参加者全てのデータを集めてもらい。
招待客から、暗殺に来る暗殺者、お茶会への参加者への差し入れや、各人に合わせたプレゼントを用意して。
どんな形であれ、出会えた全てのヒトに、感謝と、歓迎と、祝福を込めて。
精一杯のおもてなしをすべく、金に厭目を付けずに、働いたのだ。
どうか、うまくいきますように。
スタッフや、関係者全ての方に、感謝を。
西方暦1070年8月16日。
昨日は、大盛況の内に、無事、お茶会を成功させる事が出来た。
開催の挨拶へと向かう最中、私の元まで辿り着けた暗殺者さんもいたが、バウンサーの働きによって、それも未然に防がれた。
当然、その方々も、お客様として、お茶会へご案内した。
両国のトップや、官僚は勿論、軍の代表者様方も、別け隔て無く一個人として、おもてなしをした。
強制労働力としての、今回の戦争への参加の取り止めも、確約した。
私の目指した、戦争での被害の最小化は、恙無く果たせた。
心残りは、それでも、尚、戦争は発生した事だろうか。
あぁ。どうか。この世に生を受けたもう者達よ。幸いあれ。悔いの無からん事を。
私、『我を往く者』シャナイアからの、せめてもの、手向けを。
シャナイアさんも、名前だけチラッと出した事があります。
本編とは関係ありませんが。