トリスの日記帳。番外編。海の思い出・後編
勢いで書いています。
もっと詳しく、もっと恋愛色濃く描きたかったのですが、私の力量では、此れが精一杯でした。
私の秘策。
それは、『男女関係のエキスパート、クレアさんに相談する』という、至ってシンプルなモノである。
以前にも、服飾関係(要は下着)について、アドバイスして貰ったので、海デートでの外さない装いを、レクチャーしてもらおう!という、安易な発想である。
で、クレアさんに連れられて、やって来たのは、やはり、以前にも訪れた、例の下着屋さんだった。
で、クレアさんや、店長さんのアドバイスという名の着せ替えごっこによって、私は勝負服を手に入れた。
という訳で、本日の私の出で立ちは、タンキニ。である。
ハイネックの上着にショートパンツ。それに、編み上げのサンダル。更には、腰にパレオを巻き付けている。何時もよりも、かなりの薄着にチャレンジしてみた。
髪型も、左側にサイドポニーに纏め上げ、緩く肩から流す様に垂らしている。
ウォータープルーフのメイクも、軽く施してある。といっても、ピンクのリップにオレンジのグロスを軽く乗せる程度だが。
普段お洒落をしない私の精一杯なのだが、気に入ってくれるかしら?
クレアさんには、もっと大胆になっても、海なら不自然では無い、と太鼓判を押されている。
その言葉を信じて、アリ君が大丈夫そうなら、装いを変えれる様に、タンキニの下には、通常の水着と、クレアさんオススメのモノも着込んでいる。
アリ君に受け入れて貰えるか、心臓がドキドキし過ぎて痛い。
そして、目の前に現れたアリ君は、当然ながら、半ズボン型の水着だった。海なのだから当たり前なのだが、上半身は、裸である。軍師の癖に鍛えられて割れた腹筋や、無駄の無い体つきに、凄まじい色気を感じる。
(どうしましょうっ!目のやり場に困りますっ!)
アリ君の色気に当てられて、かぁっと顔が熱くなる。
そんな緊張で俯いてしまっている私を他所に、アリ君が話し掛けてきた。
「なあ。トリス。アレスの奴に聞いたんだが、こう言う時には、何かプレゼントを渡すものらしいな。」
アリ君の声も、緊張で高ぶっている。
その事に気付いた私は、少し安心した。
が、突然の申し出の内容が頭に届いた途端、私の心臓は、どきり。と高鳴った。
「え…。私にプレゼント、ですか?」
動揺して、アリ君を見上げると。
パサリ。
と、頭に何かが載せられた。
「トリスに似合うと思って買ったんだ。麦わら帽子。気に入ってくれると嬉しいんだが。」
私は、嬉しかった。
アリ君が、わざわざ私を想って用意してくれた一品だったから。
初めて、私にくれた、心のこもった一品だったから。
…嬉しくて…、顔が赤くなるのが、自分でも分かった。
「ありがとうございます、アリ君。本当に嬉しいです。大事にしますね。」
そそくさと麦わら帽子を身に付けて、身長差のあるアリ君を見上げる。嬉しくて、顔が緩むのを止められないまま、私はアリ君にお礼を言う。
無愛想な彼の瞳が優しさに溢れていて、私の心臓は、更にスピードを増した。
(絶対、これの麦わら帽子は宝物にします!)
そこに、アルヴィン君の、
「スイカ割りするやつ、寄ってこーい!!!」
との声が聞こえた。
アリ君が、此方をちらりと見て、参加したそうな気配を漂わせた。
「おおっと足が滑ったぁでありますっ!」
と続いた声。
バコォッと何かが割れる音がした。
それを確認した私は、咄嗟にアリ君の左腕を手を絡ませると、アリ君を見上げながら、
「あの…アリ君。彼方のあまり人の居ない方で、一緒に泳ぎませんか…?(二人きりになりたい…)」
と、控え目に自己主張をしてみた。
「ああ、いいが…私は余り泳ぎは得意では無いのだが…。」
アリ君は、泳ぐ事に抵抗があるのか、ちょっと渋った。
「大丈夫ですよ。浮き輪、用意してありますし。…二人で一つの浮き輪を掴んでいれば、普通、女の子の方が泳げない様に見えます。アリ君が溺れる心配もありません。一緒に泳ぎたいです。」
「気遣わせて、悪いな。」
「いいえ。いいのです。私が、やりたいだけなので。所で、アリ君。水に濡れると動きにくいので、ちょっと泳ぎやすくなるように、上着を脱ぎますね?」
「ああ。それは当然の事だな。その間に、浮き輪の準備をしておくぞ?」
そう言ったアリ君に後ろを向けて、私はパレオとタンキニの上着を脱ぎ去った。
私の格好は、胸の傷痕を隠すハイネックでノースリーブの上着に、ショートパンツ姿に変わった。お腹と背中、それに、すらりと伸びた素足が晒されている。編み上げサンダルは、泳ぐのに邪魔なので脱いだ。
「アリ君、お待たせしました。…似合いますか…?」
勇気を出して振り返る。
アリ君に気に入られたくて、気合いを入れた姿を、見られたいが見られたくない、そんな思いでおずおずと聞いてみた。
「…ー。」
アリ君は、顔に手を当てて、暫く黙った後、空を仰いで言った。
「とても、似合うと思うぞ?」
「ありがとうございます。凄く、嬉しいです。」
アリ君の反応を見るに、少しは私の出で立ちにドキドキしてくれているのでしょうか?
それから、私達は、砂場から岩場へと場所を移した。
そこから、浮き輪を使って沖へと泳ぐ。
遠くで、誰かが、豪快に魚(あれはカジキマグロ?)を素手で捕まえているのが見えた。
だが、そんなモノは無視である。
私はアリ君のペースに合わせて、珊瑚の綺麗に見える景色の場所まで泳いで行った。
「今まで、色んな場所に一緒に行きましたが…今日は新鮮です…。ありがとうございます。誘ってくれて。私、胸がいっぱいです…。」
「そうだな。いつも、とはいかないが、たまにはこう言うのも悪くないな。」
岸辺に帰り着くと、私は、アリ君に言った。
「あの…アリ君。他の人の目がない今だから…最後の衣装チェンジ、しても、いいですか?長くは、晒していたくありませんが、アリ君には、見ていただきたいんです。」
夕焼けで、赤く染まった海岸で、私は、ショートパンツとハイネックを脱ぎ去った。
下から出てきたのは、黒い胸元の空いたビキニトップスと、同色の腰でリボン結びしたビキニパンツである。
しっぽも出る様になっている。
「…変じゃ、ありませんか?」
事前に、クレアさんから合格点を貰っていても、相手がアリ君なので、気に入って貰えるか、はらはらした。
「トリス、とても、似合うとおもうぞ。だが、ちょっと刺激が強いからな、他の奴に見せたくない。最初の格好がいいな。」
…。私の準備は、効を奏した様です。
アリ君は続けて言った。
「体、冷えただろ?宿を予約してあるんだが、どうする?」
「勿論、ご一緒します。宜しくお願いします。」
そうして、私達は、カメロン船長オススメの穴場な宿屋で、美味しい海鮮鍋を頂き、暖かな温泉を堪能して、初デートを終えたのでした。
…余談ではあるが、その夜、アリ君は、とても優しかった。
次回からは、本編に戻りたいと考えています。
宜しくお願いします。