トリスの日記帳。番外編。海の思い出・前編
息抜き的な挿話です。
トリスとアリ君のいちゃラブが書きたかっただけのお話しです。
読み飛ばして頂いても、本編には、何の影響もありません。多分。
私には、こうして落ち着い筆取る機会は、実は今まであまり無かった。
だから、書き飛ばしたり、敢えて書き残していない冒険は、沢山
ある。
だが、全てを書くには、私の足跡は、余りに長い。
その途中で手にした、入手困難な武具やアイテムの数々も、あったりするのだ。それらは、記録に残すには、いささか問題のあるモノたちだったりするのだが、困ったことに、残したい想いを綴る上で、欠かす事のできない代物だったりもする。
例えば、時間を行き来できる電車のチケット。
例えば、蝙蝠っぽい外観の、黒と赤を基調とした、飛行する防具。
例えば、次元を切り裂ける霊剣。
例えば、耶都の妖に著しく弱体化を促す鏡。
等々、相棒と呼べるが、入手方法に難ありな、沢山のアイテム。
これらの入手方法はについては、敢えて記すまい。
縁があれば、物語の鍵となる、これらのアイテムと、人とは、自ずから出会えるのだ。それこそ、タイミング良く、ここぞと言う時に。
語るべきタイミングも、また、然るべき時に訪れるものだと、そう思っている。
だから、何時かは語るかも知れない。
さて、そんな事はさておき。
私は、動揺していた。
大好きな人、アリ君こと、アリス・トートスさんと、この度両想いだと、発覚したからである。
それだけではない。
彼にとっての、私の立ち位置が分からなくて、困っているのだ。
確かに、「好きだ。」とも、「傍に居て欲しい。」とも、「大切だ。」とも、「妹じゃなくて、女性として見ている。」とも言われたけれども。
冒険していた時から、ずっと、私は彼の傍に居て。
冒険していた時から、ずっと、彼の、私に対する態度や扱いが、変わらない気がするのだ。
お互いに、「付き合おう」、と、正式に発言していないのが、一番の問題なのかも知れないけれども。
そもそも、私は、「私が、アリ君の事を好きである。」という事実が伝われば、それで満足だったのだ。
だから、逆に、「彼が、私を好きである。」というのは、戸惑うべき事態なのである。
「私」が「彼」にちょっかいを掛けるのは、良くある事なのだが、逆になる事は、無いのである。
私には、人間関係というのは、とても難しい代物である。
故に、彼の心理が分からないのだ。
「女性として見ている。」というのは、どういう事なのだろうか?
アリ君を意識し過ぎて、ドキドキするのは、普通なのだろうか?
相手に触れたり、くっついたり、したくならないモノなのだろうか?
分からない…。
一番分からないのは、「私」の何処に魅力があったのか?どうして、「私」を選んでくれたのか?である。
謎である。
きっと、「私」と、「彼」との間には、「好き」という気持ちに温度差があるに違いない。
この謎を解決すべく、私が取れる方法は、ズバリ一つだけである。
体当たりで、自分の気持ちを、アリ君にぶつけてみる。
これに限る。
という訳で、今日も今日とて、アリ君にアタックしてみた。
隣を歩く、アリ君の左手に指を絡めて、囁く。
「好きです。」
呆気にとられたアリ君の、何時もの台詞が、頭の上に降って来た。
「馬鹿かお前は。…知ってるさ。」
こん。
と、右手で突っつく手が、何時もより優しい事に気付いて、私の頬が、にへらっと緩んだ。
其処に、追い討ちをかけるアリ君の一言が、更に私の動揺を誘った。
「帰ったら、海にでも、行ってみるか?無論、デートするんだからな?」
頭の中が、真っ白になった。
私には、
「はい。」
と、返事を返すので精一杯だった。
アリ君の、「私を好き」という気持ちが、伝わったからだ。
やはり、アリ君には、敵いそうも無い。
それからというもの、私の動揺は深みを増した。
[アリ君との、初めてのデート、海。]
何をしていても、頭の中がその言葉でいっぱいになるのだ。
ワクワクするような、でも恥ずかしいような、嬉しいような、そんなドキドキが止まらなくて…。
自分の中に、こんなにも、乙女な部分が在るとは予想外だった。
これも、私が動揺している一因である。
そんな自分を落ち着ける為にも、私は[海デート]なるモノについて、予習をする事にした。
何分、人生で初めての事態なのだ。失敗して、アリ君に嫌われたくは無い。出来れば、私に夢中になって欲しい。せめて、デートの間だけでも。
私は、リサーチを重ねる事にした。
まずは、[デート]というモノについて。
場所が海である事から、水着が、着て行くのにふさわしい服装であろう、と考えられる。此処で大切なのは、どんな水着ならば、アリ君に負担を掛けず、かつ好感を抱いてもらえるか、という事だ。似合わないのも、アリ君に不快な思いをさせるのも、アウトである。
選んだ水着に合う髪型や、メイクも忘れてはいけない。
どんな振る舞いが相応しいのかも、私には、分からない。
だからこそ、私は、策を練る事にした。
クレアさん(その道のプロ)に、相談する事にしたのだ。
終わらなかったので、まだ続きます。