表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トリスの日記帳。番外編  作者: 春生まれの秋。
13/13

初恋の終わらせ方


自分を形作るルーツを探る事から始まった私の旅も、そろそろ終わりにすべきかも知れない。身体の製作者を訪ね、北極圏を通り、大陸沿いに大洋を進み、各国を巡って来たが、生まれ故郷のハイルランドはもう目前まで迫ってきている。


旅での事を、グリーンヒル先生へ報告をしたのなら、もう、このパーティーは解散する事になるだろう。

長い間、イシュト王から軍師を借りっぱなしにしていたし、いい加減、アリ君を元の職場に返さなくては。

カイル君からは、熱烈にラブコールを受けていたが、私の心は、ずっとずっと、アリ君に捕らわれたままだった。

だけど、アリ君は、どうしても、私を『妹』としか見れない事も分かっていた。微塵も私を異性としての恋愛対象としては見れないと、毎日毎日、嫌と言うくらいに、刷り込まれたから。

カイル君という、お手本みたいな『私を異性として見る存在』が、自分に好意を寄せてくれる男の人とはどんな感じなのかを日々教えてくれていたから。


どう決着を着けたら良いのかわからない、制御出来ないこの恋心を、私は何とか落ち着けたいと考えていた。


大好き過ぎる人が側に居てくれる。プライベートスペースに入れてくれる。ごくごく自然に、側に居させてくれる。居て、くれる。

でも、その人が私に向ける感情は、『唯一無二で、命を掛けられるくらい大切な仲間だけど、恋愛対象としては問題外』という、アリ君が在学時代からの、微塵も変わらない感情(モノ)で。

私という自由意志を持つ存在を、私の自由意志を、必要ないと判断する敵に、私よりも強く憤り。私に害為す存在は敵と見なし、(本人)以上に熱心に排除しようと心を砕いてくれる。なのに、私が望まない方法では、その排除方法にすら、拘ってくれて。

妹ポジションとしては、至れり尽くせり過ぎる、幸せな立ち位置。

けれど、恋しくて仕方ない相手に向けられるには、辛すぎる感情。


私の心は、アリ君という存在に、揺さぶられ過ぎる。それは、とてもとても、『私』という意志を、私の魂の在り方を左右させ過ぎるモノであると、私自身には、分かっていた。


私は、世界最高の錬金術師と、異界の創世神とその秘術を駆使する最高神官3人と、秘密結社の天才科学者の、本来ならあり得ない組み合わせの方々の、持てる能力の限界以上の力を結集して創られた最高級の『神の器』。少なくとも、肉体は、そういったスペックを誇っている。


ほぼ確実な未来予知をする、本物の預言者・ミストラルさんには、私の魂の消失を99%の確率で告げられている。

私の意志が弱いから。

私が、余りにも『存在する事への意志』が弱いから。

何処までも『自分の完全なる消滅』を、『私』が望んでしまうから。

私の心は、世界に適応出来ないと、予見されたらしい。




それは、確かに、その通りかも知れない。

数多の人に、どれだけ『私』を肯定してもらっても。

私自身が、どれだけ『私』を肯定しようとあがいても。


心の奥から『大丈夫』という安心感を抱く瞬間があっても。


生きていけそうな、充実感を手にしても。





それらは、次の刹那には、あっという間に反転して。


『私』の意思を。

『私』の想いを。

『私』の意識を。

『私』が『私』として経験し、身に付け、『私』が『私』を作り続けても。



それすらも含めて。


『私』という痕跡、その全てを。


余すことなく、【無】へと誘わんと、強い衝動をもって、私に空いた空虚なる(うろ)より、『完全なる消滅』への衝動は、這い出てくるのだから。




私は、そろそろ、独り立ちしなくてはならないと感じていた。

楽しい旅も。

幼い想いも。

学び多き、幸せな日々も。


『私』を着実に形づくって、育んでくれて。

自分の足で、立って。

自分の道を進まなければ。

独りで、やり遂げなければ。



いつかアリ君に言われた『自律して自立した大人な女性』になんて、何時までも成れそうには無いのだから。


きっと、こんな風に、アリ君の意見にすがっているこの状態こそが、彼の嫌う女性像そのものなのだろう。

けれども、私には…。



『私』という自己を、世界に顕現させていられるかの自信が、全く無い。


ただ今は、恋しくて仕方ない人(アリ君)に認めてもらえる『大人な女性』を目指す事くらいしか、未来が描けない。

例え、偽物でも。

例え、同情からだとしても。



『私』という意識を。認識を。魂を。


『トリスティーファ・ラスティン』というこの意識が、『神の器』たるこの身体を動かすための、仮初めの心だとしても。


この世界(この現実)を、私の現実を、夢では無いのだと。『私自身』に知らしめる為にも。




最悪で、最低で。

だけど、他の誰にもその代わりを任せたく無いから。


私は、これから、彼に無茶を言う。

きっと、最後まで、彼は『私』に異性としての愛情は抱かないだろう。


何時かきっと。

私は、それに耐えきれなくなる。


その時、私は暴走してしまうだろう。



だから。

そうなる前に、独り立ちしなくては。



でも、せめて。

初めてくらいは、好きな人に、相手になってもらいたいと想うのは、私の我が儘かしら?


でも。それでも。

これで、彼に言う我が儘は、最後にするから。


だから、一夜だけ。

勇気を振り絞って、伝えてみよう。


彼に迷惑にならない様に。

私はもう、貴方の前には、姿を見せないから。







そんな覚悟を私の中で決意を固める。

何時、伝えるか、考えてながら。

タイミングを見計らって。


着々と、私は準備を進める。

『私』の意思亡き後の『神の器(この身体)』を悪用されない為に。

保管場所は後から探すので構わない。

人工生命体(仮初めの生命)だからこそ出来る、私の『意識』をこの身体に繋ぎ止める為の条件の設定。

決して消えない、消滅願望に抗う為のプロテクト。

決して叶う筈の無い、奇跡の様な条件ほどの厳しい設定でないと、この身体は、私の意識を、弾いてしまう。

それ程迄に、『消滅』したい気持ちが強い。



だからこそ。



淡い初恋に。

長い長い片想いに。

私は『私』を賭けるのだ。



恋しい相手が居ないなら、愛しい人に想いが通じないのなら。

私の世界は、何一つ、彩りなんて無いのだから。


拒絶されたら、きっと。

『私』は『セカイ』に呑まれるか。

『私』が『セカイ』を呑み込むか。


拒絶に耐えられたとして、私は。

『彼』の消失に耐えられない『私』は、彼の居ない『セカイ』には耐えられない。



だから。

彼の遺す痕跡を探し、護る事を目標に、『私』は私の時を止めよう。


彼がいなくなり、私を知るヒトが消えた時代で。

再び目覚めるまで。



何時、伝えようか。

にこにこ笑顔の裏で、ずっと考えているの。


きっと、そう遠くない日に、私は貴方に、軽率にも伝えてしまうでしょう。


我が儘で身勝手な、お願いを。


ごめんね、アリ君。


許してなんて、言わない。

言えない。


路傍の石にでも躓いたと思って、諦めて。

そして、忘れて欲しい。

私を心に留めずに。

貴方の生を、精一杯、生きてね。


だいすき
















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ