ギルデンスさんの特別講義
『トリスの日記帳。』第三部終了時の僅かな日常生活の一部分です。ネタバレがあります。本編を読んでからお読み頂く事をお勧めします。
閑話。ギルデンスさんの特別講義
私達は、アリ君の実家から大学に戻って、旅の支度を整えていた。
そんな折、面白そうな講義が行われると言うので、私とアリ君は、こぞって参加する事にした。
何せ、私達は、学生時代から、こういった知識欲を刺激される講義に目がないのだ。
講師はあの、弁舌家である元ゲンスルー四天王のギルデンスサンさん。
講義の内容は、『交渉とは』である。
そもそも交渉とは何か、という所から講義は始まった。
「…と言う訳で、双方になるべく利益が生じるように行う話し合い、というのが交渉の基本だな。」
成る程、と、私はノートにメモをとる。
「次は実践で体感してもらおうかの。じゃあ、二組になって見てほしい。」
奇しくも、私はアリ君と組むことになった。
「例題じゃ。ここに、お握りが一つある。二人とも、お握りが食べたいとする。どういう交渉ができるか、やって見せてもらいたい。」
…。双方に利益があるように、ですね。
と、考えていると、アリ君が切り出した。
「トリス。ここには私とお前しか居ないんだよな?」
「想定としてはそうですね。」
「お前は小さいからあまりエネルギーの消費は多くない。これは分かるな?」
「ええ。そうですね。」
「では、ここは成長期でエネルギーの消費が激しい私がお握りを食べるのがいいと思うのだが。」
「それじゃあ、私に旨味が無いじゃないですか。嫌ですよ。それに、運動量から見ると、私の方が代謝が上です。でもそれより、アリ君。」
「何だ。」
「お互いに不公平の無い様に、半分こしましょうよ。」
「それでは私の取り分が減るから嫌だ。」
打倒だと思う分量を打診してみた。が、アリ君のお気に召さなかった様だ。
仕方無いので、最大限の譲歩を見せる事にした。
「じゃあ、私は一口先に頂きますから、それで手を打ちませんか?」
食べる分量は、アリ君が圧倒的に多くなり、私はアリ君と同じお握りを頬張れる。恋する乙女には嬉しい状況だ。
「え〜…全部食べたい。」
この状況で駄々を捏ねるアリ君。
私はイラッとして実力行使に移った。
「えいっ。」
ぱくり。
軽く一口お握りを頬張る 。
「アリ君。後はどうぞ♪」
「なっ…何てことをするんだっ!」
「私はアリ君とお握りを分けたい。アリ君はなるべく沢山お握りを食べたい。両者の利益は最大限上がったでしょ?」
「違っ…!お前はもう少し慎みをだなっ!」
「私は貴方の『妹』、なんでしょう?なら問題無いじゃない、お兄ちゃん♪」
そう言うと、アリ君は口をパクパクして言葉に詰まっていた。
「…。微妙に違うんじゃがな…。」
ギルダンドさんが、疲れた様な溜め息を漏らした。
ギルデンスさんの特別講義にかこつけたじゃれあいでした。