表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ノイズ

ー気付いたら声が遠くなって 雑音ノイズに掻き消された

 

ー周りのオト全てが 雑音ノイズに聞こえた頃


雑音ノイズの中に消え行く声 誰かがずっと 叫ぶ声


ー耳を澄ましてみても 聞こえること無い 誰かの声


この唄を聴いた時、まさに俺の心情を表しているようだと思った。

世界は、雑音ノイズで埋め尽くされている。

知らない誰かのざわめきで俺の声なんて誰にも届かないし、誰かの声が俺に届く事もない。

現実なんて、そんなもの。

何処かでちびっ子が転んで泣いていたとしても、少し離れれば街の喧騒にあっという間に溶け込んでいく。

日常というものはちょっとやそっとで変わらない。

変わる筈が無い。

現に、俺は今途方に暮れているのに人々は日常を辿っている。

くだらない。

ただの繰り返しの中で生きて、死んでいくなんて。

「ほんと、くだらない。」

ほら、俺の呟きは雑音ノイズに掻き消された。

誰にも聞こえやしないんだ。

「何がくだらないんすか?せんせ。」

いきなり響く声に、俺は顔を上げた。

「お久しぶりっすねぇせんせ。私の事覚えてるっすか?」

目の前に居たのは、2年前に卒業した教え子だった。

確か名前は..

「永江、か。」

「お〜せんせ、覚えてくれてたんすか。一番に忘れそうだったのに。いやぁ嬉しいっすねぇ。」

そうだ、こいつは永江美樹だ。

3年間受け持っていたから何とか覚えていた。

「で、せんせは何してるんすか?こんな時間まで。」

ぐっ、痛いとこをつくな。

「そういうお前はどうしたんだ?」

俺はそう切り替えしてやる。

だが永江は全く気にするそぶりも見せず笑う。

「タハハ。いやぁサークル入ろうかどうか悩んでたらこんな時間に..」

そういえばこういう奴だったな。

一度悩みだすと時間を忘れる。

それで、鍵を閉めに教室に来た俺が何回も怒ってたっけ。

「そんで、せんせは?」

「うっ、いやなんだ..お前には関係ない。」

「えー?私は言ったのにせんせだけずるいっすよ〜?」

むーと頬を膨らます永江。

だがコイツにとっては元、とはいえ先生だった身だ。

あんな事言えるわけが無い。

「へ〜そんなこと言っちゃうんすか?だったら私にも考えがあるっすよ。」

「はぁ?考え?」

ふっふっふ..と笑って永江は笑って俺に指を指す。

「取り敢えず、あること無いこと高校の方にばら撒きます。例えば〜そうっすねぇ、せんせが借金で困って女の人に貢がせまくっているとか、生徒相手にセクハラしてたと、か ..ってあれ?せんせ、どうしたんっすか?」

『借金』その言葉に過剰な反応をしてしまう。

そのことに気付いたのか、永江は言葉をとぎらせた。

「もしかして..そんな犯罪じみた、いやっ犯罪を犯してたんすか!?」

「んなわけあるかぁ!」

どうする?

永江のことだ。

このまま言わなかったらマジで勘違いしたまま、変なことを言いふらしかねない。

くそぅ。

仕方ない、此処は言うしかなさそうだ。

「差し押さえされたんだよ。」

「..ふぇ?」

「親父の借金で家が差し押さえになったっつてんだよ。」

そうあの馬鹿親父ときたら息子に借金押し付けて逃げくさりやがったのだ。

おかげで俺は家を差し押さえされた。

「え、えーと..そんで女の人に貢がせようと此処でナンパを?」

「そのアホな思考からいい加減離れろ。」

「じゃあ、スリでもするつもりっすか?まぁ生きていくためなら仕方ないかもっすけど、そういう犯罪ってやめた方がいいと..」

「だからっ違うっつてんだろうがぁ!」

コイツ、本当はわざとやってんじゃ..

「っとまぁ冗談はこの位にするとして」

「やっぱわざとか..」

永江は笑って『当たり前じゃないっすか』と言った。

「そんで?どうするんっすか?行くあてないんっすよねぇ」

「あぁ。まぁ今日くらいは公園で泊まれるから何とかなるが..さすがに何日もってのはキツイかもな。」

んーと永江は少し考えてから何か思いついたように、ポンっと手を打った。

「じゃあ私の家に来るといいっすよ。」

「..は?」

俺の耳がおかしかったのか?

あぁきっとそうだあれは幻聴..

「だから、私の家で住むといいって言ってるんすよ。」

じゃねぇ!?

「お、おい..永江、本気でそう言ってるのか?」

「そうっすよ。大丈夫っすよウチの両親優しいから追い返すなんて事しないっすよ。」

タハハ〜と変な笑い声で笑う。

「いや、そうじゃって、おい!?」

俺が言い終わらないうちに永江は俺を引っ張って走り出す。

「さぁさぁ!そうと決まればレッツらゴーっすよ!」

「ま、待てっ!ちょ、せめて引っ張るなぁ!」

コイツ女の割りにかなり力が強い。

正直掴まれた腕が痛い。

「しょうがないっすねぇ。」

永江は取り敢えず手を離してくれた。

「        」

永江の声が、少し雑音ノイズに掻き消されて聞こえない。

「何っつた?聞こえなかった。」

「くだらないって何のことっすか?って聞いたんすよ。」

「あぁ、あれか..」

あんな呟きがよく聞こえたものだ。

こんな、雑音ノイズで埋め尽くされているのに。

「別に。今までの親子関係とかがくだらない事だったんだと思っただけだ。」

雑音ノイズのせいで自分の声も聞こえない。

「ここは五月蝿いな。」

俺が呟くと、永江が笑った。

「まぁそうっすね。でも、なんか唄みたいじゃないっすか?」

俺ははっとして永江を見た。

永江は笑っていたが、今まで見ていた笑顔とは少し違っている。

なんというか、微笑んでいるの方があっている。

「一人一人が色々違っている会話をしていて、それが混じって何を言っているのかわからないけど..でもそのざわめきをベースにして喋る私たちは唄を歌っているみたいだなぁと思うんすよ。」

何時もの永江なら似合わないと思うが、今は違って見えた。

「お前にしては随分と詩的だな。」

「んーそうっすかぁ?ってあれ?せんせ、笑えるんすね。」

何時ものような笑顔で永江は言ってくる。

「何を言う俺だって笑うっつの。」

コイツ高校の時は気がつかなかったが、面白い。

前言撤回。

人生は繰り返しなんかじゃない。

繰り返しなら俺はこんな面白い奴と出会えてないだろうから。




ある日、町を歩いていると永江を見つけた。

あの後俺は、永江の両親にあっさりと受け入れてもらい共に暮らしていた。

ふっと永江の横を見ると、車が信号を無視して永江の方へ突っ込んでいっていた。

俺は自然と永江の方へ駆け寄り永江を押しのけた。

だが、俺自身は避けようもなくそのまま車に当たった。





「..まぁ!あ..まぁぁ!!」

遠退きそうになる意識の中で、誰かの声が聞こえた気がした。

でも、雑音ノイズに掻き消されて聞こえにくい。

いつもより酷いな。

まぁ、目の前で人が轢かれればざわめきは一層大きくなるだろう。

「東!東ぁぁぁぁぁぁ!!」

声が、聞こえた。

雑音ノイズの中でも消えない、誰かの叫びが。

あぁ。

この声は、確か永江か..

「東!ねぇ東ってばぁ!」

永江が俺の手を握る。

痛い。

血はとめどなく溢れてくる。

もう、駄目だと思った。

どういうことだろうか。

あれほど五月蝿かった雑音ノイズが消えた。

永江が俺の名を叫ぶ声だけが聞こえる。

こんなにシンと静まっている中での永江の声は、どこか物足りなかった。

そうか。

俺は、知らない間に雑音ノイズが創る世界に溶け込んでいたようだ。

皮肉なものだ。

あれほど嫌悪していた雑音ノイズに慣れきってしまって、無くなれば悲しいと思うなんて。

雑音ノイズは俺を消し去ってしまうけど、それは日常の欠片で日常は一つの欠片でも失うと、何か物足りなく感じさせる。

日常とは、恐ろしいものだ。

「東っ!」

「あず、ま言うなアホ..何勝手、に呼び捨てにして、んだ..よ」

そのまま俺は意識を手放した。




「あーずーまっ!」

「此処は病院だ。静かにしろアホが。」

俺はどうやら一命は取り留めたようで、病院に入院している。

病院と言えどもやはり、雑音ノイズは消えてはいない。

だが、それでも良いと思う。

どれだけあがらおうとも、俺は世界の一部で同時に、雑音ノイズの一部だ。

だったら下手な抵抗は止めて、受け入れてしまおう。

日常は、俺が思っていたほどくだらないものじゃない。

考えようによっては、面白くもなる。

俺は笑って窓から雑音ノイズで溢れている中庭を覗いた





 雑音ノイズで溢れている日常も、悪くはない。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 「たてがき」で読みました。  文法的にいくらか問題があると、個人的に思いました。作法を逸脱するのは、メリットを見込んでのことでしょうか?  恋人のをかばって事故に合う…正直に言いますと、余り…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ