7.龍太郎の記憶②
掘り出すのは何年も先。そう分かってはいても、近くを通る度につい確認せずにはいられなかった。
誰も知らない、龍太郎と志津子だけの秘密の場所。いつも通り、開ける時を夢見ながら、埋めた場所を覗く。
そこには、大きな穴が口を開けていた。
その隣、缶を抱えた少年は、龍太郎に気付くと大きく舌打ちをした。
——何、してるんだよ!それは、俺らの・・・——
——(お宝)だろ?——
龍太郎の言葉を遮り、少年が開き直ったように缶を掲げる。相手は、龍太郎もよく知る近所の悪がきだった。確か志津子と同い年だったはずだが、大柄なため龍太郎とどちらが年上だか分かったものではない。
——分かってるなら、返せよ——
精一杯睨み付け、手を伸ばす。
——やだね。志津子から聞いたんだ。このめんこを(お宝)として埋めたってな——
——志津子から・・・?——
——学校で他の友達に話してるのを聞いたんだ。後をつけてみたらこの辺をやけに気にしてたからもしかしてと思って掘ってみたらあっさりと出てきやがった。——
聞いていなくても、妹の(お宝)は見当がついていた。これがあれば負けないのだと自慢げに話していた、1枚のめんこ。それが今、悪がきの手で踊っている。
——返せよ!——
——ふん、俺が見つけたんだからもう俺のもんだ——
悪がきは見せつけるようにゆっくりと龍太郎の手から逃げると、めんこを自分の鞄の中にしまった。
——そうそう、こっちはいらねぇや——
缶には、それぞれ未来の自分への手紙を同封した。つたない宛名書きは、遠目でも妹のものだと分かる。
——アイツ、学校のセンセになりてぇんだとよ。なれるわけねぇのにな——
全力で馬鹿にした悪がきに、頬がカッと熱くなった。まだ小さかった手で、必死に掴み掛る。
——いってぇな!何すんだよ!——
——うるさい!いいから返せよ!——
悪がきは、にたぁ、といやな笑みを見せた。
——・・・そんなに言うなら、こっちは返してやるよ——
わざわざ、龍太郎の顔の高さで
志津子の手紙は、あっという間に紙くずに変わっていった。
——あっ・・・あぁっ・・・——
破片を拾っても、元には戻せない。
取り返せなかったことへの絶望と、
2人きりの秘密を他人に話していた志津子への怒りと
このことを志津子が知ったらと考えたときの焦りが一気に頭を駆けた。
悠々と去っていく悪がきを追うこともできず
龍太郎にできることは、残ったものを別の場所に埋めなおすことだけだった。
少しだけずらして埋めなおせばいい。どうせ、小さい志津子はすぐに忘れる。
もし覚えていたとしても、いつもの喧嘩のように意地を張っているふりをすればいい。
そして、自分さえ黙っていれば、志津子が傷つくことも無い。
そうやって握りつぶされた真実が今、叶によって蘇ろうとしていた。