50.悪あがき足がかり
「・・・と、言うわけで。理由も分からずなっちゃんに泣かれました」
「成程ねぇ・・・急に呼び出したから何かと思えば」
学校から数駅離れたところに在る、安いファーストフード店。
僕に呼び出された神谷さんは。小さく唸ってポテトを口に放り込んだ。
「進路の話が原因だとは思うんだけど、僕は言われた通り何も知らないんだ。神谷さんなら、何か知ってるかなって」
あの後、神谷さんに約束を取り付けて電車に飛び乗った。誰かのためにここまでの行動力が湧いてきたことに、我ながら少し驚く。
「わざわざうちの近くまで来てもらって悪いけど、私も詳しくは知らないわよ。あの子、進路の話をすると暗い顔するから、あんまり聞けなかったし」
「そうだったんだ・・・僕、馬鹿だなぁ」
無知は罪、とはよく言ったものだ。ちゃんと見ていれば、気付けたかもしれないのに。
僕はジュースをすすりながら、次の作戦を考え始めた。とにかく、情報が欲しい。もっと、彼女について知りたかった。
「・・・心当たりといえば、お兄さんのことくらいかしら」
「お兄さん・・・?」
メモを構える記者の気分で身を乗り出す。僕の食いつきに気をよくしたのか、神谷さんはもったいぶるように腕を組んだ。
「夏奈、お兄さんがいるのよ。それがまぁ、成績よし、運動よしの完璧な人でね。親からのプレッシャーとか、劣等感とか、あるんじゃないかと私は睨んでる」
推測だけどね、と付け足して、神谷さんは椅子に背を預けた。
「十分だよ、ありがとう。不用意なことはいうもんじゃないね」
「アハハッ、いいんじゃないの。何も知らないからこそ夏奈の悩みを引き出すきっかけになったんだし」
「でも・・・僕がきいてもいいのかな」
勢いのままここまできた。足がかりをもらって安堵した今、僕にはもうその勢いは残っていなかった。僕に、踏み込む資格があるのだろうか。なっちゃんが望んでいないならこんなの、ただの自己満足じゃないか。
「あのねぇ。何のために私が情報あげたと思ってんのよ。一度踏み込んだなら、泣かせたなら、最期までちゃんと責任もって付き合いなさい!」
眼すれすれに指をつきつけられ、僕は思わず背筋を伸ばした。神谷さんは笑っているけれど、ふざけているわけではない。真剣に、僕の背を押してくれている。
「・・・ありがとう。やれるだけのことはやってみるよ」
情けない僕の返事に、神谷さんは呆れることなく頷いてくれた。




