5. 龍太郎の記憶①
龍太郎と志津子は、あまり仲の良い兄妹ではなかった。
年が近かったせいで、何かと比べられたせいもあるだろう。顔を合わせれば、子供らしいケンカをした。
それでも、たまには笑い合ったし一緒に遊ぶことくらいある。
(お宝)も、そんな思い出の一つだ。
その日、龍太郎は今日学校で聞いたことを一刻も早く妹に教えてやりたくて
古びたお菓子の缶を持って、志津子を呼んだ。
—―聞いてくれよ志津!この間学校を卒業した奴らは、学校に全員の大切なものと手紙を埋めたらしい――
—―手紙?-―
—―なんでも、20年後に開けるから、その時の自分に対して書くんだと—―
妹は今一つピンとこない様子ながら、興味を持ったように身を乗り出した。
—―だから、今から俺とお前の(お宝)を埋めに行こう。で、大人になったら掘り返しに行く。どうだ?—―
—―!いくっ—―
—―よしっ、じゃぁ志津はこれに1つだけ宝物を入れるんだぞ?あとで、俺のと一緒に埋めるからな—―
いつもは生意気な志津子が、素直に頷く。龍太郎は頷き返すと、自身の(お宝)を準備するために自室へと向かった。
両親に買って貰った、お気に入りの本。そこに、1枚の写真を挟んだ。
大切に、缶に詰める。あとは、もう1回り大きい缶に2人の(お宝)を入れて完成だ。
意気揚々と、志津子の元へと向かった。
丁寧に缶を仕舞い、キッチリと蓋をする。
街に出て、あぁでもない、こうでもないと言い合いながら、埋める場所を決めた。
よく両親に連れてこられた銭湯の横を抜け、山を少し上ったところにある、開けた場所。
そこまでは、よかったのだ。