45.それは水を得た魚のように
会議は平行線で、そろそろ切り上げ用かと思い始めた頃。僕の携帯が、メール受信のランプを灯した。
「!え・・・吹雪からだ」
僕同様くたびれた様子だったなっちゃんが突っ伏していた顔を上げる。
「な、なんて・・・?」
画面には、たった一文。
「今日の七時、初めて会った場所で。・・・だって」
「若と吹雪ちゃんが初めて会った場所ってこと?」
「多分、そうだと思う。・・・よく覚えてるよ」
僕にとっては、特別だったから。きっと、吹雪は僕が覚えているか試そうとしている。これは、吹雪からの挑戦状だ。
「いい出会いだったんだね」
「うん・・・なっちゃんに秘密を話したのと同じくらい、僕にとって人生の転機だった」
公園にある、子供が2人座るのがギリギリなくらい小さなベンチ。あの時吹雪が手を引いてくれたから、今の僕が在る。僕は時間を確認して席を立った。
「なっちゃん、相談に乗ってくれてありがとう。どうなるか分からないけど、言われた通り、公園に行ってみるよ」
「結局あたしは何もしてないけどね。頑張って」
きっと分かってくれるよ。僕の背を軽くたたいたなっちゃんの手は、あの日の吹雪を思い出すような、力強い掌だった。
なっちゃんと別れて、人もまばらな帰路を静かに歩く。僕はいつもの道を外れて、住宅街に埋もれた公園へと足を向けた。あの頃は大きく立派に見えた遊具も、今ではすっかり可愛らしいサイズに感じる。ペンキの塗りなおされた遊具達を懐かしみながら進み、奥のベンチの前で僕は足を止めた。
「えっ・・・叶!何で・・・私、7時って書いたわよね?」
「だーって吹雪、楽しみだったり緊張してたりすると異様に早く待ち合わせ場所にいるじゃん。だから、もういるかなって」
メールを読んだのが5時。学校から直接ここに来るだろうと踏んで、僕も直行したというわけだ。
「それは、心の準備があるからなの!なのに、どうして叶まで早く来るのよぉ・・・」
「こんな人気のない場所で女の子1人なんて危ないからダーメ」
忠平みたいなことを、とぼやく吹雪は、珍しく拗ねた顔をしていた。普段は見せないけれど、確かに僕らより年下なのだと実感する。
「・・・覚えててくれたのね。ここ」
「当たり前でしょ。忘れるわけがないよ」
今の僕は、ここから始まったようなものだ。怯えていただけの僕の手を引いてくれた、吹雪の小さくて強い手。弥七さんの記憶を(思い出した)あの日も、耐えられたのは吹雪のおかげだ。
「吹雪、僕はね。吹雪にどれだけ感謝しても足りない位感謝してるんだ。1人だった僕に声をかけてくれて、手を引いてくれてさ」
今でも、鮮明に思い出せる。
「僕が吹雪にも忠にも言えなかったのは、信頼してないからなんかじゃない。吹雪も忠も、一緒に居るのが当たり前すぎて・・・話したら、今の僕が全部崩れそうなんだ」
吹雪は口を挟むことなく、夕日の中静かに僕を見上げていた。
「だから、2人には何も知らずにこれからも一緒に居てほしい。・・・だめかなぁ」
どっちが年上か分からなくなるような情けない声。そんな僕が可笑しかったのか、吹雪は気が抜けたように相好を崩した。
「忠平に言われたわ。叶が全部忘れてくつろげる場所でいられるのも私達の特権だって」
「そっか・・・その言い方はしっくりくるや」
2人が何も知らないからこそ、僕は普通でいられる。2人には記憶の中で僕が見た後悔や苦しみなんて知らないでいて欲しい。その一心で、僕は耐えていられるんだ。
「そうそう、それに私分かったのよ!」
「?何が?」
「フフフッ叶が江藤先輩に全部を話した理由」
「・・・ん?」
雲行きが怪しい。理由も何も、あれは不可抗力だ。
「いや、なっちゃんに話したのは偶然というか、なんというか・・・」
「それよ!叶が女の子をあだ名で呼んでいる時点で気付くべきだったわ」
ピシッと僕を指さした吹雪は、それまでも(子供)の顔ではなく(女の子)の色に変わっていた。こんな吹雪は初めて見る。
「ふ、吹雪さん・・・?」
初めてこの場所で出会った時は、今とは逆の立ち位置だった。あの頃より、僕らの手は2周りは大きくなっている。それだけ変わっても、手を伸ばすのはやっぱり吹雪の方だった。
「叶!私応援するから!何でも相談して頂戴」
「え、えと・・・何の話?」
「もう!いいのよ、隠さなくても!江藤先輩が好きなんでしょ?」
「・・・ハイ?」
呆気にとられる僕をよそに、吹雪の眼は輝きを増すばかりだ。
「叶と恋バナができる日が来るなんて、嬉しいわ!」
「ちょ、ちょっと待って!何がどうしてそうなったの・・・」
「だって、あだ名で呼んでるし、気付いて.ないかもしれないけど、江藤先輩と話してるときの叶すっごく楽しそうだもの。その上今回の件!これはもう好きでしょ!」
吹雪はどや顔で僕の鼻先に指を突きつけた。
「いや、だから今回は偶然で、というかむしろ不本意で・・・」
「あぁもう楽しみだわ!ねぇねぇ、いつ告白するの?大丈夫、上手くいくわよ。私が保障するわ」
「話を聞いてください吹雪さん・・・」
これはあれだろうか。思春期の女の子がかかるという(そして厄介だという)、恋に恋する状態。1人はしゃぐ吹雪に、僕は呆れるやら脱力するやら。ため息とともに肩を落とした。
翌日。
報告も兼ねてなっちゃんに話しかけると、吹雪の笑顔が伝染したようになっちゃんまでご機嫌だった。
「なっちゃん、楽しそうだね?」
「へへっ、若、吹雪ちゃんと仲直りしたんでしょ」
「う、うん・・・もしかして、吹雪から何か聞いた?」
嫌な予感がする。
「(叶のこと、よろしくお願いします!)ってすごくいい笑顔で言われちゃった。というわけで、任せといてって答えといたよ!」
「そ、そう・・・ありがとう」
どうやら、吹雪の(恋に恋する状態)はしばらく続きそうだ。
言葉通りに受け取ってくれるなっちゃんの素直さが有り難い。
「だから、これからも頼ってくれていいからね」
「はは、頼もしいなぁ・・・」
内心の冷や汗を拭いながら、僕は乾いた笑みで応えたのだった。
時雨「えっ、これあんたが若松サン好きだっつーオチじゃねぇの!?」
吹雪「私が?・・・フフフっ!やだわぁ、そんなわけないじゃない。叶は弟みたいなものよ」
叶「僕年上なんだけどなぁ・・・」
というわけでお読みいただきありがとうございます!吹雪編何とか年内に終わりました^^;
いかがでしたでしょうか
結局話さないの?ってなったかもしれませんが、ここは過去僕を書く上で決めていたことでもあります
少しでも2人との関係が叶にとって特別なことが伝われば幸いですーvー
次回の更新は1月が多忙なため、2月になりそうです(すみません><}
気長にお待ちいただけると嬉しいです




