44.作戦会議の裏側で世界は回る
今なら、子供だと言われても反論できない。忠平と話して解決したはずなのに、吹雪は叶に話しかけられずにいた。
(ごめんなさいって言うだけなのに・・・)
話しかける機会なら何度もあった。その度に目を逸らして、隠れてしまう。きっと叶は、理由も分からずに戸惑っているだろう。そう思うと、吹雪は自己嫌悪に襲われ、それでも引っ掛かる何かにつまずくのだ。
「—―それじゃ、今回はこの辺で終わりっと。皆お疲れさん」
「あっ・・・お疲れ様です・・・」
千歳の声で、つまずいていた意識が現実へと引き戻される。顔を上げると、いつもの生徒会室で、会議の光景が広がっていた。
(しまった・・・メモとってなかったわ・・・)
ホワイトボードには、ずらりと書記が書いた綺麗な文字が並んでいる。対して、吹雪の手元で開かれているノートには一本の線も引かれていない。
「吹雪。はい、コレ」
「えっ・・・?」
千歳が差し出したのは、ホワイトボードの内容を簡潔に、それでいて的確にまとめたメモだった。
「あ、ありがとうございます・・・」
「どーいたしまして。ま、誰にでもボーっとする日くらいあるしね」
有り難く、メモをたたんで鞄に仕舞う。
「・・・何があったか知らないけど、反抗期もほどほどにしてやんなさいよ。ミッキーと違って、奴さんはあんたに弱いんだから」
叶の話だと、すぐに分かった。ばれている。
「叶から、何か聞きましたか」
「何も?ただ、この間若松と夏奈が話してるとき、あんたの名前が聞こえたような気がしたのよ。あんたは元気ないし、もしかしたらと思ってね」
実際は大声で、大層慌てた様子だったことを吹雪は知る由もない。
「江藤先輩は、その・・・何か言ってましたか?」
すっかり忘れていたけれど、吹雪は叶の前に夏奈にも大概失礼なことをしている。そちらも、きちんと謝らなければならなかった。
「え、なにあんた、若松じゃなくて夏奈とケンカしてんの?」
「ケンカというか・・・」
明らかに、一方的に吹雪が悪い。
「大丈夫だと思うけど・・・特に何も言ってなかったわよ」
他の役員が気を遣って席を外してくれたため、千歳は声のボリュームを普通に戻して首を傾げた。
「そうですか・・・」
「少なくとも、夏奈は怒ったりへこんだりしてないわよ。安心しなさい」
「だと、いいんですけどね・・・」
千歳には話していなくても、叶にも話しているかもしれない。その不安が、ここ数日の叶とのかくれんぼにつながっているのだ。
「大体、あんたがへそ曲げるなんてただ事じゃないしね。譲れないところがあったんでしょ」
「・・・そんなんじゃありません。結局は、私のワガママなんです」
一番に話してほしかった。初めての友達である吹雪に。
「いーじゃない。弟がいる立場からすれば、多少の我儘くらい可愛いもんだわ」
「えっ・・・会長弟居たんですか?その性格で?」
「おっかしいなぁ。私今結構真面目にフォローしたつもりなんだけど・・・」
.口をとがらせた千歳に頬をつままれ、笑いが漏れる。
「冗談です。ありがとうございます。少し、気が晴れました」
「まったく・・・まぁ、気がすんだら話してやりなさいよ。あいつ目に見えて寂しがってるから」
「はい・・・」
この体たらくではいつになるか分かったものではないけれど。自分に対する宣言も兼ねて、吹雪は頷いた。
「じゃっ、ここのカギは私が返しとくから、気ぃつけて帰りなさい」
「え、でも・・・」
「いいからいいから。ほら、出た出た」
「・・・ありがとう、ございます」
いつも自由人な千歳の気遣いがこそばゆい。吹雪は小さく礼をして昇降口へと足を向けた。
忠平との会話と、先ほどの千歳との会話.を反芻しつつ、廊下を進む。階段を下りて昇降口まで来ると、吹雪の視線は自然と3年生の教室へと向けられた。
(もう、さすがに帰ったわよね・・・)
会議がそれなりに長引いていたため、授業が終わってから2時間が経過している。実際は、叶と夏奈はまだ教室で作戦会議に講じていたものの、普段なら教室に残っている生徒なんてほとんどいない。
人気が無い廊下で、吹雪は自分の胸中に耳を澄ませた。自分は、どうしたいのだろう。何をすべきなのだろう。考えれば考えるほど、叶に会うのが怖くなる。
頭がいっぱいになりため息を吐いたとき、静かだった廊下に足音が響いた。
「・・・何やってんの、あんた」
「ひゃ.っ!?わ、渡部君・・・」
「ボーっと突っ立って、気分でも悪いのかよ」
「う、ううん、大丈夫よ。少し考え事してただけ」
後輩に悩んでいる状態を見られたというのが、どうしようもなく恥ずかしい。吹雪は誤魔化しつつ精一杯平静を装った。
「渡部君はこんな時間までどうしたの?」
「先公に捕まって雑用させられてた。あんたこそ遅いのな」
「私は生徒会の会議があって・・・」
「ふぅん。若松サンでも待ってんのかと思った」
「!ど、どうして叶・・・?」
「3年の教室の方見てたから。あんたのことだから、忠さんとか若松サン待ってんのかなって」
「そ、そう・・・」
考えれば、時雨が今の状況を知るわけがない。そう安心した時。
「その様子じゃ、まだケンカしてんだ?あんた若松サンに甘いのに珍しい」
「!?なっ・・・知ってたの?というか、別にケンカしてるわけじゃ・・・」
「ふぅん?この前見かけたとき避けてるみたいだったから、もしかしてと思ってさ。あんたがあの人避けるなんてよっぽどじゃん」
「う・・・避けてるわけじゃ、なくて・・・」
言い訳が思いつかず、吹雪はゴニョゴニョと語尾を濁した。
「あれで避けてないって言っても説得力ねぇけどな。何、あの人に告白でもすんの?なーんて・・・」
「告白・・・?」
ずっと引っ掛かっていたものが取れたような、目の前が急にはっきりするような感覚。冗談めかして笑っていた時雨は、黙り込んだ吹雪を心配そうに覗き込んだ。
「お、おい・・・?」
「渡部君っ・・・ありがとう!!」
吹雪は勢いよく顔を上げると、時雨の手をギュッと包み込むように握った。
「ハッ!?ちょ・・・」
「おかげさまで全部分かったわ!あースッキリした!そうとなったら叶にメールしなくちゃ!それじゃぁまたね!気を付けて帰るのよ」
「お、おう・・・」
呆気にとられる時雨を置き去りに、吹雪は拳を振り上げつつ駆け出した。
時雨「もしかしてオレ、自分の首絞めた・・・?」
お読みいただきありがとうございます
明日更新分で終わる予定ですので、大晦日ですがお付き合いいただけると幸いです^^




