41.抱えることに慣れた僕は
あの日以来、どうしても吹雪の態度がひっかかっている。時間が経てば戻るかも、なんて淡い希望を抱いていたけれど、昨日廊下ですれ違った時に思い切り眼を逸らされてしまった。
「なんだアレ。反抗期か?」
隣に居合わせた忠にそう言われて
「ま、まさかぁ・・・忠じゃあるまいし」
「どういう意味だコラ」
いつもの調子で返したけれど、どう考えてもやっぱりおかしい。吹雪が忠を避けるならともかく、僕を避けるなんて初めてだ。
そして、様子がおかしいのはもう一人。
「・・・なっちゃん、どうかした?」
今日の朝のHRから1日中、斜め前からのチクチクとした視線が気になっていた。後ろならまだしも、前だから気付かないわけがない。
「えっ、いや・・・何でもないよ」
「嘘。眼、泳いでるよ?」
僕が指摘すると、なっちゃんは気まずそうに目を伏せた。帰りのHRを終え、賑わう教室の中で沈黙が流れる。
「若、さぁ・・・最近吹雪ちゃんと話した?」
「!!吹雪から何か聞いたの?」
思いがけず降ってきたつながりに、つい教室に響く大声が飛び出した。周りの視線が痛い。
「話してない、かぁ・・・」
「吹雪、なんて・・・?」
「・・・帰りながら、話そっか」
大声に集まった視線は粗方散ったけれど、なっちゃんの後ろから神谷さんの好奇の視線が覗いている。僕は頷いて荷物を手に取った。
「それで・・・吹雪、なんて?」
我慢することができず、校門を出るなり口を開く。
「まず聞きたいんだけど・・・若は、この間あたしに話してくれたことを忠君とか吹雪ちゃんに話すつもりはないのかな」
なっちゃんに話したと言えば、僕の秘密のことに他ならない。それは、僕が何年も温めてきた問いだった。自分の中で、決着をつけていたはずの問い。
「・・・僕は、これ以上誰かに言うつもりは無いよ。もちろん、2人にも」
「何で?あの2人にくらい、話したって・・・」
「言い方が悪かったね。僕は、あの2人にだけは話さないって決めてるんだ」
確かに、僕にとって2人はこの上ない友人だ。でも、だからこそ。
僕の答えに、なっちゃんは戸惑ったように足を止めた。
「でも・・・吹雪ちゃん、不安がってたよ。若があたしに話したのに、自分には話してくれない。信頼されてないんじゃないかって」
「!それが、吹雪が言ってたこと?」
「うん。吹雪ちゃんは本当に若のことよく分かってるね。あたしが話を聞いたこと、気付いたみたい。だから、せめて吹雪ちゃんには話して、安心させてあげて欲しい。あたしに話すより、2人に話すほうが若も楽になるだろうし・・・」
言いづらいなら、協力するから。そう語りかけるなっちゃんの言葉は、たしかに僕の心を一生懸命に正面から揺らしていた。
「確かに、楽にはなるだろうね」
2人に、本当の意味で何でも話せるようになる。そんな関係に、憧れだってある。
「でも、だからこそ言えないんだ・・・あの2人に知られたら、心が軽くなりすぎて立っていられなくなる気がするからさ」
少々誌的で気恥ずかしいけど、これしかいい例えが見つからない。怪訝そうな顔のなっちゃんは、それでも否定することなく、僕の言葉を聞いてくれていた。
「おかえり。吹雪ちゃん来てるわよ」
家のドアを開けると、ただいま、というより先にそんな言葉が飛んできた。
「は?吹雪が?」
呼んでもいないいし、来るとも聞いていない。忠平が靴を脱いでいる横に、母親はお菓子の盛られた盆を置いた。
「今あんたの部屋にいるから、コレ持ってさっさと行きなさい」
「ほんっと、吹雪には甘いよな。勝手に部屋に入れやがって・・・」
盆の上には、クッキーとチョコレートが山と盛られている。明らかに、甘いものが苦手な息子用ではない。申し訳程度に端に添えられたせんべいがソレか。
「いいじゃない別に。今さら吹雪ちゃんに見られて困るものも無いでしょ。エロ本の1つでもあればネタにできるのに、面白くないったら・・・あんた本当に男子高校生?」
「黙れよ・・・」
親がこれだから、下手なものは部屋に置けない、が正しい。忠平は盆を手に取ると、自室へと向かった。自室をノックというのも変な話だが、中に吹雪とはいえ人がいると、ついノックをしてしまう。
「・・・お帰りなさい」
ベッドにもたれかかっていた吹雪は、一目で分かるほど不満のくすぶる空気を部屋に充満させていた。明らかに、機嫌が悪い。
「ただいま。ほれ、お前にだとよ」
ほぼ吹雪用のお盆を渡しながら、これは長くなりそうだと忠平は心の中でため息を吐いた。
お読みいただきありがとうございます
今月中にはこの章を終わらせたいので、しばらくちょいちょい更新するかもです
お付き合いいただけると幸いです




