37.始まりの日
僕の家の近くには、小さな公園がある。
幼い頃の僕は、(思い出す)のが怖くて。それでいて家に閉じこもって人と違うことがばれるのも嫌で。いつも、その公園のベンチで他の子供たちが遊んでいるのをぼんやりと眺めているような、そんな子供だった。
それが変化したのは、小学校に入る少し前のこと。
「おにいちゃん、なにしてるの?」
子供たちの輪に加わることもせず、ただ座っていただけの僕の前に、ワンピースを着ていた少女はいつの間にか立っていた。
「えっ・・・僕?」
「うんっ!おにいちゃん、いつもここにいるでしょ?」
「えっと・・・べつに・・・」
何もしていないのだから、答えようがない。彼女の母親だろうか。少し離れたところからこちらを見守るその視線も、僕を委縮させた。
「あのねっ、ずっとここじゃつまらないでしょ?だから、いっしょにあそぼ?」
「!や、やだ・・・僕はいい」
初めてだった。ここでじっと息をひそめている僕に声をかけてきたのは。嬉しさと同時に、恐怖がこみ上げる。
「えーっ、どうして?いっしょにあそぶとたのしいよ?」
「・・・(おもいだす)から・・・だから、いい」
沈んだ声で応えて、目を伏せる。
「おもいだす・・・?おにいちゃん、いやなことあったの?」
「僕じゃない。でも、(おもいだす)の」
正直、自分でも理解できていなかったこの現象を、年下らしい彼女に上手く説明できるはずもない。分かってくれなくていい。早くどこかにいってくれ。そんな僕の思いとは裏腹に、ワンピースのシルエットは呑気に揺れていた。
「だいじょうぶだよ!おにいちゃん」
「え・・・?」
視界に入ってきたのは、小さくて綺麗な手だった。まだ何の絶望も知らない、純粋な手。
「やなことなんて、たのしいこといーーっぱいしてたらわすれちゃうよ!だから、ふぶきとあそぼ?」
忘れられるのだろうか。僕の中に埋め込まれた、このたくさんの記憶を。
幼かった僕には分からなかったけれど、差し出された手は不思議と力強くて、信じてみようを思えた。本当は、ずっと誰かに話しかけて欲しかったのかもしれない。
僕は、恐る恐る手を伸ばした。
お読みいただきありがとうございます(^^*
最初の部分がリストラされたのをいいだせないサラリーマンみだいだなんて言ってはいけない()
新章ということで、今回の章では吹雪にも焦点が当たっていきます
お付き合いいただけると幸いです




