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過去の人、今の僕  作者: 稚早
~僕の秘密~
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28.深層心理の叫び声①

 男は弥七と名乗った。

「江戸の外れに住んでいた侍の倅だ。この男の祖先にあたる」

「若の、先祖・・・?」

「あぁ、そうじゃなきゃ今頃ここにいねぇからな」

「?どういうこと・・・?」

「まぁそう急かしなさんな。知ってることはきちんと全部話してやるからよぉ」

弥七がふぅ、としんどそうに息を吐く。すぐにでも話してほしいけれど、そんな様子を見せられては何も言えない。夏奈はギュッと口をつぐんだ。

「俺は、どこにでもいる普通のガキだった。ある一点を除いてな」

「ある一点・・・それが、若の秘密と関係あるの?」

「あぁ。こいつも同じだからな。俺は、いや、俺たちは」

“先祖の記憶を受け継いでいるんだ”

いつも穏やかな叶の顔に似合わない張り詰めた表情で、弥七は告げた。

「訳が分からねぇって顔だな。例えば、俺の母親が崖から落ちて怪我をしたとしよう。すると、俺が崖を目の前にしたとき、その記憶を(思い出す)んだ」

言葉を失う夏奈に、弥七は畳み掛けるように続ける。

「楽しい記憶も(思い出す)ならまだいい。だが生憎、人ってなぁ辛いことの方が残るもんらしくてな。(思い出す)のはいつも、碌でもねぇもんばっかだ」

「なに、それ・・・若も、そうだっていうの?そんなの、あんまりだよ・・・」

どんなに、怖いだろう。想像しただけで、気が狂いそうだ。

「残念だが、俺が今こうして喋っている。それが現実だ」

何の感慨もない、冷めきった眼。叶が時折見せた、どこか物憂げな表情の奥にあったものも同じなのだと夏奈は初めて気が付いた。

「で、でも若はそんなこと一言もっ———」

「言えると、思うのかい?」

ピシャリ、と撥ね付ける声に体がすくむ。弥七は呆れたように凪いだ眼で夏奈を見上げていた。

「こんな与太話、誰が信じる。気狂いだと言われて終わりだ。俺は、誰よりよく知っている。こいつのこたぁ知らねぇが、大体の想像はつく」

弥七の手が、いたわるように叶の喉元を撫でる。

「嬢ちゃんだってこうして俺と話さなきゃ信じやしなかったろ?こいつのことなんて気づきもしなかった。違うかい?」

疑問形をしてはいるが、そこに問いはない。何も、言えなかった。気づかなかったどころか、今だってどこか半信半疑だ。

「それは・・・でもっ、若もそうだって言えるの?そもそも、今この状況の説明にはなってない!」

むきになって反論する夏奈を、弥七は余裕の滲む様子で宥めた。

「まぁ、そうさな。だが、嬢ちゃんは1つ勘違いをしているぜ」

「勘違い・・・?」

「俺は今、ここに居るわけじゃねぇ」

喉元から、叶のこめかみへと指が移る。

「嬢ちゃんが今話してんのは、ただの(俺)、弥七の記憶だけになった(こいつ)なのさ」

「記憶・・・だけ・・・」

この短い時間に、何度この単語を聞いただろう。話は夏奈の処理能力をあっさりと超えていて、ただ首をひねることしかできなかった。自分の理解力の無さが、ほとほと嫌になる。

「こいつ、衝撃で一時的に記憶が飛んじまってるらしくてよ。それで、こいつ以外の記憶で一番安定してる俺の記憶が残ったんだろ。だから、今の俺は(弥七)の記憶で喋ってるだけのこいつさ」

「ちょ、ちょっと待ってよ!若の記憶が飛んだって、大丈夫なの!?」

さらりと出てきた新しい事実に、夏奈は腕を引かれたときと同じくらい弥七に向かって身を乗り出した。

「あぁ、心配すんな。俺らは(思い出す)のはお手のもんだ。良くも、悪くもな」

「そんなこと、言わないでよ・・・」

例えそうだとして、叶が元に戻れる保証なんてない。元に戻れたとしても、そこにきっと(幸せ)や(安息)なんてないのだろう。

「悪かった。そんな顔すんなよ。俺の血を引く男だ。今までずっと耐えてきたんだし、今さら(記憶)負けやしねぇよ」

弥七は叶と同じ穏やかな顔で、夏奈の頭を撫でた。それだけで、叶がそこに居るようで安心する。けれど、1つ。

「ねぇ。さっき言ってた衝撃って何?」

その正体が、気がかりだった。叶が倒れたのは、他でもない夏奈を見たときだった。あの時見上げた叶の顔は、涙の滲んだこちら側でも分かるくらいボロボロだった。

「・・・知りたいかい」

「勿論。全部聞くんだから」

覚悟はできている。弥七は1度硬く眼をつぶり、ゆっくりと夏奈を見上げた。

「原因は俺にある。そして嬢ちゃん、あんたがその衝撃だよ」

どこかで、理解していた。叶が倒れたときの状況を考えれば、自分は無関係では済まないのだろうと。

「詳しく、聞かせて。原因は俺で衝撃があたしって、どういうこと?」

どうして、原因と衝撃が等号で結ばれないのか。これまでの話をもう少しでも理解できていたなら、察しがついたろうか。けれど、この場で弥七と話すことで精一杯だった夏奈に、そんな余裕があるはずもない。弥七は叶が何度か見せた諦めの表情を浮かべ、口を開いた。

「あんたは、俺の幼馴染と似すぎている」


お読みいただきありがとうございます!

あと2話くらい弥七の話が続きます。

お付き合いいただけますと幸いです(*^^*)

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