12. 仰げば尊し?
委員会は、1時間もしないうちに解散となった。
思いの外早く終わった。
それはいいのだが、時雨の肩は苛立ちですっかり跳ね上がっていた。
荒い手つきで、鞄にプリントを放り込む。クシャッ、とよったしわが、時雨をさらに苛立たせた。
「お疲れさん。よく我慢したな。えらいえらい」
この1時間、何度怒鳴ろうと思ったか分からない。
時雨が耐えられたのは、この声の主のおかげだ。
「ンだよあいつらぁ!好き勝手言いやがって!」
「落ち着け、声が大きい。図書館だぞ」
委員長、副委員長が、立候補ですぐに決まったまではよかった。
前に出たその二人が、自分勝手な進行を始めるまでは。
「あれは、さすがにやりすぎだがな」
「だよなぁ!?(オレらは委員長だから、当番なしねー)とか・・・ふざけんなっつーの!アンタがとめてくれなかったら怒鳴ってたよオレ」
勝手に話を進める度に怒鳴りそうになっていた時雨を抑え、忠平はさりげなく2人の暴走を阻止していた。おそらく、全員が忠平に感謝していたことだろう。
「あいつらが2年だからできたことだ。先輩権限ってやつだな」
「その紙もちゃっかりとりあげるしよぉ・・・」
忠平の鞄の隣、一枚だけ別にされたプリントに、時雨はからかうように鼻を鳴らした。
「取り上げたんじゃない。預かったんだ。人聞きの悪い」
プリントには、今日話し合った内容が記載されている。活動内容を、生徒会に報告するためのものだ。
——それ、生徒会に持っていくんだろう?これから黒瀬に会う約束があるんだ。丁度いいから俺から渡しておこう——
そう言って手を伸ばした忠平には、遠慮を装って断る隙がなかった。結構です、なんて言うこともできず、2人はプリントを差し出したのだった。
「俺は親切心で預かっただけだぞ」
「よく言うぜ・・・」
指摘こそしなかったが、時雨は見逃さなかった。
件の2人が、忠平の申し出に露骨に顔をしかめていたのを。
「あれ、絶対自分の好きなように書き換えるつもりだったろ」
大方、当番のところから自分達を抜くつもりだったのだろう。提出用なのにシャーペンで書かれたプリントが何よりの証拠だ。口をとがらせた時雨に、忠平は眉をひそめて手を伸ばした、人差し指がベチン、と時雨のでこを弾く。
「ってぇ!なにすんだよ!」
「誰が聞いてるか分からないのに、下手なことを言うもんじゃない」
気持ちは分かるけどな、と小声で付け足して、忠平は表情を崩した。
「そんな調子だと、目をつけられるぞ」
「・・・別に。痛くもかゆくもねぇよ」
説教はごめんだ。時雨は続きを聞きたくなくて体を起こし荷物を手に取った。どうして、たった1つ歳が違うだけで上下関係が決まるのだろう。それも、自分の好きなように委員会を進めるような輩に。自分の尊敬できない相手を目上として扱いたくなんてない。昔からの時雨の信条だ。
「でも、生きづらいだろそれじゃ」
「えっ・・・」
逃げようとする忠平の声は、予想に反して全てを見透かしたように寛容だった。
「そんなにカリカリしてたら疲れるだろ。正論で口撃するにしても、少し考えたほうがいい」
たった2つしか違わない、それなのに、忠平の言葉は時雨にとって大人びた、尊重すべき意見に思えた。
「・・・考えてみる」
今日初めて話した相手の言葉だ。素直じゃない時雨には、相槌が精一杯だった。
「あぁ、そうだ。折角だしお前も来るか?」
「・・・は?」
「コレを渡しに行くついでだ。うちの生徒会がどんな奴らか、見てみるといい」
例のプリントをひらひら揺らす忠平は頼もしくも、何かを企む魔王のようにも見えた。




