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元退魔師の異世界転移  作者: 多田羅
その日暮らしのオッサン編
7/13

その日暮らしのオッサン、おせっかいを焼く 

「魔眼持ち、かしらね」

 興味深そうに俺の目を覗きこむメルティーは一人で何かをブツブツと言っている。

 俺の上瞼と下瞼を指で摘み、こじ開けながら。

「目が痛い!乾く!乾く!」

「あら、ごめんなさい」

 大してして悪くもなさそうに言うと渋々と手を離した。

「全く本当にメチャクチャよあなた。魔力の流れが見えるなんて」

「そうなのか?」

「ええ、知られれば。あなたの目、狙われるわね。断言できるわ」

「嘘ん?」

 今更ながらとんでもないことをしてしまったと頭を抱える。後悔先に立たずだ。

「まあ、あなたが私の研究に付き合ってくれるのであれば、貴方の魔眼のことは黙っていてもいいわ」

「拒否権は?」

 一応聞くが。

「あると思う?」

 ですよね。

「じゃあ、分かってるわね?まあ少なくとも目玉を抉り出したり。切開したり。とかはしないわ約束する」

「当たり前だ!」

「あら、他の魔法士はやるわよ。だからまあ、貴方にとっても悪い話じゃないでしょ?」

 最悪の中でも一番マシ程度だがな。

「具体的には何をすればいい」

「私の使い魔になりなさい」

「断る!」

 使い魔って、俺の世界にもあるが、ろくなもんじゃねえぞ。扱いはほぼ奴隷だよ。なんの見返りも無く人間に使役される人外ども。たいていは、退魔師に敗れた人外が命と引き換えに服従を誓う。稀に、自分から人間に使役される物好きもいるが、かなりのレアケースだ。第一人間が人間に使役されるって何?そんな事は許されない。倫理的に。……でもここ世界か倫理観とかも違うのかな?俺の未来に暗雲立ち込める。まあ、もともと暗雲だらけなのだが。

「使い魔って言っても形だけよ。私と契約をしてもらいたいの」

「なぜだ」

「契約の内容は、貴方の魔眼の共有」

「契約するとお前の眼が魔眼になるのか?」

「私の眼が物理的に変化するワケじゃない。ただ契約によって出来た貴方とのパスを通して擬似的に魔眼を使用可能にするの。簡単にいえば、魔眼を模倣する」

 何その超技術?

「勿論その代価として私の魔力を半分、貴方のものとして使う権利をあげる」

「おいおい、いいのかそんなことして?」

「だって契約ってそういうものだもの。何かを得る代わりに代価を払う。本来は精霊なんかを相手に使うから多少は術式に修正が必要だけど」

 なんのことも無いように言けど。魔力半分は行き過ぎだ。馬鹿げてる。いろんな意味でな。

「そんなんじゃねえよ。お前の魔力を俺が使えるようになるんだろ?お前はそれでいいのかって聞いてるんだよ?」

 メルティーに宿る豊潤な魔力を思い出す。それが一部でも自分のものになるのだ。それは彼女から財産を奪うことになる。問題は他にもあるんだがな。

「構わない」

「なんでだ?」

「天才でなくなるから」

「なんだそりゃ?」

 天才の何が悪いのか俺には全くわからない。他者がどれだけ努力しても持ち得ぬ才を彼女は捨てるといっている。なにがそうさせているのかは分からない。だが、彼女は間違えを犯している。わかっていて目を逸らしているのかもしれない。

「お前は魔力が多少落ちたぐらいじゃ凡庸にはなれない」

 俺の指摘にメルティーは一度肩を震わせる。

「そんなのやってみないと分からない」

「いや、わかる」

 言い切った。

「お前を天才たらしめる要因は魔力の有無だけじゃない。その魔力を最大限活かしきるセンスだ」

 メルティー・バーネットを天才たらしめる所以ゆえんは並外れた魔力量を制御し操る事の出来る技量だった。

 魔力は保有量が大きくなれば大きくなるほどに制御が難しくなる。メルティーほどの魔力となれば、その難しさは、俺には想像もできない。だから、魔力の保有量が落ちたところで彼女は天才でしかない。

「なにが、お前に魔力を捨てさせようなんて真似をさせているのかはわからないけどな。仮に魔力が凡人程度にしか無くなっても、お前はこの先も天才であり続けるんだ」

 俺の言葉で、メルティーの様子が目に見えて代わる。小刻みに身体を震わせ、両拳は手のひらに爪が食い込む程に握られている。あれ?俺なんか地雷踏んだ?

「天才、天才、天才って皆そればかり。天才だから魔法がうまく使える。天才だから術を覚えるのが早い天才だから、天才だから。何が天才よ!私は努力した!天才なんかじゃない!私がしてきた努力を見ようともしないで、あいつらは天才ってだけで私を虐げる!私が天才ってだけで!」

 彼女の言い分は支離滅裂だった。ただの感情の暴露だった。押し込めていた感情が堰を切ったようにあふれだす。

「魔法協会の事か?」

 問うてみるが、メルティーは何も言わなかった。どうやら彼女は妬みの対象になってるらしいな。若くしてAランクにまで上り詰めた魔法士共なれば無理もないか。問題はメルティーの精神面がそれに耐え切れないことだろう。

 彼女は孤独なのだ。才能があるが、それだけだ。歳相応の楽しみも、自身を高め合うライバルも、自分の苦楽を分かってくれる人間すら彼女には居ないのだろう。

 そんな彼女を見て、一瞬、同情しかけて。だが、俺にその権利は無いだろうと思い直し。

 それでも放っておけなかった。

 だからだろうか。口が滑ってしまった。

「お前は頑張ってるよ。頑張りすぎだ」

 無責任なことを言ってしまった。

「どうしてあんたに、そんなことが分かるのよ!?」

 ほらきた。そうだよな俺だってそう思うわ。まあ、そんなことを俺に言わせた理由だったら心当たりがあるんだがな。まあ、話すしか無いよな。ここまで来たらさ。

「妹がいた。生きてればお前より少し上の年になるな。その妹は、まあお前ほどではないが強い魔力を持っていてな。それが原因で死んだ。器が自分の魔力に耐え切れなかったんだ。俺も妹を助けようとして魔力をその魔力を封印する術や魔具を考えだしては見たがダメだった。十歳だったよ」

 一旦話を途切ってメルティーの様子を見てみた。真剣な表情で黙って聞いているところを見るに、話を先に勧めても大丈夫そうだ。

「妹はお前みたいに魔力をコントロールするセンスが無かった。自分の力に苦しめられてそれを抑えこむ術もなく、最期は酷いもんだったよ。お前もそんな時期があったんだろ?」

 妹は血だらけになっていた。行き場をなくした魔力が肉をさきながら外へと放出され。残ったのは八つ裂きに成った妹の亡骸だった。

「……あった」

「膨大な魔力を持つというのはそういうことだ。だから俺はお前がどんなに頑張ったのか、はなんて言ったらいいのかな。分かる?」

「そこでなんで疑問形になるの?」

「だって、俺が実際にそんな体験したわけじゃねえし。とにかくだ。放おっときゃ自分を食い殺す様な魔力をうまく飼いならしてるんだ。元々の才能はあったのかも知れないけどな。莫大な魔力の保有量なんてコントロールできなきゃ呪いだよ。呪いを才能に変えたのは、間違えなくお前の努力なんじゃないか、と俺は思うのだが、君はどう思う」

「なんで、私に聞くのよ?」

「しらん」

 なんだってこんなこと言ってんだろ?俺。

「まあとにかくだ。魔眼が欲しいなら契約してやる。だが、お前の魔力はお前のもんだ。てかそんなもん俺に渡すな。殺す気か?」

 本当に勘弁して頂きたい。

「そう、貴方ならコントロールできると思うんだけど」

「買い被るな。器じゃないんだよ。それよりだ。まあ、その、何だ」

「何よ」

 煮え切らない俺にメルティーはジト目をで睨みつける。

「なんかあったら。俺に言え。力になれるかもしれん」

 俺の言葉にメルティーはそっけなく背中を向ける。まあそうだよな。今日あったばかりの他人が一体何を言っているのか。全くもって自分の行動が理解できない。

 そして彼女は言った。

「考えておくわ。とにかく私と契約はしてくれるみたいだし。とっとと、こんな依頼終わらせて私の研究室に行くわよ……ふふふ、魔眼よ、魔眼。面白いわ。ふふ、ふふふ、ふふふふふ」

 静かに笑う彼女を見て思った。……早まったかもしれん。

「そういえば」

 不意に立ち止まったメルティーが、こっちを見る。言葉こそ軽かったが、目は真剣なものだった。

「妹さんの名前、なんて言うのか教えてもらってもいいかしら?」

 自分で離したことだ。今更名前を出し渋ることも無いのですぐに答えた。

咲耶さやだ。神崎咲耶。妹の名だ」

「そう、ありがと」

 一瞬目を閉じて何かを考えたメルティーだったが、次の瞬間には黙々と街道を歩き出していた。

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