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元退魔師の異世界転移  作者: 多田羅
その日暮らしのオッサン編
3/13

その日暮らしのオッサン、さらなるオッサンと語らう

 今回の討伐依頼の詳細は、ヘーゼルと隣の町であるリーンを繋ぐ街道沿いに出る魔物の排除である。

 魔物とは俺の世界でいう害獣のことだ。といっても俺の世界の害獣とリディアに出没する魔物では危険度が段違いだ。

 豊潤な魔力の影響なのか。特異な進化を続けてきたリディアの生物は、俺の世界の生物よりも基本的にでかい。薬草採取の依頼中に遭遇したインド象並の大きさのミミズには失神しかけた……。動物がでかくなるのはまだいい。熊がでかくなろうが熊なのだから。

 だか虫ども、お前らはだめだ。人間大のG(黒光する有名なアレ)とか恐怖以外の何物でもない。自分と同じ大きさのアレが凄まじいスピードで走るんだぞ。半狂乱で逃げたわ!

 でもあれだな。虫って身体がでかくなると強いのな。かく言う人間大のGはキモいだけじゃなくて強いんだ。凄まじいい機動力と生命力に加え。ハツカネズミ並の繁殖力。リディアにおけるGはヘーゼル周辺の食物連鎖の上位に食い込む程に厄介だ。もちろん人間も捕食対象だ。キモさに加え、強さまで手にしたGはやはり人間から嫌われており。黒い悪魔と呼ばれている。俺もこいつとは遭遇したくない。いろいろな意味で……。

 とにかく、こういった魔物は、長い間放置しておくと街道に出てきて人を襲いだすのだ。

 そうなる前に定期的に周辺の魔物を狩ることでその一体が人間の縄張りであることを魔物たちにしらしめるのだ。

 因みに俺は魔物の討伐依頼は初めてだ。

 別に楽しみではないが、久々に戦闘職らしい仕事が舞い込んできたので少しばかり張り切ってしまおうと思っている。

 心もとない装備を新調すべく久しく行っていない武器屋に顔をだすと目ざとく俺を見つけた店主が声をかけてくる。白いひげを生やした体格のいい男性おっさんだ。太い腕には戦闘で付いた傷がある。

 前にその傷のことを聞いたら。冒険者時代に付いた傷らしい。俺はこの人のことをおやっさんとよんでいる。

「おお、便利屋の兄ちゃんじゃねえか。どうした?またウインドウショッピングか?」

 とっつきにくそうな外見とは裏腹に人懐っこい笑みを浮かべて、あまり買い物をしない俺にも気さくに話しかけてくる。

「いや、今日は装備を新調しようと思って。それからおやっさん。俺は便利屋じゃなくて冒険者ね」

 店の売上に貢献することを明言し、それから便利屋と言われた事をやんわりと訂正する。

「ははは、でもお前さん評判いいよ。時間は守るし、言われたことは真面目に取り組む。しかも仕事は丁寧だときた。お前さんいっそそっち方面に転職したらどうだ?」

 おお?そうなのか?生計を建てるのに何も戦闘職にこだわる必要は……じゃなくて。

「いやいや、だから今日は装備を新調しに来たんだって」

 危ない危ない。危うく乗せられてしまうところだった。

「おお?てことはお前さんあれか?とうとう念願の」

「戦闘系の依頼だ」

「やったじゃねえか。この一年地道に頑張ってきたのも無駄じゃなかったな」

「まあ、少しわけありみたいだけどな」

「ほう、だがまあチャンスではあるんだろ」

「まあな」

「で、お前はそこに飛び込んだと」

「ああ」

「まあ、何かをつかむには危険を冒す必要があるんだ。危険を恐れてばかりじゃ運も逃げちまうしな。お前さんが行くんなら。俺は止めねえよ」

 うむ、この世界にも虎穴に入らずば虎子を得ずの考えは根付いているらしい。

 まあ、俺は冒険者として大成したいわけではないのだが。

 金に眼が眩んだ事は黙っておこう。しかし、今考えるとおやっさんにはかなり良くしてもらってた。

 俺の愚痴を聞いてもらったりして。

 武器屋だというのに買い物もせずに自分の愚痴をこぼす俺。嫌な客すぎる。まあいい、気にしないことにしよう。

「おやっさん、ありがとな。知らない土地で一年も頑張ってこれたのは、おやっさんが良くしてくれたおかげだよ。愚痴聞いてくれたりもしたし」

 俺の言葉におやっさんはしばらく止まり。

「なんか変なもんでも食ったか?」

「感謝してるんだよ!この髭おやじ!」

 照れくさいの我慢して言った感謝の言葉が台無しだよ。

「まあ、そういうなって。駆け出しの頃はいろいろ厳しいのは俺も知ってっかんな。装備だって買いたくても金がねえ。依頼を受けたくても信用がねえ。信用がねえから家も金も借りられねえ。ないないづくしの日々だからな。人を襲う竜を倒しただとか一国の危機を救ったとか、そう言った英雄譚に憧れて冒険者の世界に入った人間の大半は、その日々に耐えられなくてやめてくもんだ。兄ちゃん頑張ったじゃねえか。愚痴ぐらいいつでも聞いてやるよ」

 おやっさん……

「変なもんでも食ったか?」

「ぐ、このやろう人が、良い話してる時に……。なんか無性に恥ずかしくなってきたじゃねえか」

「ははは、さっきの仕返しだ」

 溜息を吐くおやっさん。分かるよその気持。俺もさっき吐きたくなった。

「まあ、とにかくアレだ。別に用なんて無くてもいつでも来いってことだ」

 一人っきりで全く違う世界に飛ばされた俺にとってオッサンみたいな存在は本当にありがたい。俺が異世界の人間であることは誰にも話していない。この世界の常識や暗黙の了解だって当初はわからなかった。いい年をして子供でも知っているようなことを知らない俺はさぞかし奇妙だっただろう。

 そんな俺の世話をあれこれ焼いてくれ、話し相手になってくれたのがおやっさんだった。おやっさんがいなければ、俺は今どうなってたか分からない。

「ありがとな、おやっさん」

「よせよせ、そういうのは柄じゃねえっての。そういえば装備の新調だっけか?一式揃えるか?」

 オッサンが話を本筋に戻す。

「ああ、でも鎧とかは動きが制限されるからパスだ。高い防御力はいらないから、そうだな……これが良い」

 俺が、指差したのは、黒い革製のジャケットだ。丈はひざ下ぐらいまである。鎧のように関節部分に制限が無いので動きが取りやすそうだ。

「レザージャケットか。確かに動きやすいが……」

 おそらく防御性能の方を気にしているのだろう。おやっさんが気遣わしげに俺を見る。

「いやいや、別に魔物を舐めたり。金をケチってるわけじゃないぞ。この装備が俺の戦闘スタイルにあってるから選んだんだ」

「ほう」

 おやっさんの眼が俺を量るように細められる。

「俺は殆ど空手の状態で格闘術を駆使して戦う。ただでさえリーチが短いんだ。動きに制限をつけたら速さというメリットが殺されるからな。相手の懐に入れなくなる」

「なるほど、だが格闘士とは珍しいな。確かに武器を持ったら素早さが落ちるが、メリットもある。というよりな同じ同じ力量の格闘士と剣士がやったら八割がた剣士が勝つ。リーチの差に加え、剣を使って相手の攻撃を防いだり。払ったりできるからな。格闘士は基本的にこれが出来ねえ。防御法と言えば敵の攻撃を躱すかいなすかだ。がっちり受け止めるのはまず無理だからな。得物を使った戦闘が主流なのはこういった事情があるからだ」

「まあ、そうなんだが、俺はこれしか出来ないんだ。今更なれない剣を持っても剣に振り回されるのが落ちだからな。それにまあ、一応いまおやっさんがあげた欠点を改善する術もある」

「ほう、お前さんひょっとして結構強いのか」

 ええ、一応退魔の名門崩れです。別に好きで崩れたわけじゃないけど。戦闘は得意です。

「まあ、そういうことならいいんじゃねえのか。だが、俺も元冒険者だから一応忠告しとくぞ。危なくなったら絶対逃げろ。メンツや評価なんて気にするな」

「分かってるよ。こう見えても逃げ足は早いんだよ」

 自慢にならない自慢をする。

「ああそういやそうだな、逃げ足で思い出した。黒い悪魔からの逃走劇、町で伝説になってるぞ」

「ぶっ!」

 半狂乱になって逃げた時のだ。たまたま近くに別口の依頼を受けた冒険者達がいたらしく。俺が泣きながら逃げ惑う姿を目撃されている。

 俺はその通りかかった冒険者に助けられたのだが……。アレはトラウマだ。色んな意味で。できれば触れられたくない話題である。

「ほ、ほかの部位の装備も見たいかな」

 強引に話題を変えた。おやっさんはまだ話したそうだったが、俺の無言の圧力を感じ取ったらしく。その後は話題が黒い悪魔に移る事無く装備を選び終えた。

 最終的に俺が選んだ装備はレザージャケット、レザーグリーブ、後は頭を守るためのレザーヘルムである。武器は必要ないのだが、おやっさんの勧めで小さなナイフを一つ買った。魔物を解体したりするときに使うらしい。

 そしてお待ちかね。精算のお時間だ。

「全部で26カルドだ」

 金が無い?ははは、そんなわけ無いだろ。俺は身を削る思い(本当に若干削れた)でためてきた虎の子の30ガルドが入った麻袋を取り出しきっちり26ガルドを払った。

 武具って高いね。まあ、リディアと俺の世界では物価が異なるから仕方ないんだけどね。正直リディアの物価は高い。日本でいう食パン一斤がとんでもない値段だったりする。まあ、小麦オンリーの白い食パンなど庶民のお口に入るのは年に一、二回だろう。たいていはライ麦や燕麦の硬いパンをスープにつけながら食べるのだ。しかし、これらのパンでも俺の世界より値が張る。

 しかし意外なのは、税金がかかってないからなのか、生産に特別な許可が必要ないからなのか、酒や煙草などの一部趣向品は安い。俺としては首をかしげたくなるような値段設定だが、そこは異世界。大多数の人間が朝から晩まで働いても生きてくのがやっとの世界だ。酒でも飲まなきゃやってられんのだろ。俺もそうだし。

 金を払い武器屋を後にした俺は、件のAランク魔法師との合流場所へと向かった。

 そこで俺は自身の行動に頭を抱えることになるとは、この時は思いもしなかったが。

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