八月二十日「ラダーの寄生先」
「……ダメだ」
「えっ!?」
ラダーに寄生されるという宣言をした後、俺は紀坂さんに色々と体を調べられた。
「長い間ラダー、つまりは異物を体の中に入れていたからな。お前の身体はハリガネムシに対して拒絶反応を起こすようになっている」
口を開く前に、紀坂さんは続ける。
「これは自然な事だ、異物に対して抗体が出来ただけ。だから対処はできる」
「なら……」
「数ヶ月、数ヶ月でハリガネムシに対する抗体を無くしてやる。それまではラダーはもちろん、ハリガネムシに触る事を禁止する」
「えっ……」
「その間は基礎体力トレーニングでもしておけ、もちろん軽いものに限るがな」
「数ヶ月……ですか」
「こればっかりは仕方がない」
紀坂さんはため息をついて俺の後ろ、ドアの方を見て声を出す。
「動いていいと診断した覚えはないぞ、怪我人」
「……え?」
少しの沈黙の後、ドアがゆっくりと開く。
「バレてましたか」
入ってきたのは卯月さん。身体は包帯だらけで簡易松葉杖を使っている。
「元々お前は気配を隠すのが下手だからな……で、なんの用だ」
俺が席を譲ると卯月さんは松葉杖を横に置いて座る。
「動けると判断したので報告に来たんですが……それより、さっきの話本当ですか」
「さっきの話……どれだ」
卯月さんは俺の方をチラリと見る。
「少しの間、ラダーは彼に寄生できないって話です」
「ああ、本当だ」
「ラダーに寄生されると回復能力が上がるんですよね」
「そうだな……」
卯月さんは語気を強くして、とんでもない事を言い出した。
「ならその間、私にラダーを寄生させます」




