八月十二日「記憶の目覚め」
俺が目を覚ましたのは八月の十二日だった。
体が動かない
「起きたか……
修二さんと壁を見つめながら考える。何故体が動かない?
心の中でラダーに問いかける。
何が起きた?
「…………」
待ってもラダーから返答は無い……何故?
「どうした」
修二さんに向かって口を開く、声は辛うじて出るようだ
「ラダーからの返答がありません」
「ラダーか……ちょっと待ってろ」
修二さんが違う部屋から水槽のような物を台車に乗せて運んできた。
そこに入っていたのは一匹のハリガネムシ。
ハリガネムシにしては大きく、強化ハリガネムシにしては小さい。
他のハリガネムシとは違い梯子のような輪っかの形をしたヒダがついている。
このヒダ……
「ラダー……?」
「やはりラダーか」
修二さんはベッドの下から椅子を取り出して座った。
「このハリガネムシは倒れていたお前の横で、お前を庇うように他のハリガネムシと戦っていた」
「ラダーが……」
ラダーを見ると所々に穴がある。ボロボロじゃないか
「こいつをラダーと判断したのは紀坂だ……ボロボロだが死んだわけでは無い」
回復が今までより遅いのもラダーがいないからだろう、と修二さんは付け加える。
ラダーがボロボロ……俺もボロボロ……
「あ……」
思い出した。思い出してしまった。
貫かれ、赤に染まった華奢な体……
感じられない脈……
「くっ……」
その時俺は思い出した。
凛は死んだのだ。
後悔が蘇る。
自分に怒りの感情が向いて今すぐにでも自分を刺し殺してしまいたい。
この時、俺の体が動いていれば確実に自殺していたであろう。
怪我で体が動かないのが、残酷にも俺を生きさせたのだ。




