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八月二十二日「本能」

 長さのわりに細い体に鋭い両端。ハリガネというよりはミミズを細くしたような気持ちの悪い姿。それが今までのハリガネムシであった。


 それがどうだろう今目の前にいるのはハリガネムシなのにハリガネムシらしくない。


 細い体にいかにも機械というデザインの小さい丸型の何かが規則的についている。両端は今までよりも鋭く、まるで注射の先端のような形だ。

 どちらも素材は鉄だろうか、いかにも硬そうな見た目だ。

 例えてしまえば両端が繋がっていない数珠のようである。


 長ったらしく説明したが状況を一言で説明すると


 ハリガネムシが武装している


「なに!? なんなんですかアレ!」

「落ち着いて……それどころじゃ無いっすよ」

 珍しく同様する稲葉を海藤がサポートする。

「どうしますか先輩」

「どうするもこうするも無いわ」

 そう、私達の目的は一つ

 私は声を張り上げる

「護衛対象を護る事を優先的に! 相手に関して気づいた事があれば何でも共有する事!!」

「は、はい!」

「了解!」

 近くにいるのはいつもの二人、他の人にも声は届いたようで様々な方向から返事が返ってくる。


 そうしてる間にもヤツらは近づいてくる。武装している分普通のよりは遅いのかもしれない。

「遅い……っすね」

「た、たぶん」


 正直何処までやれるかわからない、敵に関する情報は無いに等しいのだ。

「…………」

 私は無言でナイフを構える、余計な事を考えるな……護る事に集中しなくちゃ

 ヤツらが迫って来た所をやる……先手必勝なんて信じない。


 二人も同じように考えたのか全員違う方向を向いて無言で武器を構える。全員の後ろには凛ちゃんを乗せた機械がある。


 速度から見て後数秒か……三……二……

「……?」

 目の前から一匹のハリガネムシが消えた。ヒュンという音と風と共に右の頬が切れ、僅かに血が出る。

「え……」

 ハリガネムシは消えたのでは無い、飛んできたのだ。恐らくはさっきの機械____

「うおっ! 何だこいつら!!」

 考えている暇は無かった、凄まじい勢いでハリガネムシが飛んで来る。

「ここは一旦た……」

 退避といいかけて気づく、私達に直撃しなかったヤツらは何処に行く?

 そうだ、後ろの凛ちゃんの機械に直撃する。


「護る……」

 送り届ける、凛ちゃんを

 送り届ける、あの青年の元に……何としても。


 私は自分に言い聞かせる、本能を捨てろ……体よ、反射するな、動くな。

 両手を広げて自分の面積を出来るだけ大きくする。

 そのまま一歩一歩前に出る。


 私だ、お前の目の前にいるのは私だ

 私だ……私を

「私を狙え!!」

 私の大声に反応してヤツらの一部がこっちを向く。

 無抵抗で大きい的

 ヤツらにとって私は格好の餌


 私は本能を捨てた、危険を感じて避けはしない、逃げもしない。ただ受け止める。

 私は捨てた……お前らは、どうだ。

 本能のままに、思うままに……

「こいっ!」


 まずは左腕に一匹が刺さった

 次に右肩から骨の砕け散る音が聞こえた


 次に右横腹、次に左足、次に左肩、次に右手____

 ヤツらから見れば硬く見えるであろうヘルメットのある頭と防弾チョッキのある胸を無視してヤツらは飛んでくる。

 そして私に突き刺さり

 本能のままに、私の肉を抉る

「…………」

 痛すぎて声も出ない、全神経が痛みを感じとり何も聞こえ無い、視界もぼやけてきた。


 ヤツらの勢いで倒れないように足を踏ん張ろうとするが力が入らない。いや、力の入れ方がわからない。

 意識が朦朧としてくる。私は何をしている?

 意識が朦朧としていくに連れて時間が遅くなっているように感じる。

 一秒が数十秒にまで引き伸ばされたような感覚だ。


 痛みが和らぐ、突き刺さる感覚はまだ続く。

 全身の筋肉が力を失い後ろに倒れ……倒れ……

 倒れるわけにはいかない、どうにか踏みとどまらなければ。

 どうにか……どう……に


「凄まじいな、お嬢さん」

 はっきりと聞こえた懐かしい声。

 誰だ? 志奏さんじゃない、でも志奏さんに近い……近くにいた……


 思考はそこで途切れた、感じるのは感覚だけ。

 凄まじい痛みと血のでる感覚。

 見なくても分かる、このままじゃ死ぬ。

 倒れた私の上に誰かが立ち、口に何かを入れた。


「……!?」

  なんだこれは、喉が痛い、身体中の水分が消えていくような感覚だ。

 それと同時に感じるのは肉を抉っていたハリガネムシが動きを止めるのと自分の血が止まるという物。


「ほら! 飲みやがれ」

 誰かが私に水をかける……蒸発するかと思った……

「先輩!!」

「しっかりしてください!」

 海藤……稲葉……護ってなきゃダメだよ

「さっきの化学薬品で体の表面と筋肉の間を一度瞬間的に乾燥させた……血も止まっているだろう」

 誰だ?

「そ、そんな事していいんすか?」

「実験段階だから知らん、でも数日は自力で動くな、一度乾燥した筋肉が崩壊する」

 聞いたことがある声だ

「ええ!?」

「後水分を大量に飲ませておけ、刺さったハリガネムシを抜く時は慎重にな……とりあえず俺らの所に運べ」

 でも……護らなきゃ

「何だお前その顔は……あの変なハリガネムシなら俺の班が止めてるから心配すんな」

「でも……」

「うっせぇぞ、男がぐちぐち言うな! 海藤」

 海藤を……知ってる?

「てか紀坂さん何でここに! ……じゃなくて先輩を!」

 紀坂……さん


 懐かしい名前を認識した所で、私の意識は途切れた。


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