八月二十日「護衛任務」
「その……本当にいいんですか?」
私が聞くと博士は真剣な面持ちで頷いた
「この子が唯一反応した人、彼を前にすれば何か変わると思うんです」
ラダーの名前を口にしたのは気になりますけど、と博士は笑った。
「ラダー……」
特別個体No.3名称ラダー。
完全人工のハリガネムシでその行動から自分をハリガネムシより人間に近い者として認識しているかもしれない個体。
寄生する事はあっても人間を襲う事は無いと思われ、特に話題にもならなかったその個体。凛ちゃんはその名を塚井拓人という少年の名前と共に口にした。
その理由、その意味はわからない。
それでも私がする事は決まっている。
私は博士に向かって敬礼する
「護衛班長卯月、石持凛を塚井拓人の元に送り届ける事を約束致します」
「お願いします」
博士はそう言うと凛ちゃんを抱きしめた
「行ってこい、凛」
「では……」
海藤が凛ちゃんが保護機械の中に入れる。
ドラム缶をそのまま大きくしたようなその機械は博士が作った物で、ハリガネムシの攻撃もある程度は耐えるという。
欠点として大きさから中に入った人は殆ど動けないというものがあるが、今の凛ちゃんにとってはなんら問題の無い事だろう。
機械は私達の後をつけるように設定されており、緊急時には海藤が操作する事となっている。
稲葉が小走りでこっちに来た
「先発隊、出発しました」
「わかった」
今回の構成は三つに分かれている。
まずは警護班を中心に作られた先発隊。ハリガネムシをいち早く発見し、主に戦う隊である。
次に私達卯月班含めた数班からなる護衛隊。凛ちゃんが入っている機械を守る隊である。
最後に殆どが救護班からなる救護隊。勿論怪我人の救助をする班である。
「護衛隊、出発します」
私達は機械を中心にして隊列を組んで出発した。
護衛任務の始まりである。




