八月十八日「塚井拓人」
凛ちゃんを救護して数日、凛ちゃんは今だに反応を示さない。
口に食べ物を持っていけばちゃんと飲み込む、石持博士が毎日三食食べ物をすり潰して食べさせている。
凛ちゃんの主な世話は私の班に任せられ、一時的に救護班を離れた形となる。
石持博士は隊員が持ち帰った特別個体No.1パワーの死体の一部の検査もしていた。
パワーの死体と同時に持ち帰られた二つの剣、それが誰の物かを調べる為に近くの施設にかろうじて残っていた機械でDNA鑑定を行っている。
「石持さん、鑑定の結果が出たんですが……」
隊員の一人が歯切れ悪く言う
「ど、どうしました?」
「その……人間じゃないDNAがありまして」
「人間じゃないDNAですか……その……人間の方の鑑定はすんでいますか?」
隊員が一枚の紙を石持博士に渡した
「塚井拓人……治安維持隊のデータベースによればごく普通の一般人ですね」
お忘れかもしれないが治安維持隊は警察的組織であり、主な一般人のDNAはデータとして保管されている。
「塚井拓人……」
私がそう呟いた時、凛ちゃんの手が少し動いた気がした。……気がしただけかな
「データが壊れて無くてよかったっすよね」
何処からか機材を運んできた海藤が言って石持博士に質問する
「で、その人間じゃないDNAってのは何なんすか?」
石持博士は隊員が持ってきたもう一つの資料を読みながら
「たぶんパワーの物だと思うんですけど……!?」
「どうしました?」
「……これはパワーの物じゃない、No.3ラダーの物です!」
石持博士以外の全員が首を傾げる
「特別個体の一つです、でも何故この塚井君とラダーの物が……」
「……あ」
小さく発っせられた聞きなれない声に全員がそっちの方向を見る
「……凛?」
声を発っしたのは凛ちゃん、この数日間全く動かなかった凛ちゃんが始めて反応を示した。
「凛……?」
石持博士がいくら呼びかけようが凛ちゃんは再度反応を示さない。
私は少し考えてデータベースに塚井拓人の名前を打ち込んで検索した。
「……やっぱり」
出てきたのは地域防衛自衛隊の少年だった。
塚井君の写真が映し出されたモニターを凛ちゃんに向けてみる。
「……たく、……らだ」
凛ちゃんが反応を示した。
「凛……そうか」
「博士? どうしました?」
「皆さんお願いします」
石持博士が真剣な顔で私達にいきなり頭を下げた。
「この子を、凛を地域防衛自衛隊に送り届けて下さい」




