八月一日 「ラダー」
「えっ……きゃ……」
そんな一瞬の沈黙の後、凛は悲鳴を上げた
俺も混乱していたがそれどころでは無い。
男性の上半身は爆発して無くなった
しかしそこには変わりにハリガネムシがいた。
ハリガネムシは男性の下半身から這い出てくる。
吐き気を堪えて凛を抱きかかえて後ろに下がり、呟いた。
「……なんだアレ」
出てきたハリガネムシは普通のハリガネムシとは違う形をしていた。
細長いその体からは鎌のような形をしたひだが何本も生えている。
「凛、大丈夫だ」
血に染まった手を見つめて震える凛を座らせて前に立つ
「ラダー、疲れてる所すまないが手伝ってくれ」
[Yes、ラダー、守る]
右手を前に突き出してラダーの磁場を使う、しかしハリガネムシはその磁場を無視するかのごとく動き回る。
「やっぱり駄目か」
今までも大型などには効かなかった、弱い、普通のハリガネムシにしか効かないのだろう。
俺は二本の剣だけを持ち腰についていた鞘を投げ捨てる。
「ラダー、行くぞ」
[Yes、GO]
俺は手に力を込める、謎のハリガネムシは他の個体より知能が高いようで本能のままには襲ってはこない。
少しの沈黙の後、ハリガネムシがヒダをうねうねと動かして先を尖らせた。あのヒダ一つ一つが鎌のように凶器となるのか。まるで死神だ。
これは退避も視野に入れるべきか……
何本ものヒダが伸びて俺を切り刻もうとする。ラダーのサポートが無ければ今頃やられていただろう。
左手が適切な方向に勝手に動き、俺は右だけに集中する。
ヒダを何本か切った所で俺は決めた。
「凛! 逃げるぞ!」
血を見て放心状態の凛を足で軽く蹴る。
「あ……え……」
耳に入っていない、ならば……
「ラダー! ブレイク!」
練習中に決めていたラダーとの合図、本能的に脳が抑制している力を使う為に抑制を消す合図だ。
[Yes]
左手に異常な力が入る、そのまま左手で凛を軽々と抱える。
飛んできたヒダ数本を切り裂いて俺は走り出した。
凛を抱えた左手がミシミシと鳴り響く、痛みはラダーが消してくれているようだが長くは持たないだろう。
しかし脳の抑制有りで逃げ切れる自身は無い、一か八かだ。
ドアまでもう少し、しかし左足に痛みを感じた。
ハリガネムシが刺さっている。
痛みに耐えきれずに倒れた俺に寄生しようとハリガネムシはグイグイと肉を押しのける。
「あ……いっだぁぁ」
掴もうとしてもヒダがそれを邪魔する。
ここで寄生されるわけにはいかない、せめて凛を
[keep out!!]
ラダーが今までに無い大きさを俺に伝えた、いや叫んだ。
ラダーが左手から足に移動するのを感じた。ハリガネムシが俺の中から出て行く。
その時、俺は見た。
他のハリガネムシとは違い梯子のような輪っかの形をしたヒダがついたハリガネムシを。
まさにその名で呼ばれるに相応しいハリガネムシを。
「お前が……ラダーか」
そう呟いて俺は意識を失った。




